Interview | ASUNA


積み重ねるというよりは、遡ってゆく感覚

 オルガン、ギター、ミニ・キーボードといった生楽器、ローファイ玩具やジャンク品、サンプラー、PCまで、様々な素材を楽器として創作の現場に投入し、煌くエレクトロニクスから牧歌的なトイ・ミュージック、深遠なるドローンまで多彩なスタイルを聴かせる石川・金沢のクリエイター、ASUNA。ソロワークのみならず、安永哲郎(minamo)や飛田左起代(the medium necks)、Jeff Fuccillo、Jason Funk(IRVING KLAW TRIO)と組むアヴァン・ロック・バンド“HELLL”をはじめとする数多くのコラボレート・ワークも展開し、『Casiotone Compilation』シリーズでおなじみの8cmCD専門レーベル・aotoaoや、加藤りま作品などをリリースするカセットテープ専門レーベル・WFTTapesも運営する才人が、2013年のレコード・デビュー10周年を経て新作『Aihara 1825, City Heim Kiri B-207』をリリース。南波一海がマスタリングを担当した2008年の『THIS』以来5年ぶりの同作は、前作同様2CDの大作。10周年に相応しく、これまでに見せた要素を踏まえながらも新たな側面を導き出した仕上がりです。作品について、10年の歩みを振り返りつつ語っていただきました。

取材・文 | 久保田千史 | 2013年9月


――『Aihara~』は『THIS』(2008, HEADZ)以来5年ぶりの新作ですよね。

 「何もしていなかったわけじゃないんですけど、気付いたら5年間何も出てなかったんですよね」

――全然、止まっていた印象はないですけどね。
 「そうですね。佐藤 実 -m/sさんやshibataさん、畠山地平さんとの共作アルバムとか、GofishやAndy C. Jenkinsのアルバムに参加したり、海外へのツアーもたくさんあったし、レーベルもやってるので。忙しかったわりにソロはずっと出ていなかった、みたいな感じですね。だから、自分でも“もう5年も出てないんだ”って思いました」

――活動10年目ということなので、折り返し地点?からの集大成という感じですよね。
 「いや、ASUNAとして今のような音楽を始めてからはもう16年目くらいで、Lucky Kitchenからの1stアルバム『Organ Leaf』のリリースから10周年ということなんです。自主でリリースしていた『Each Organ』(円盤より2013年にオフィシャル・リイシュー)を最初とすると11年目だったりするんですけど」

――ご自身では、10年の間に音楽的な部分で何が一番変わったと思われますか?
 「特に何かが変わったという感じはないですね。今回のアルバムには高校生の時に録った音源も使ってるくらいなので。リード・オルガンと電子音響のドローンが主軸だった『Organ Leaf』の後、ギターやクラリネットなど器楽演奏を中心にまとめた『Room Note』(2006, PowerShovel Audio)を出した時に、周りから“変わった” みたいなことを言われたりもしたんですけど、でも実際の録音は両方とも同時期だったりして。10代の頃は初期のBOREDOMSとかBUTTHOLE SURFERSみたいなジャンク / ハードコアなバンドをやりながら実験的な電子音響とかミニマルやローファイ、現地録音とか、なんでも等価に大好きだったので、衝動でがんがん録音するにせよ、時間をかけてゆっくり練り上げて録音するにせよ、アイディアを形にするためには楽器や音楽性だとかはあまり考えてなくて。ローファイなオモチャとかコンピュータの電子音を使うのも同じ感覚で遊びながら鳴らして作ってるだけなんです。それらの録音物をアルバムとしてまとめる時に、作品のアイディアやコンセプトごとに録音したものの中から拾い集めてくるので、アルバムごとに違う印象に見えるかもしれないけど、方法論が違うだけでどれも自分の音楽として作品に一貫した特徴があるのは聴いてもらえればわかると思います」

ASUNA

――このアルバムは、その“変わった”と言われていたようなポイントが全部入っているまとめ方ですよね。
 「そうですね。10年前『Organ Leaf』のリリースの頃とは違って、ここ数年で急に世界中で隆盛してきた安易なドローン / アンビエントに辟易していて、新しい地平を探るために断続音の生演奏を100トラック重ねて制作した曲とか(“Intermittent Note, 99 Tones, 46 Keyboards.”)、10年以上前から断続的にアナログ・シンセだけで制作していた曲も溜まっていたので、それをまとめた曲とか(“Sewing Grid Steps, 19 C Patterns, 2 Blue Synths.”)、コンピュータ、オモチャ、ギター、オルガン、環境音などあらゆる楽器 / 音響で録り溜めていた30以上の小曲をひとつの物語として流れを形作って制作した楽曲(“Mountain Between Ice Cream from 30 Room Notes.”)とか、他のアルバムとは違う方法論で制作したものばかりですね」

――これまでも見せてきた要素を単純に並べるのではなく、組み合わせや聴かせ方で全く新しいものに作り変えているような印象を受けたのですが、いかがでしょう。
 「曲ごとのアイディアや方法論など常にバラバラなものが同時にたくさん存在していて。それが5年間溜まっていたので、その分がっつりしたアルバムができたかな、とは思います」

――拠点を金沢に移したことは何か影響しているのでしょうか。
 「どうなんでしょうね。とにかく東京に住んでいた時は生活がめちゃくちゃで、何も考えずただ音楽が好きでやってるだけで、それ以外の事に関しては完全に思考停止状態だったというか。そのせいでぼんやりし過ぎて、気がついたら周りからズタズタにされてたというか……。金沢に移ってからもずっと調子は悪かったんですけど、ようやく最近になって自然な状態に戻ってきたかもしれないです。実は去年HEADZの佐々木 敦さんが金沢に来ていて、久しぶりに会った時に“アルバムまた作ろうよ”って言ってくれて。それが嬉しくて、ようやくやる気も出てきて。これまで膨大に録音して溜まっていた音源を色々聴き返してみたら、その中で面白い再発見がたくさんあって。“あ、すげー良い音楽作ってたじゃん自分”って思って(笑)。馬鹿みたいですけど。まあ、本当に忘れっぽいので、昔の音源が新鮮に聴こえたのと、昔は気が付けなかった要素がまだまだ自分にあったな、と再認識できたんですね。そこから新しい録音も少しずつ始められるようになって」

――『THIS』の時はお母さんのお写真をジャケットに使用されていましたけど、今回の写真もお母さん?
 「『THIS』のジャケットと同じように母親が高校生の頃の写真ですね。『THIS』も『Aihara~』も佐々木 暁さんにデザインしていただいたんですけど、『THIS』を出すことが決まった時点ではジャケットについて全くアイディアがなかったんです。そこでひとまず暁さんと打ち合わせをすることになったんですけど、暁さんはデザインのイメージの話とかではなくて、“どういう風にこの曲を作ってるの?”って『THIS』の曲作りのことを訊いてきたんです。『THIS』のほとんどの曲は終わりの部分から最初に戻っていくような、時間を積み重ねるというよりは、遡ってゆく感覚で作っている、っていうことを話したら、暁さんは“そこに核となるものがあるんじゃないか”ってヒントをくれて。2人で話していくうちに、“自分が生まれた実家に遡って行けば何かあるかもしれない”ということになって(笑)、翌日すぐに実家に帰ったんですよ。そこで見つけた昔の絵とか写真をたくさん暁さんに送ったら、ああいうデザインになって上がってきたんです。その打ち合わせから完成までの流れにすごく納得できたというか、『THIS』はこのジャケでしかあり得ない作品だと思えて。だから『Aihara~』でもデザインは暁さんしか頭になかったです」

――“お母さんに捧げる”みたいな感じでは全然ないんですね(笑)。
 「そうですね。でも実は、アルバムで使われてる子どもの声って、小さい頃の自分自身の声なんです。母親が昔カセットで録音した音も使っているわけだから、ジャケとして間違ってはいないですよね(笑)」

ASUNA 'Aihara 1825, City Heim Kiri B-207', 2013
ASUNA ‘Aihara 1825, City Heim Kiri B-207’, 2013

――例えば、特定の個人や状況に対して作品を作るような方もいらっしゃるわけじゃないですか。ASUNAさんはそういうことはないのでしょうか。
 「“誰かのために”とかっていうのはないですね。“誰かのために何かしてる”って公言するような人って、大抵は“そうしたい自分”っていうのを他人に押し付けているだけのような気がするし。もちろんそれを否定するわけではなくて、ただ自分にとっては音楽の制作とそういった感情的な部分は切り離されてるというか。もし作られたものが結果的に誰かのためになっているのだとしたら、それはそれで良かったんじゃない?っていう。自分のレーベルの運営にしても、“友達のために”みたいなことは全くなくて、ただその人の作る音楽や作品が好きだから出してるだけですね。個人の人間性よりも、その人の作品そのものを信頼できることの方が、より相手にとって誠実?な気がします。たぶん……。どうなんでしょうね……。どっちでもいいと思います(笑)」

――aotoaoでは、8cm CDでのリリースを続けていらっしゃいますよね。これはどういった拘りなのでしょうか。
 「もう今となってはどういうきっかけでそうなったのか忘れてしまって(笑)。昔から山塚アイの『DESTROY 2』とか、Alvin Lucierのトライアングルのやつ(『Silver Streetcar For The Orchestra』)とか、Metamkineの映画シリーズとか、ああいった、音と物が直結したシンプルさと可愛らしさみたいなものを8cmミニCDに感じていたからだとは思うんですが、普通のサイズのCDを作るよりもコストがかかる上に、売値は半分だし……。これって続ける意味あんの?とも毎回思うんですけど(笑)。と言いつつ次のリリースは『Casiotone Compilation Vol.5』なので結局ミニCDで続いちゃう感じですね」

――フル・アルバムとか、ヴァイナル・リリースなんかは考えていないんですか?
 「ヴァイナルで7inchのレーベルとかソノシート専門レーベルっていうのもやりたいんですけど、どうしてもコストがかかるんですよ……。お金があればやりたいです(笑)。フル・アルバムは……、“He Who Me!”っていう名前のアルバム3枚組専門レーベルを考えていて、そういう極端な感じだったらやるかもしれないです。カセット・テープ専門のWFTTapesっていうレーベルも6年ほど前からやっているんですが、海外だけではなくて日本でもここ最近、リヴァイヴァルで急にカセットで出す人が増えて来たせいで少し飽きちゃって。停滞しているんですけど、カセットはやっぱり好きなので、また出します。黒田誠二郎(ゆすらご, Gofishトリオ)のソロ・アルバムとCat Sand(安永哲郎 + Moskitoo)のアルバムを来春リリースする予定です。ミニCDのレーベルはいつまでやれるのか……」

――ファンとしては続いてほしいですけど(笑)。
 「ありがとうございます。じゃあなんとか来年いっぱいは続けようと思います(笑)」