Interview | EARTH CRISIS


マイノリティなのは理解してる

 1990年代初頭に米アップステイトNY・シラキュースから登場し、“ハードコア・パンク = 速い”の概念を破壊するスロウかつタフでメタリックなリフワークに、MINOR THREATの歌詞解釈から生まれた“ストレート・エッジ(Straight Edge)”と“完全菜食主義者”または“純粋菜食主義者”と訳される“ヴィーガン(Vegan)”をミックスした“ヴィーガン・ストレート・エッジ(以下 xVx)”のメッセージを乗せるスタイルでUSハードコア史を更新した重鎮・EARTH CRISIS(以下 ExC)が、2001年の解散から約6年の時を経て2007年に復活。今年は『Slither』以来9年ぶりのオリジナル・アルバム『To The Death』をCentury Media Recordsからリリースし、完全カムバックを果たしています。奇しくも4月22日の“アースデイ”が発売日となる同作の日本盤リリースを記念して、ギタリスト / メイン・コンポーザーのScott Crouse(FRAMEWORK, ISOLATED, THE PATH OF RESISTANCE)にアルバムとxVxのライフスタイルについてメールで伺いました。

取材・文 | 久保田千史 | 2009年2月
翻訳 | 山口洋佑

see also A quick guide for finding xVx


――最新作かっこいいです!2007年に再結成した時点で、アルバムを制作する意志はあったのでしょうか。再結成からリリースまでの道程を教えてください。

 「再結成して最初のライヴをやる前に、みんなでExCの新しいアルバムをレコーディングする話をしたよ。僕は自宅のスタジオでExCを想定した曲を書き溜めていたから、その段階ですでに選ぶ素材がたくさんあったんだ」

――初期のシンプルなものでも、後期のモダンなものでもなく、中期のサウンドをアップデートした仕上がりとなっているのは、意図的なものなのでしょうか。
 「真剣な話、僕たちは過去を再生産したかったわけじゃない。とにかくヘヴィなExCのアルバムを録っただけだよ。新しい曲が少し昔の僕らに似ているのは自然なことなんじゃないかな。少しモダンな感じが加わっているとは思うよ」

――再結成以来、ExCを目指して結成されたような若いバンドとも多くステージを共にしたことと思います。制作にあたり、そういったバンドから影響を受けることはありましたか?
 「それはないね。常に他人がやっていることを避けて、僕たちだけの音楽を突き詰めているから」

――以前よりも直接的な歌詞が増えているように思うのですが、xVxバンドとしての原点回帰とうことなのでしょうか。
 「歌詞については最小限のかたちにする必要性を感じたんだ。Karl(Buechner / vo)は僕にとって最高のリリシストで、いつもフレッシュなやり方でバンドの核となる理念的な部分を担ってくれている。彼はくどい感じに聴こえないようにすごく努力していて、それは今回のアルバムでもかなり上手く行っていると思う」

――ExCの特徴的なメッセージであるxVxというライフスタイルについて、分かりやすく教えてください。
 「もちろん。ストレート・エッジは煙草、アルコールを含むあらゆるドラッグを摂取しないライフ・スタイルを実践すること。ヴィーガニズムは、あらゆる動物由来の製品なしで生活すること。肉、乳製品、毛、皮、動物から作られるあらゆるものだよ。僕たちは、動物たちが人間の利益のために慎みなく殺され、虐待されている事実に対する抗議として実践しているんだ。健康の面から見ても良いことなんだけどね」

――ExCの歌詞には聖書を引用した歌詞もありますが、宗教的な意図はないでんすよね?xVxというライフスタイルの選択には、単純に動物がかわいいから、自身の健康のため、食肉の“生産”を否定することで隠されたシステムを浮き彫りにする、意志を持つ生物の権利の尊重など様々な理由が考えられますが、ExCの場合はどこからスタートしたのでしょう。
 「うん、宗教的な考えからではないよ。でも僕個人としては、とてもスピリチュアルなものではある。肉や乳製品、その他動物性の製品からは、僕たちの日々の生活に影響を及ぼす負のエネルギーを感じるんだよね。ExCがヴィーガン・ライフスタイルに拘るきっかけになった理由は、君が挙げたすべてだよ。簡単にまとめると、不必要な殺生は正しくないことで、倫理に反すると感じるんだ」

――あなたはExCの前身バンドFRAMEWORKをはじめ、THE PATH OF RESISTANCEやExCが1度解散した後に結成したISOLATEDでも、メタリックでタフなハードコアを用いてxVxをアピールしています。メッセージを伝えるにあたって、例えばJohn Denverのような耳あたりの良い音楽を選択しないのはなぜでしょう。
 「みんなは、僕たちがメッセージを伝えるためだけにこのバンドを始めたって誤解しているようだけど、そんなことないよ。僕たちはメタルやハードコアのファンで、ミュージシャンなんだ。すごくヘヴィな音楽をやろうと思ってバンドを始めて、後から社会的、政治的に強く思うことをみんなに伝えようと考えたんだ」

――xVxではない友達もたくさんいらっしゃると思いますが、どのように接しているのでしょうか。その方たちもxVxだったらいいなあ~ってやっぱり思いますか。
 「ほとんどの場合、僕たちは気楽に付き合える連中だよ。でもそうだね、xVxの浸透した世界は見てみたいな。きっと今よりもっと平和な世界なんじゃないかな。でも僕たちは現実的だから、xVxがいつもマイノリティだってことは理解してるよ」

EARTH CRISIS / photo ©<a href="https://nathanielshannon.com/" target="_blank" rel="noopener"><span style="color: #ffffff;">Nathaniel Shannon</span></a>
photo ©Nathaniel Shannon

――xVxとして生活していて良いこと、大変なことを教えてください。
 「ドラッグや、動物由来の製品を摂らない生き方を選ぶと、様々な形で社会から離れることになるね。大抵の社交的な場はアルコールを摂取したり、動物性の製品を食べることに関係しているからね、のけ者になったようで時々辛く感じることはあるかもしれないな。でもそれは、さらに良いことを得るための犠牲なんだよ」

――xVxを目指す方のためにアドバイスを。これはおいしいよ!という食べ物や、ヴィーガン向けの製品を扱うアパレル・ブランドなど教えてください。Vansなんかは、ヴィーガン・ラインがありますよね。
 「最近では、醤油と小麦をベースにした肉の代用食がたくさんあるし、乳製品の代用食もいろいろあるよ。アメリカは基本的に肉とポテトが主食だから、ヴィーガンになる人は最初、その習慣を肉の代用食で紛らわそうとするんだ。僕のおすすめは、フルーツ、穀物、野菜、マメ類でできた食べ物。もし興味があればPeTAgoveg.comを見てみるといいよ。ためになる情報がたくさん載ってるから」

――近年おすすめのxVxバンドのアルバムを5つ教えてください!
MAROON『Cold Heart Of The Sun』 Century Media Records, 2007
HEAVEN SHALL BURN『Iconoclast』 Century Media Records, 2008
EARTH CRISIS『To The Death』 Century Media Records, 2009
NUEVA ETICA『3L1T3』 Spark Records, 2008
ANCHOR『Captivity Songs』 Drastic Actions, 2007

――好きな動物と、その好きな理由を教えてください。僕は他種をも肉食動物から守ることがあるという、カバが好きです。
 「白熊が好きだなあ。ほんとキュートだけど、君たちの頭を引き千切るかもしれないよね!」

| A quick guide for finding xVx

Hiroyuki 168 aka GODNA | LOYAL TO THE GRAVE | Retribution Network

[V] CONVICTION『Kill It』 Thorp Records, 2001
[E] TALISMAN『demo』 1995
[G] ANOTHER VICTIM『A Bitter End』 Closed Casket Activities, 2009
[A] CONTEMPT『Early Years』
[N] xEDGEx『Man In Black』 Four Rivers Media, 2008

[V]CONVICTIONのディスコグラフィCD。とにかく重い、EARTH CRISISに最も影響を及ぼしたJim Wintersが在籍するバンド。Old 2 Newなサウンドが素晴らしいです。[E]TALISMANのデモテープ。シラキュースのGATEKEEPERとUxS HARDLINE、そしてUNBORN / STATEMENTのメンバーがプロジェクトでリリースした音源。DAY OF SUFFERINGばりにメタリックかつ厳格なサウンド。[G]ANOTHER VICTIM待望の完全ディスコグラフィ。シラキュースにCTHC / NYHCの極悪テイストを加えたBrutal Moshyなスタイル。[A]50枚限定、NYのCONTEMPT初期ディスコグラフィ。デモ、コンピ、リミックスなど多数収録。EARTH CRISISと同じくメタリックで冷たいサウンド![N]最後はxEDGEx!ex-SENTIENT、VEGAN REICH、SEVEN GENERATIONSのメンバーでもあるJohnがラップ・アーティストとしてリリースした1st CD!ハードコア、ヒップホップからレゲエに至るまでトータルでドープなサウンド!

Koba 168 | BIRTHPLACE, LOYAL TO THE GRAVE, UNBOY / Militia inc.

[V] EARTH CRISIS『Forever True』 Victory Records, 2001
[E] GREEN RAGE『Disinfect』 Reflection Records, 1993
[G] DAY OF SUFFERING『Eternal Jihad』 Catalyst Records, 1997
[A] MAROON『Antagonist』 Catalyst Records, 2002
[N] NUEVA ETICA『3L1T3』 Drastic Actions, 2007

[V]90年代ニュースクール、ヴィーガンSxEを世に知らしめた生き伝説のベスト盤。今回の新譜でExCの虜になったkidsがいれば、ここからDigってみては?![E]ExCなど多くのバンドを生んだシラキュースNYの元祖アンガー。終始怒り狂い過ぎ。[G]あのHEAVEN SHALL BURNが、今でもフェイヴァリットに挙げるニュースクール重要バンド。[A]MORNING AGAIN直系過ぎるサウンドと、CANONのカバーに話題集中。新譜『ORDER』も要チェック。[N]South American Mosh Machine、奇跡的来日(5月9日 @東京・初台 WALL)。

Ho Lee Kwen | emu, EVERLAST, UNBOY | Canvas Zin

[V] EARTH CRISIS『Destroy The Machines』 Victory Records, 1995
[E] POINT OF NO RETURN『Sparks』 Liberation, 2000
[G] SHOREBREAK『Path Of Survival』 Good Life Recordings, 1998
[A] DRIVEN『Cowardice Consumer Of The West』 Good Life Recordings, 1999
[N] CHOKEHOLD『Content With Dying』 The Great American Steak Religion / Bloodlink Records, 1995

[V]朝からビーフで有名なアメリカでヴィーガンSxEをしていたこと自体が素晴らしい。当時PANTERAよりヘヴィだと思いました。初めて聴いたヴィーガンSxE。[E]シュラスコで有名なブラジルでヴィーガンSxEをしていたこと自体が素晴らしい。Catalyst Recordsならではのショボサから一転。MERAUDERばりの攻撃力とトリプル・ヴォーカルがツボ![G]闘牛やイベリコ豚で有名なスペインでヴィーガンSxEをしていたこと自体が素晴らしい。SHAI HULUDやMORNING AGAINのファンもいけるだろう。速いが極めてニュースクール![A]マリワナOKで有名なオランダでヴィーガンSxEをしていたこと自体が素晴らしい。圧倒的にオリジナルなハードコアサウンド。単音で攻め立てるドラマチックな展開が幸せにさせてくれる。[N]留学のメッカとして有名なカナダでヴィーガンSxEをしていたこと自体が素晴らしい。これぞアンガー・ニュースクール。怒りをぶちまけたボーカルとチュガチュガモッシュパートが留学生活をエンジョイさせる。

タナカヒロシ aka Dr.Doom | Doom Patrol Foundation

[V] EARTH CRISIS『Destroy The Machines』 Victory Records, 1995
[E] CULTURE『Heteronome』 Good Life Recordings, 1997
[G] SOULSTICE『Raze The Earth』 Lifeforce Records, 1997
[A] ANCHOR『The Quiet Dance』 Catalyst Records, 2008
[N] PRAYER FOR CLEANSING『The Rain In Endless Fall』 Tribunal Records, 1999

[V]EARTH CRISISはすべての音源がマストだと思ってますが、あえて1枚選ぶとしたら最も衝撃受けた1stアルバムを。ヘヴィの意味を、この作品の1曲目「Forced March」が教えてくれます。[E]MORNING AGAIN、SHAI HULUD、AS FRIENDS RUSTなどを転々としたカリスマ・ヴォーカリストと言えばDamien Moyal。Damienと言えばCULTURE。CULTUREと言えば、実はこのラストEPが最も狂ってます。[G]EARTH CRISISと同じく、シラキュース・シーンで重要なバンド。マシーナリーで硬質なギターがまさにシラキュース・サウンドですが、リズムが軽快なので意外とキャッチー。っていうか踊れます。[A]スウェーデンの現役若手バンド。90年代中期、REFUSEDやABHINANDAが、アメリカのVictory Records、New Age Recordsのバンドの影響を受けていたように、彼らは今まさにそれを再現してます。[N]BETWEEN THE BURIED AND MEのメンバーが以前やっていたバンドです。ほぼメロデスな音楽性のニュースクール・バンドは決して少なくないですが、どれもこのバンドのレベルには達してません。

久保田千史 | clinamina

[V] ABNEGATION『Verses Of The Bleeding』 Good Life Recordings, 1997
[E] CANVAS『Lost In Rock』 Household Name Records, 2000
[G] EIGHTEEN VISIONS『Lifeless』 Life Sentence Records, 1997
[A] CHOKEHOLD『Content With Dying』 The Great American Steak Religion / Bloodlink Records, 1995
[N] BURN IT DOWN『Burn It Down』 Uprising Records, 1997

異なるジャンルに繋がるものを選んでみました。[V]後にCREATION IS CRUCIFIXONでテック・グラインドの先鞭を付けたメンバーが在籍。本作では“サタンはドラッグ・フリー”と歌うブラックメタル・テイストを投入し、VENOMカヴァーもハマってます。[E]HUMANFLYでポストISIS的新世代英国エクスペリメンタル・ヘヴィロックの一端を担うメンバーが在籍。アブストラクトなアートワークも先見の明あり。[G]言わずと知れた人気バンドも激烈xVxでした。[A]RAMMERでロウ・スラッシュメタルの新時代を切り拓いたメンバーが在籍。[N]エピック・ドゥーマーTHE GATES OF SLUMBERの一員として活躍するメンバーが在籍。