Interview | Julia Holter


後から気付く要素

 Nite Jewel、Laurel Haloとの親交や、Linda Perhacsとのコラボレートなどで知られ、トイ・メイドの内省的なポップスからダイナミックなミュジーク・コンクレート、トラッド風味のフォーク・ソング、オーケストラルなスコア、シンセポップまで、様々な顔を見せてきた音楽家・Julia Holterが、オールディーズやクラシカルをAORのムードでアウトプットしたかの如き最新アルバム『Have You In My Wilderness』(2015, Domino)を携えて11月に初来日。コンサート直前の楽屋で、趣向の変遷や制作のプロセスについて伺いました。

取材・文 | 久保田千史 | 2015年11月
翻訳 | 原口美穂
main photo | ©Tonje Thilesen


――僕はMonika Enterprise(MALARIA!・Gudrun Gut主宰レーベル)からリリースされた4ウェイ・スプリット『4 Women No Cry Vol. 3』(2008)で初めてあなたの音楽を知ったのですが、その頃の楽曲と最新作を比較すると、ずいぶん作風が変化しましたよね。

 「そうですね。たしかに……」

――アヴァンギャルドな作風だった初期に比べ、近作はより“音楽的”な内容になっていると思います。
 「どうなんでしょう……。私自身はよくわかりません。作品の内容が毎回違うとは思いますが、特別どの作品でどう変わった、という感覚は持ち合わせていないんです」

Julia Holter 'Have You In My Wilderness', 2015 <a href="http://www.dominorecordco.com/" target="_blank" rel="noopener"><span style="color: #ffffff;">Domino</span></a>
Julia Holter ‘Have You In My Wilderness’, 2015 Domino

――初期の作品の頃は独りで制作されていたんですよね。
 「そうですね、『Ekstasis』(2012, Rvng Intl.)までは主に独りで制作していました」

――『Loud City Song』(2013, Domino)からはバンドと共に制作するようになりました。
 「『Ekstasis』でもいくつかの曲ではサックスやクラリネットなどをゲストに演奏してもらっているのですが、全面的にということであれば『Loud City Song』からですね」

――それによって、作曲面での変化はなかったのでしょうか。
 「作曲面での変化は特にありません。演奏陣が入ったことによって変わった部分があるとすれば、プロダクションですね。曲作りに関して言えば、私が家でデモを作るという作業自体に変更はないので、やはり最終的なプロセスで全く異なるものになってゆくという面が大きいです。『Have You In My Wilderness』に収録されている楽曲は、デモ・ヴァージョンを聴けばそこまで変化を感じないと思いますよ。実際、『Tragedy』(2011, MatthewDavid主宰Leaving Records)の頃にデモはすでに出来上がっていたんです。2011年頃ですね」

――そうなんですか!順を追って技術や作風が変化していったわけではないんですね。
 「そうですね。いくつかの曲は、当時作ったオリジナルのデモをネットで公開しているので、もしよかったら聴いてみてください」

――音楽を始められた頃からやりたい音楽が変化したわけではなく、環境が変化したということなのでしょうか。
 「というよりも、作家として、全体的な目的は特に定めていないんですよ。音楽をもっと深く探求してゆきたいという気持ちはありますが、“こういう音楽がやりたい”という一貫性はないんです。作品毎にそれは変わります。例えば『Tragedy』と『Loud City Song』は、シネマティックな音楽を作りたかったという点で目的が共通しています。“オーディオ・フィルム”のような感じですね。『Ekstasis』と『Have You In My Wilderness』は、同じ時期に作った楽曲のコレクションという側面が強いです。『Tragedy』の時は、もっとオーケストラのような大きい規模でアブストラクトな音楽を作ることを考えていたんですよ。『Have You In My Wilderness』では、歌詞に重きを置きました。そうすると必然的に声に注視することになりますよね。その結果、もっと“曲”の形式というか、先ほどおっしゃっていたように“音楽的”な、トラディショナルな音楽の作り方になっていったのだと思います。作曲にあたって違いがあるとすれば、そこが大きな違いです」

――『Have You In My Wilderness』を構成するにあたって、コンセプトのようなものはありましたか?
 「コンセプトと言えるものはないですが、今考えると、音楽的には1960年代のバラードやクラシックから影響を受けた作品なのだと思います。暖かいサウンドの黄金時代ですね。ただ、それを念頭に置いて制作したわけではないんです。『Ekstasis』についても同じことが言えます。音楽を作っていると、何故かはわかりませんが、ある瞬間に“仕上がった”という感覚が訪れるんです。その出来上がったものを聴いてみて初めて、曲が何からの影響を受けているのか、どんな要素を持っているのか、ということが理解できます。最初からコンセプトがあるわけではなく、後から気付くものなんです。タイトルはそれに合わせて付けていきますね。『Have You In My Wilderness』はタイトル・トラックが最もこの作品を表現していると感じたので、アルバムのタイトルにもしました」

――おもしろいですね。作る音楽を想定してから制作に取り掛かるミュージシャンのほうが多いですよね、きっと。
 「そうかもしれないですね。でも私の周りにはそういった部分でも共感できるミュージシャンがたくさんいます」

――ホルターさんは内面的な、無意識の部分を重視しているということなのでしょうか。
 「全くその通りです」

――ご自身の音楽を非常に客観的に捉えていらっしゃるんですね。
 「そうですね……」

――作品としてリリースしてしまうと、自分のものではなくなるような感覚をお持ちなのでは?
 「なるほど。そうですね。レコードは私そのものではないので。作品を作り終わった直後は、なるべく自分のレコードを好きにならないようにしているんですよ。ずっとエネルギーを費やしていたものから少し離れたいという意味合いもあります。今はもちろん、『Have You In My Wilderness』のことを好きになっていますけどね!」

――それだけ、ひとつひとつの作品を丹念に作っていらっしゃるということですよね。
 「もちろん」

――最新アルバムの収録曲が過去に制作されたものであることを考えると、今はさらにたくさんの楽曲が控えているように思えます。
 「今ですか?それが全然曲のストックがないんですよ、実は (笑)。『Have You In My Wilderness』をリリースするまでにはかなり曲を溜めていたんですけど、それに伴ってツアーが増えたので曲を書く時間がなくなってしまって。何曲かストックしている曲はありますが、そこからレコードを作りたくなるような傾向のものではないんです。『ビニー / 信じる男』(原題 “Bleed for This” / 2017年日本公開)というボクシングの映画(マーティン・スコセッシ製作総指揮)のためにスコアを書いたりしましたが、今はもっと新しいものを作りたいという気持ちです。まだ形にできていないだけで、アイディアはたくさんありますよ!」

――すごく色んなことに興味をお持ちの方だとお見受けしているのですが、音楽以外での表現は考えていらっしゃらないのでしょうか。
 「それはあるかもしれないですね!テキストを書くのは好きです。でも音楽以外のことはあまり得意ではないので、今は音楽に集中していたいですね」

Julia Holter Official Site | http://juliaholter.com/