蓮沼執太 / 蓮沼執太フィル

蓮沼執太 / photo ©Takehiro Goto 後藤武浩

――僕もそうですね。何でもいいです。何でもいいというか、音楽によって聴きたいフォーマットが違うかもしれないです。ジャンルやスタイルによってもそうですし、最初に聴いた思い出とか、思い入れにも左右されると思います。
 「そうですね。フォーマットに即した音楽ってあるかもしれないですよね。おもしろいもので、僕は現代音楽とか20世紀のクラシカル音楽は、あまりSpotifyで聴く気になれないんですね」

――そうそう、聴く気になれるか、なれないか、みたいな。
 「ですよね。聴く気になれない理由は、結局自分が持っているCDとかヴァイナルで聴くことが多いから、ということもあるのかもしれないですけど。でもまあ、ソウルミュージックや90年代のヒップホップは全然Spotifyでも聴けますね」

――90sヒップホップだったら、僕けっこうヴァイナルじゃないとダメかも(笑)。でも初聴がCDだったりすると、CDで聴くほうが好きだったりもします。最初にCDで好きになった音楽をハイレゾで聴くと、疲れちゃったりするし。
 「音の情報量が多過ぎると、耳に負担がかかり過ぎちゃうんでしょうね。録音物としての情報量が。今回はヴァイナル、CD、ハイレゾの3タイプを作りました。マスタリングもフォーマット毎に行いましたし」

――考え過ぎても、音楽家の負担が増えるばかりですしね。3フォーマット作るだけでも大変じゃないですか?マスターひとつ作るだけでも大変なのに。
 「大変ですよね。でも、音に携わることは楽しいですよ!2年くらい前に、Sound & Recording Magazineの主催でハイレゾの公開レコーディング(”HIGH RESOLUTION FESTIVAL” at SPIRAL)をやったんです。真ん中にバイノーラルマイクを立てて、360度で録音して。それを聴いてもらうためにコンバートしてゆくわけですけど、何通りかダウンコーンバートの方法があって、試してみるとひとつひとつ音が違うんですよ。その時はそういう耳で集中して聴いてるので、自分の耳の解像度が高くなっているということもあるんですけど、“このヴァージョンは高音が少しだけ潰れてるね!”とか、かなり微細な変化がわかったりしました。通常のポップスのような音楽で、そこまでの解像度が必要かはわかりません。方や、ヴァイナルだって、プレス工場が違ったり、カッティングマシンの針の調子ひとつで音が変わってきます。生き物みたいなものですからね」

――そうなると、原音という意味でライヴに視点が移る人もいると思うんですけど、ライヴと録音物の関係ってどう考えていらっしゃいますか?
 「基本的には全くアプローチが違いますけど、同じ音楽なので気持ちは一緒です。拡大解釈でもありますけど、録音物だってリスナーに渡って再生された時点で、ライヴ空間になると思ってるんです。各々の環境で再生されるっていうは、その時間と空間でのライヴですよね。音の響きとかそういうことではなくて、記録された複製物にもアウラが存在しているのではないのか?と問い直していく必要はあると思ってます。ベンヤミン(Walter Benjamin)は怒ると思いますけど(笑)。制作者として現代に生きる作家は常に環境が変わる中で、過去の研究に対して受け入れるだけではなくて、問い直していく作業もとても大切です」

――気持ち、ですか。蓮沼さんて、勝手に思ってたよりもずっとエモい人なんですね。もっとスクエアな人かと思ってました(笑)。
 「それ、本当によく言われますね。なんでそうなっちゃうんだろ(笑)。あまり外に出て社交してないからなのかな……」

――(笑)。
 「まあ、それとはちょっと違った考えでのライヴだと、フィルに関して言えば、葛西(敏彦)さんというエンジニアもメンバーです。葛西さんは僕らのライヴの出音も作るし、レコーディングも彼がマイキングからミックスまで行なっています。彼に話を聞いたらおもしろいかもしれないですね。僕にも思想はあるけど、葛西さんも技術的なアプローチの方法がたくさんあると思います。フィルは色々な環境で演奏をするので、ライヴハウスのような場所ではなくて、本当に何もない空っぽな箱のようなところに、サウンドシステムを持ち込んでやることもありますね」

――どんな会場でも対応できるというのは、それこそOff Siteみたいな場を経験しているからと言えそうですね。フィルって大人数ですけど、めちゃくちゃスモールな会場でもやれそうですし。
 「それは本当そうですね。先輩たちの影響はあります。様々なアーティストの試みから影響を受けて、今の自分の発想が作られているはずです。メンバーの大谷能生やイトケンさんから学ぶことも多いですし、伊東さんたちとも繋がっていますよね。たくさん勉強させてもらっています」

――そういう先輩が近くにいるのは心強いですね。でも、僕が蓮沼さんの音楽に初めて触れたのは『POP OOGA』(2008, HEADZ)だったのですが、その時はとても孤独な印象を受けたんですよ。
 「あー、そうですか。実際そうですよね。作品の中でゲストはいませんし、すべて独りで作り上げたアルバムですからね」

――でも、今はこんなにたくさんの仲間に囲まれて。
 「友達が増えたっていう……」

――単純にそういうことなんですかね(笑)。
 「『POP OOGA』を作ってから、自分独りでは満足するライヴ・パフォーマンスができなくなってしまったんです。そもそも僕は、人生で初めてアルバムを制作した時だって、まさか自分がライヴをやるようになるとは思っていなかったんですよ。当時は、大学を卒業して、特に何もしてなかったので、毎日ずっと音楽を作ってたんです。ガンガン電子音のパッチ書いたりして音を作って(笑)。そういう作業の毎日で、まずは音源ありきで制作していたので、ライヴのことを考えていなかったんですよね。僕はやっぱり、演奏することではなくて、録音物を作るところから自分のキャリアが始まってるんです。“レコードを作ったのに何でライヴやらないの?”と多くの人に言われてですね。あぁ、そっか、ライヴしなきゃ……と思って(笑)。音源をどうやってライヴにしてゆくか、みたいなことを考えて、完全に独りで作った録音物『POP OOGA』を全部生演奏に置き換えて演奏しようと思ったんです。それが『wannapunch!』(2010, HEADZ)というアルバムに繋がって、蓮沼執太チームを作りました。それがフィルの前身ですね」

――そこで良い感触を得たから、それ用に曲を書き始めたということ?
 「その通りです。バンドのためだけの曲を書くようになっていきます。楽曲制作の目標が変わっていくんですよね」

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