Interview | Tom Gabriel Warrior (HELLHAMMER, CELTIC FROST, APOLLYON SUN, TRIPTYKON)


世界を悲観的に捉えてしまう傾向がある

 リユニオン(2001)以降の集大成と評するに相応しい大作『Monotheist』(2006, Century Media)を携え、ファンを狂喜させた2007年CELTIC FROSTの初来日公演。そのわずか1年後、Tom Gabriel "Warrior" Fischerの脱退というかたちでの空中分解に多くの人々が肩を落としたことでしょう。しかしFischerは、CELTIC FROSTのコンセプトを継承する新たなバンド・TRIPTYKONを率いてカムバック。2008年にMySpaceにて初楽曲「Crucifixus」が公開されて以降の期待度を裏切らない1stフル・アルバム『Eparistera Daimones』(2010, Prowling Death | Century Media)と共に、「EXTREME the DOJO Vol.25」(6月2日 大阪・心斎橋 CLUB QUATTRO, 3日 愛知・名古屋 CLUB QUATTRO, 4日 東京・渋谷 O-EAST)出演のため日本の地への再降臨を果たしたのでした。

 CELTIC FROST楽曲を含むセットリストでのパフォーマンスが披露された同公演最終日の翌日、ジェントルな空気を纏うWarrior師にTRIPTYKONへと至る道程を伺いました。なお、師ご自身は“ケルティック・フロスト”と発音していらっしゃったことを付け加えておきます。


取材・文 | 久保田千史 | 2010年6月
通訳 | 川原真理子
Main Photo | ©Andreas Schwarber


――まず、CELTIC FROSTから脱退するに至った経緯を聞かせていただけますか? あまりお話されたくないかもしれませんが……。

 「全く構わないよ。いろいろと複雑な事情はあったにせよ……かいつまんで言えばバンド中に……誰とは言わないが、非常にエゴの強いメンバーがいたんだ。彼とはもうやっていけないと思ったのが原因だよ。(2001年にCELTIC FROSTが再始動してから)5年半もの歳月をかけてアルバムを制作し、その後1年半にも及ぶツアーに出た。そういった生活を送るにはメンバーと毎日顔をつき合わせなければならないが、強いエゴを持った人間と一緒では困難がつきまとう。個が全体を台無しにしてしまったんだよ。私にとってCELTIC FROSTは人生そのものと呼ぶべき存在だから、脱退するときはかなりの決意を必要としたし、本当は脱退などしたくはなかったんだ。事態が良いほうへ向くようにあらゆる策を講じてはみたのだが、そうするほかないというところまで行ってしまった」

――最初にCELTIC FROSTが解散した際(1993)はAPOLLYON SUNを結成していらっしゃいましたが、そのときと近い心境なのでしょうか。
 「状況的にも、心境的にも、そのときとは全く違う。APOLLYON SUNを結成した当時……1990年代前半だったか……私はHELLHAMMERとCELTIC FROSTしかやったことがなかったし、そこでできることはやりつくしたと考えていた。だから音楽的に違ったものを欲してエレクトロニック / インダストリアル・ミュージックをAPOLLYON SUNで追求することにしたんだ。2枚の作品を制作し、その欲求が満たされたからこそ再びCELTIC FROSTとして動き出すことができた。しかし今回は違う。成すべきものがあったにも関わらず空中分解してしまったCELTIC FROSTを引き継ぐ気持ちでTRIPTYKONを結成したんだ。エゴ、醜い争い抜きでね」

――TRIPTYKONというバンド名は、CELTIC FROST『Monotheist』のラストに収録されている楽曲「Triptych」と関連があるのでしょうか。
 「いや、TRIPTYKONのアイディアはCELTIC FROSTを継承するものだが、楽曲のタイトルとの直接的な関連性はないよ。でもどちらも私が名付けたものだ。“トリプティク”というコンセプトが好きでね。バンド名には私がHELLHAMMER、CELTIC FROSTの次に始めた、3番目のバンドという意味が込められているんだよ」

――なるほど。次にメンバーについて教えてください。ギタリストのV. SanturaさんはCELTIC FROSTのライヴ・サポートも務めていたかたですよね。
 「そう。彼との相性は抜群で、CELTIC FROSTの正式メンバーに迎えるという話もあったんだ。しかしバンドが解散という事態になってしまい……。だからTRIPTYKONを結成する際に彼を選ぶのは自然な流れだった。彼はDARK FORTRESSというバンドのメンバーでもある。ベースのVanja Slajhはスイスで一番の親友なんだ。彼女とは以前から一緒に何かできたら素晴らしいと考えていたから、すぐに声を掛けたよ。顔見知りでなかったのはドラムのNorman Lonhardだけだ。彼は、ドラマーを探しているときにCentury Media Europeスタッフの推薦で初めて会ったんだ。このバンドに見合うドラマーはそうそう見つかるものではない。だから決定に半年はかかるだろうと予想していたのだが、Normanとセッションを始めた30秒後には彼に決めていたよ(笑)。それくらいのケミストリーが生じたんだ」

――Lonhardさんはエッジメタル・バンドFEAR MY THOUGHTSのメンバーですよね。彼らのライヴをご覧になったことはあるのですか?
 「恥ずかしいことに一度もない(笑)。Normanと会うまではFEAR MY THOUGHTSというバンドの存在すら知らなかったんだ……。それにFEAR MY THOUGHTSは数ヶ月前に解散してしまってね。Normanはヴォーカリスト(Martin Fischer)と新しいプロジェクトを始めている。これがとても素晴らしい。でもそれはあくまでサイド・プロジェクトであって、彼はTRIPTYKONをメインに考えてくれているよ」

TRIPTYKON, 2010 | Photo ©Axel Jusseit
TRIPTYKON, 2010 | Photo ©Axel Jusseit

――昨晩拝見したライヴではCELTIC FROSTの曲も多数プレイされていましたよね。「The Usurper」のような所謂キラーチューンをプレイしなかったのには何か理由があるのですか?
 「その答は単純なことだ。時間が足りなかったんだよ。TRIPTYKONの曲はどれも長いからね。CELTIC FROSTの“Synagoga Satanae”とTRIPTYKONの“The Prolonging”をプレイするだけでセットの半分が埋まってしまう。ヘッドライナー・ショウのときには“The Usurper”ももちろんプレイするよ。日本でやったことのない曲を皆に聴かせたいという気持ちもあったしね」

――正直、前回のCELTIC FROSTでの来日が最初で最後だと思っていたので、再びCELTIC FROSTの曲を聴くことができて感激でした。
 「(笑)。ありがとう。それは私も同じ気持ちだ。私はスイスの貧しい小さな農村で、あまり良い子供時代を過ごさずに育った。そんな人間が1度でも日本に来ることができたというだけでも驚きだが、2度も訪れる機会に恵まれ、しかも大勢のファンに歓迎されて感無量と言うほかない。SCORPIONSの『Tokyo Tapes』や、Michael Schenkerの日本での活躍の噂。そういう話に聞いていただけの地で、暖かく迎えてもらえるなんて考えてもいなかったからね。ライヴ中、MCで感謝の気持ちを述べたが、あれはお約束ではなく、本心から出た言葉なんだ。日本のファンには本当に感謝しているよ」

――「Crucifixus」がSEとして使用されていましたね。あの曲はなぜアルバムには収録されなかったのですか?
 「“Crucifixus”はアルバムがリリースされる以前からMySpaceにアップされていて、TRIPTYKONという存在を世に示してきた言わばバンドの顔のような曲だ。だからファンには最も馴染み深い曲だと考えてSEに使用したんだ。アルバムには収めなかったが、リミックスしたヴァージョンをEPとして本年中にはリリースしようと考えているよ」

――ダークでドローニッシュな「Crucifixus」を初めてMySpaceで聴いたとき、SUNN O)))がお好きだということを存じ上げていたので、ドローン色の強いプロジェクトになるのかと思ってしまいました。
 「たしかに、“Crucifixus”はTRIPTYKONのそういった側面を示してはいるね。昨晩のライヴでラストに演奏した“The Prolonging”もドローニッシュな部分がある曲だ。だがそれはあくまでも一部であって、様々な要素が組み合わせて新しいものを生み出そうとしているのがTRIPTYKONなんだ。SUNN O)))のStephen O'MalleyとはCELTIC FROSTで共演もしたし、とても仲の良い友人で、アーティストとして尊敬もしている。彼の関わった作品が非常に好きなのは間違いないがね」

――そういった要素を持ち合わせながらも、CELTIC FROST時代からのトレードマークであるダウン・チューニングでのヘヴィでダークなシングルリフ・ブレイクダウンも健在ですよね。あのようなパートを生み出したのは、あなたが世界で初めてだったと思います。どのようにして編み出されたものなのでしょう。
 「(笑)。皆私がイノヴェイターだと言ってくれるのだが……それについては非常に懐疑的だ。そう言われるたびに、私はその称号に相応しくないと感じてしまうんだ。音楽の歴史を塗り替えた偉大なアーティストは多く存在するが、私はその中には入らないよ。私のリフのルーツは間違いなくTony Iommiだ。私は特別なギターのレッスンを受けたわけではなく、ひたすらBLACK SABBATH『Vol.4』のリフをコピーして弾きかたを学んだのだから。今でもBLACK SABBATHの片鱗は感じ取れるはずだよ。評価されるべきは、私ではなくTony Iommi。彼がイノヴェイターなんだよ。リフがダークなのは、私の感情、世界観を正直に反映しているからだ。人間は地球を傷つけ続けているし、争いもなくならない。世界を悲観的に捉えてしまう傾向があるんだ」

CELTIC FROST, 1985 | Photo ©Sergio Archetti
CELTIC FROST, 1985 | Photo ©Sergio Archetti

――あなたがHELLHAMMERをスタートさせた当時、ANTISECTやAMEBIXのようにBLACK SABBATHからの影響も覗わせるパンク・バンドが活動していたと思いますが、そうったバンドからヒントを得ることはありましたか?
 「当時、私自身はパンク・バンドからインスパイアされることはあまりなかった。パンクから多大な影響を受けていたのはHELLHAMMERのベーシストだったSteve Warrior(Urs Sprenger aka Savage Damage)なんだ。彼にいろいろと教わったよ。私がメタル担当、Steveがパンク担当という感じだった。私はと言えば、例えば……ANGEL WITCH、初期VENOM、WITCHFYNDE、WITCHFINDER GENERAL、MOREといったバンドを好んで聴いていた。古いバンドがコマーシャルな方向へと向かって脆弱化してゆく中、今言ったような英国のバンドたちはパンク・ムーヴメントのエナジーを得て、全く新しいパワーを持ったヘヴィメタルを作り上げていた。HELLHAMMER、CELTIC FROSTはそういうパワーに触発されて生まれたんだ。パンク・バンドの中でということであれば、私にとって一番大事だったのはDISCHARGEだ。彼らの持つヘヴィネスや、過激な部分にはかなり共感するところがあったね」

――近年、そういった“パワー”を持ったバンドと出会うことはありますか?
 「……それはかなり難しい質問だ。残念ながら、心から私が感動できるようなバンドはここのところほとんどいない。バンドは星の数ほどいるのだが、皆保守的になっているように見える。プレイヤー単位では優れた人物を多く見かけるが、バンドとしてのオリジナリティとなると、新しいエナジーが感じられるものは皆無に等しい。これは危機的な状況だよ。すぐに思いつく優れたバンドと言えば……フィンランドのBEHERIT。それからJESU。EVOKEN。それくらいかな。先日の“Roadburn Festival 2010”で観たGOATSNAKEも良かった。彼らのアルバムは好きでよく聴いていたのだが、ライヴは数倍良い。これまでに観たどのライヴよりも素晴らしかった。ダークで、ヘヴィで、オリジナリティも備えた、最高に好きなバンドのひとつだよ」

――あなたの影響を受けて育ったバンドばかりですね。
 「それについて私はコメントできる立場にないな(笑)。彼らがもしそう言ってくれているのならばとても光栄なことだが、私はただ良いアーティストだからこそリスペクトしているに過ぎないよ」

――例えば、DISCHARGEにDISCARD、DISASTERなど多くのクローン・バンドが存在するように、HELLHAMMER、CELTIC FROSTにもクローン・バンドが存在しますよね。彼らのことはどう思っていますか?
 「(笑)。正直に言うと、そういったバンドの存在を初めて知ったときは腹が立った。オリジナルがすでに存在しているのに、なぜ真似をする必要があるんだ?とね。理解できなかった。しかし実際WARHAMMERのメンバーに会って、その考えは変わったよ。彼らが良い人物だったからということもあるが、会話をして、私の作った音楽が心から好きで仕方ないんだということが伝わってきたんだ。それ以来、嫌悪感は全くなくなった。自分たちなりのものを作ってほしいという気持ちは変わらなかったがね。とはいえ、私自身も“VENOMのようになりたい”と考えてバンドを始めたわけだから、人のことを言えた義理ではないだろう?と自問しているよ」

――GALLHAMMERをご覧になったことはありますか?彼女たちはバンド名こそHELLHAMMERですが、オリジナリティを確立していると思います。
 「前回CELTIC FROSTで来日した際、彼女たちのライヴを観られる機会があったのだが、運悪く私だけインタビューを受けるスケジュールが入ってしまってね。今座っている全く同じこの場所で(笑)。他のメンバーは皆観に行って、そのときの模様はスイスのテレビでドキュメンタリーとして放映されたりもした。というわけで私はGALLHAMMERのライヴは観たことがないんだ。残念ながらね。しかし不思議なことに繋がりはある。友人のManiac(Sven Erik Kristiansen | BOMBEROS, MAYHEM, SKITLIV etc.)がGALLHAMMERのリーダーと婚約していてね。だからGALLHAMMERのことは家族のように思っている。音楽性はたしかに、CELTIC FROSTのTシャツは着ていても彼女たちならではのものだね。なにより、TRIPTYKONのベーシストもそうだが、女性がああいった音楽をプレイしているということ自体が素晴らしい。世界的に見てもそうはいないだろうからね」

CELTIC FROST, 2006 | Photo ©Jozo Palkovits
CELTIC FROST, 2006 | Photo ©Jozo Palkovits

――唐突な質問で申し訳ありませんが、いつもメイクをしていらっしゃいますよね。メイクの着想はどこから得られたものなのですか?King Diamondですか?
 「私がメイクを始めたきっかけは、そのもっと前に遡って、Arthur Brownなんだ。1960年代の終わりか、1970年代の初めか……定かではないが……その頃に出たシングル(*)、そのジャケットで彼がコープス・ペイントをしていて……もちろん当時はそんな言葉を用いる者はいなかったが……それが大好きだった。子供心に衝撃を受けてね。その後にAlice CooperやKISSが出てきたが、彼らのメイクはシアトリカルな面に焦点を絞ったものだったと思う。遠くのオーディエンスにも見えるように、とかね。Arthur Brownのそれとは違うものだ。現在コープス・ペイントと呼ばれるものの原点となったのがKind Diamondなのか、HELLHAMMERなのかは、私にはわからないが……」
* おそらくはTHE PRODIGY「Fire」のサンプリングやCATHEDRALによるカヴァーでもおなじみのTHE CRAZY WORLD OF ARTHUR BROWN『Fire』(1968)。

――メイクをすると、気持ちが変わってきたりするものなのでしょうか。
 「違う。全く逆だよ。メイクをすることによって変わるのではなく、気持ちがメイクに出るんだ。CELTIC FROSTのときは厚塗りだっただろう?それはあのときの気持ちが今よりダークだったからだ。今は良い気分でいるから薄く塗っている。私のこれまでのキャリアをメイクで見てみると、その時々の内面を反映していることがわかるよ」

――なるほど……。あなたの作品は昔から、カヴァーアート、アーティスト写真に至るまで、ヴィジュアルもかっこいいものばかりですよね。ヴィジュアルに特別なこだわりがあるのでしょうか。
 「もちろん。ヴィジュアルは今でも重要な要素だ。逆に、それにこだわらないアーティストがいるとしたら理解できないね。“アーティスト”と呼ばれるからには、音楽だけでなく全ての要素を完璧にコーディネートしなければならない。全てがひとつになることによって、自己表現に繋がるんだ。そこにはこだわりを持ってやっているつもりだよ」

――H.R. Giger氏のアシスタントも務めていらっしゃるんですよね。
 「ああ。もう何年にもなる。Gigerと彼の妻とは親友と呼べる仲だよ」

――彼からの影響が音楽に顕れることはありますか?
 「無論。10代の頃から彼の作品が好きだったし、多大なインスピレーションを受けている。私に言わせれば彼は天才で、私のやっていることなど彼の1/100にも満たないほどの小さいことだ。それでも彼の域に少しでも近づきたいがため、音楽で実現できるように今でも精進しているんだ」

――最後に少々ヘンな質問をひとつ。少し前になりますが、あなたの“Warrior”というステージネームがアメリカのどこぞの者とも知れぬWARRRIORSだとかいうバンドに訴えられるという事件がありましたよね。
 「ああ(笑)。訴えてやるという旨、代理人と名乗る者からメールが来たんだ。そこで私は“申し訳ないが、私のほうが活動歴も長いようだし、HELLHAMMERもCELTIC FROSTも御バンドより多少は名が知られていると思う”とお返事を差し上げた。それ以来何の連絡もないな。事のあらましを私がブログに掲載したところ、それを見たCELTIC FROSTファンの子が何100通もメールやポストを送信したらしく、連中のサイトはダウンしてしまったようだ(笑)」

――では、私たちは変わらずあなたを“Warrior”とお呼びしても何ら問題はないわけですね。
 「当然だろう(笑)」

Tom Gabriel Warrior Official Blog | http://fischerisdead.blogspot.com/
TRIPTYKON Official Site | https://www.triptykon.net/