過去は破いて、未来を広げる
取材・文 | 久保田千史 | 2017年1月
通訳 | 寺尾ブッタ (大浪漫娛樂集團)
――たぶんいろんなところで答えていらっしゃると思うんですけど、結成の経緯を教えていただけますか?
C 「最初はわたしが独りで曲を作って、ネットで公開していたんです」
――“MANIC SHEEP”という名前で?
C 「はい。音楽性は今とちょっと違って、宅録のエレポップみたいな感じでした」
――バンド編成になるきっかけがあったのでしょうか。
C 「ライヴですね。どうやってライヴをやったらいいのかわからなくて。友達に“バンドでやったらいいんじゃない?”って勧められて、ネットでメンバーを探し始めました」
――音楽の好みがバンド志向になったから、というわけではなかったんですね。
C 「そうですね、変化を想定してバンドを組んだわけではありませんでした。でも、当初から独りでは完成しきれない部分を感じていたし、ドリームポップみたいな音楽も好きだったので。いろいろやってみたくなったんですよ。結成時はわたしを含むトリオ編成だったんですけど、そのときのメンバーは今、それぞれ別のことをやっています。このメンバーは、新しく2年前くらいに集まりました」
――どうやって集まったのでしょう。
C 「Joyは元々、MANIC SHEEPのデザイン担当だったんです。Howardとわたしは昔からの友達で」
W 「僕とJoyは音楽教室で知り合いました。僕が習いに行っていた教室でJoyが働いていたんですよ」
――ドラム、習っていらっしゃったんですね。
W 「はい。Joyと知り合った頃は先生について習っていました」
――“楽器を習う”という行為って、プロフェッショナルを目指しているとか、けっこう気合いが入ってないとやらないイメージがあるんですけど、Whiteさんは“音楽一本でやっていくぜ!”みたいな感じだったんですか?
W 「台湾では、楽器をやり始めることにしたら先生を見つけて習うのが普通なんですよ。専門誌がすごく少ないから、独学が難しくて。バンドマンが先生になることが多いです。だから今は、僕が先生として教えています。“音楽一本でやっていく”みたいな感じとは違うかもしれないですけど(笑)、教えるのは続けていきたいですね」
――へえー!じゃあHowardさんもギターを習った経験をお持ちなんですか。
H 「はい。かなり昔のことですけど……。通っているうちに、“あまり意味がないな”って思うようになって、やめましたけど。まあ、先生とそりが合わなかったんです(笑)。それからは自分の好きなバンドを観たり聴いたりして、真似するようになりました」
――具体的に、どんなバンドがお好きだったんですか?
H 「最初はOASISとかTHE VERVEみたいなUKのバンドをよく聴いていて、だんだんUSのバンドも聴くようになって。Chrisと知り合ってからはMY BLOODY VALENTINE、SLOWDIVEとか、シューゲイズと呼ばれる音楽も聴くようになりました」
――Chrisさんに洗脳されたわけですね(笑)。
H 「そうですね(笑)。トリオ編成だった頃のMANIC SHEEPのギタリストにも、かなり洗脳されました」
――Joyさんも、もともと楽器をやっていらっしゃったんですか?
J 「全然。楽器は去年加入してから始めました。Chrisに教えてもらって。でも初めてのライヴがFUJI ROCK FESTIVALだったんですよ……(笑)」
――えっ!すごくないですか?それ聞いて怒る人たくさんいそうですね(笑)。
J 「あはは。ですよね……(笑)」
W 「パンク・スピリットですよ(笑)!」
C 「そうそう、パンクだよね!」
――かっこいいです(笑)!みなさん、好きな音楽は共通しているんですか?
C 「ある程度はそうですね。新しいタイプのシューゲイズはみんな好きです。レーベルで言えば、NYのCaptured Tracksが出しているような。DIIVとか」
――そうなんですね。2010年代にMexican Summerから出ていたようなギターロックの影響が強いのかと思っていました。NO JOYとか。
C 「NO JOYも好きですよ。彼女たちのライヴを観たことがあるんですけど、すごいバンドですよね。わたしたちのほうがもっとポップかな」
――Captured Tracksのバンドも、MANIC SHEEPと比べたらもっとダークなバンドが多いですよね。
C 「たしかに。MANIC SHEEPも、わたしが独りでやっていたらどんどんダークになってしまうかもしれません。みんなの個性でポップなイメージが作られているような気がします。特にHowardが弾くギターの存在感は大きいですね」
H 「そうですね、僕は綺麗なメロディや展開が好きなので」
――Joyさんは今、ヒップホップに関わるお仕事をされているんですよね?それがMANIC SHEEPでの個性に反映されることはないのでしょうか。ベーシストだし。
J 「MANIC SHEEPに対してはないかなあ。普段聴く音楽には影響していますけど。会社でやっていることは、音楽の内容には関係のない仕事が多いんですよ。デザインだったり、企画製作だったり」
――そっかあ。Whiteさんのドラムは、かなりいろんな音楽からの影響を感じますね。
H 「Whiteはたぶん一番音楽聴いてますよ」
W 「流行りの音楽から、めちゃくちゃアングラなものまで、なんでも聴きますね(笑)。MANIC SHEEPでも、“明るい / 暗い”みたいなことはあまり意識したことがなくて。いろんなことをやってみたいタイプ」
――すごくタイトなドラミングだから、テクノとかもお好きなのかな?って思っていたのですが。
W 「ああ、なるほど。クラウトロックとかポストパンクはよく聴くので、その影響かもしれないです」
――近年はポストパンク影響下のかっこいいバンド、多いですよね。Captured Tracksで言えばTHE SOFT MOONとか。
H 「そうですね。あとSAVAGESはみんな好きだよね」
W 「SOVIET SOVIETとか」
C 「(小さい声で)あとWhiteはメタルが好きでしょ?メタル」
W 「メタルっていうか……。日本のバンドで言えば、BorisとかCORRUPTEDみたいなバンドが好きですね。最近のBorisはJ-POPみたいな曲もやってますけど、あれもすごくおもしろいと思います」
C 「うん、Borisはわたしも好きだな」
――へえー!でもたしかにBorisやCORRUPTEDは、近頃のシューゲイズと通じる部分もありますもんね。
W 「ですよね。できるだけいろんな音楽を聴いて、その組み合わせで作り出したものを意識的にMANIC SHEEPに反映したいと思っているんですよ」
C 「Whiteはヘヴィでパンチのあるビートが叩けるから一緒にやることにしたんです。ドラムに関してはWhiteにお任せしていますね」
――楽曲のベーシックは、Chrisさんが作る感じなんですか?
W 「そうですね、Chrisが目指しているものの中に、僕のエッセンスを注入していく感じです」
C 「ギターに関しても、わたしがある程度雰囲気を伝えた上で、Howardに色を着けてもらっています」
――でもさ、WhiteさんはCORRUPTEDとかお好きだったら、Howardさんに対して“もっとギターの音デカくしろや!”とか思わないですか(笑)?
W 「あ~(笑)」
H 「僕はそういうのはちょっと……(笑)」
C 「あはは(笑)。わたしはそういう、音が大きいイメージの曲を考えたこともあったんですけど、Howardがやりたくないなら、わざわざそうする必要は感じないです」
――そうやってみんなのバランスでMANIC SHEEPの音楽ができあがっているんですね。
C 「うん。わかりやすく“こういう音楽”に向かってゆく感じではなくて。あえて好みの違うメンバーでやっているところもありますし。いろいろ混ざり合ったものが作りたいんですよね。“それっぽい”ものは作りたくないです」
――じゃあ、これからどんどん音楽性が変化していくかもしれないですね。
C 「そうですね。具体的にわたしのパートに関して言えば、ギターを弾かずにエレクトロニックの機材だけを使うことも考えているんですよ」
――楽曲面でも、例えば今回のアルバムには「Mind Odessey」みたいにエクスペリメンタルな曲も入っていますよね。あれも今後の方向性のひとつ?
C 「“Mind Odessey”はわりとこれまでのMANIC SHEEPの感覚で作ったかな。わたし的に一番新しい方向性に仕上がっているのは、アルバムの最後に入っている曲“Brooklyn”なんです。実際アルバムの中では一番最後に完成した曲で、みんなも気に入っているし」
――なるほど。アルバムのタイトルにもなっていますもんね。でも、そもそもなぜ“ブルックリン”なんですか?“台北”じゃないんですか?
C 「それにはいろいろな意味があって……。みんなが好きなCaptured Tracksがブルックリン拠点というのもあるし、“Brooklyn”という曲では、わたしが昔から好きなSONIC YOUTHに通じる要素を入れることにチャレンジしているんですよ。SONIC YOUTHと言えばブルックリンじゃないですか。わたしたちはSONIC YOUTHにはなれないけど。重要なのは、結局MANIC SHEEPは台湾のバンド、っていうこと。欧米のバンドが好きだけど、そのものにはなれない。台湾というフィルターを必ず通る。だから、英語の“Brooklyn”より、漢字の“布魯克林”の意味合いが強いんですよ。欧米のものではない、中間地点にある音楽として自分たちを認識しているので」
――ああ……いろいろ腑に落ちました。これからどんどん、国外のバンドとも絡めたらいいですよね。先日は台北でシャムキャッツと共演されていましたが、いかがでしたか?
C 「お客さんがたくさん来てくれて、たのしかったです!わたしたちは先行レコ発みたいな位置付けのライヴでしたし、一緒に出た落日飛車というバンドもすごく人気があるので、満員でした。シャムキャッツのライヴは、物販が忙しかったので全部観られなくて残念だったんですけど……。ステージに対する態度がすごく真面目ですよね。学ぶところが多かったです。シャムキャッツに限らず、これまで共演した日本のバンドはみんなそうでしたけど」
――日本のバンドに限らず、これからどんなバンドと共演してみたい?
C 「わたしは絶対DIIV!フェイヴァリット」
J 「わたしはきのこ帝国とやってみたいなあ」
W 「う~ん、MICE PARADEかな」
H 「僕はやっぱりSAVAGESですね。ギターのエフェクト使いがすごく好きなので、間近で観てみたいんです」
――今回のアルバム、フィジカルのパッケージがめちゃくちゃ凝っているのも印象的です。今、世界的にCDって作られない傾向にありますけど、台湾ではどうなんですか?
C 「メジャーな音楽に関してはストリーミングが主流になっています。それはそれで消費されている。でもインディペンデントでは、メジャーよりもCDが強いんですよ。そもそもストリーミングに重きを置いていないというか。MANIC SHEEPも、ライヴを観に来てくれる人はやっぱりCDを買ってくれます。CDの販売システムは先細りで状況は良くないし、一般流通に関してはあまり期待できないですけど」
――じゃあこの拘りのパッケージは、ひとつひとつ“作品”として売る意味が大きいわけですね。
C 「おっしゃる通りです。台湾では、CDは流通させる物という意味よりも、コアなファンに向けた作品という意識が強いので、MANIC SHEEPに限らずパッケージに拘ったものが多いですよ。わたしたちもそうしたくて」
――しかしこのパッケージは……すごく開けるのが難しいですね(笑)。作ったご本人に開けていただいてもいいですか(笑)?
J 「わかった……(一生懸命開けてくれている)」
W 「みんな開けるの難しいって言ってるよね(笑)。綺麗に開けようと思ったら3時間くらいかかるんじゃない?でもJoyはかなり綺麗に開けてるな……」
J 「開きました!」
――おお!ありがとうございます!中もエンボスですごくかわいいですね!印刷の質感も良いし。このグラフィックにはどんな意味があるんですか?
J 「羊毛をイメージしていて、4種類の記号からできています。記号ひとつひとつが各メンバーに対応しているんですよ。でもどれが誰だかは忘れちゃった(笑)。中を開くと、4つの記号を使って“布魯克林”って書いてあります。少し離して見るとわかりやすいですけど」
――この特殊な体裁も、何かコンセプトに基づいて制作されているんですか?
J 「テーマは“過去 / 現在 / 未来”です。パッケージの外側は、過去。それを破いて広げると、1枚の絵になっています。それが未来。CDそのものは、現在を表しています」
――それは、アルバムの内容ともリンクしているのでしょうか。
J 「アルバムの内容っていうより、バンドの状況とリンクしている感じですね」
――ベリッて開けるのはもったいない気もするけど(笑)、コンセプトとしては破くことに意味があるわけですね。
J 「そうそう!なんとかして開けないと聴けないし(笑)。過去は破いて、未来を広げるんですよ!」
■ 2016年11月19日(水)発売
MANIC SHEEP
『Brooklyn』
https://manicsheep.bandcamp.com/album/brooklyn
[収録曲]
01. Intro
02. Autumn Rain
03. No More Anger
04. Eve of Destruction
05. Have Back on Everyone
06. Dragondola
07. Tropical Fish
08. Phoney Peace
09. Mind Odyssey
10. Brooklyn