Interview | Diana Chiaki


生きていれば心が動く

 10代から数々のショウや撮影に携わってきたトップ・ファッション・モデルのひとり・Diana Chiakiが、DJとしてのキャリアを経て、ASUNA、Dennis Bovell、Killer Bong、Margaret Dygasなどの作品で知られるレーベル「PowerShovel Audio」から初のオリジナル・フル・アルバム『First Album』をリリース。ハードなテクノを軸にしたマシナリーな音像でありながら、パーソナルな“人間”の営みが溢れる作品となっています。独ベルリンの名匠・Stefan Betke(~Scape / Scape Mastering) aka Poleや、Ben UFO、Pangaea、Pearson Sound / Ramadanman主宰「Hessle Audio」から作品を発表しているグライム・プロデューサーJoe、昨年「Oilworks」からアルバム『Adieu A X』をリリースした鬼才・Fumitake Tamura aka Bunを迎えてのリリース・パーティを控えるタイミングで、音楽での表現についてお話を伺いました。

取材・文 | 久保田千史 | 2011年9月


――完全に偏見なんですけど、所謂モデルさんの音楽参入って最近、キレイめハウスの“歌姫”みたいなの多いじゃないですか。

 「シャンシャン系ですか」

――そうそう。でもチアキさんの作品はすごくダークなテクノですよね。もともとテクノはお好きだったんですか?
 「う~ん、全然、アーティストについて詳しく知っているわけではないんですけど、友達に連れられて聴きに行くのは好きでした。でも大好きっていう感じではなかったと思います」

――そうなんですね。それでも今みたいな音楽を作ってみようと思ったのはなぜでしょう。
 「わたし、ロックは昔からすごく好きだったんです。だからDJをやり始めた頃はバーみたいなところでロックをかけるようなDJをやっていて。1年弱くらい。その後“it girls”っていう女の子のイベントにDJで誘われたことがあったんですけど、みんなテクノとかをかけるようなパーティで。じゃあわたしもテクノかけなきゃ!って思ったんですけど、詳しくないから、作ったほうが早いんじゃないかなと思って(笑)。それで作り始めたんです」

Diana Chiaki, 2011

――すごい理由ですね(笑)。GarageBandで始められたんですよね。
 「そうそう。何かソフト買った方が良いのかな?って思ってたら、わたしの髪の毛をやってくださっている方のアシスタントさんが、“GarageBandっていうのがもともと入ってるよ”って教えてくれて」

――今もGarageBandを使われてるんですか?
 「今もGarageBandです。Logicの音源を使いつつ、組み立てるのは今もGarageBandですね」

――ロックがお好きということでしたけど、ロックはどんなものがお好きなんですか?
 「古いのが多くて、普通にTHE ROLLING STONESとか、THE DOORSとか」

――David Bowieもお好きなんですよね。Bowieも電子音楽に傾倒した時期があったわけですけど、そういう影響はあるでしょうか。
 「う~ん、あるのかな、どうなのかな?RADIOHEADとかも好きだし、電子音はもともと好きですね。1980年代生まれですからね、ちっちゃい頃にディスコの映像なんかをTVで観てるし、10代の頃にサイバー・トランスが流行ってたり(笑)。サイケデリック・トランスとか」

――そういうのも聴かれてたんですねえ。
 「はい。パンクも大好きで聴いてたし、ロックはずっと好きですけど、レゲエも好きだし、テクノはミニマルが一番好き。全然詳しくはないんだけど」

――EINSTÜRZENDE NEUBAUTENもお好きで、『Halber Mensch(半分人間)』のDVDを買ってからずっと“Mensch”というバンドだと思っていらっしゃったって何かで読みました(笑)。
 「そうなんですよ(笑)。15、6の頃に、レコード屋さんで映像が流れていて、かっこいい!超タイプだ!って思ったんです。とりあえずDVD買って。音楽関連で初めて買ったDVDだったんですよ。とにかく見た目、ファッションとか髪型がすっごい好きで、曲もかっこよくて。でも名前を知らなかったから、この“Mensch”ってたちヤバい!って思ってて。雑誌のアンケートでも“お気に入りのバンド → Mensch”とか書いたりしてたんです(笑)。でも当然誰にもわかってもらえず。去年くらいにやっと、EINSTÜRZENDE NEUBAUTENとDVDの人たちが一緒、っていうことを知ったんですよね……。もっと色々音楽のこと知ってたら、曲の作り方も巧くなるのかな?とは思うんだけど……」

――どんなに音楽に詳しい人でも、曲を作るとなるとまた別なんじゃないですか?
 「そうですね。何も知らない子供でも、“この洋服かわいい”って選んだりできるじゃないですか。だから、そこは自分に自信を与えるために、“何も知らなくても、良いか悪いかくらいわかるわ!”って言い聞かせたりはしました」

――僕もおっしゃる通りだと思いますよ。アルバムは通り一辺倒な感じではなくて、BPMもスタイルも様々な楽曲が収録されていますよね。それは今お話いただいたような、好きな音楽の幅が影響しているのでしょうか。
 「そうなのかな。似ている曲ばかりじゃないアルバムにしたくて。いろいろ集まっている感じにしたいな、とは考えてました。アルバムにする予定で曲を作っていなかったから、コンセプトがまずなくて。“後付け”って言うのかな、好きなものを寄せ集めたみたいな感じになりました」

――これだけバラエティに富んでいると、DJで使うときには難しくないですか?
 「使い難いですね~。悩んでます(笑)」

Diana Chiaki, 2011

――当初考えていたDJで使うための曲作りからは変化してきたということなのでしょうか。
 「そうですね。もともとBPMがゆっくりな曲も好きだから、DJではあまりかけないけど、そういう曲も入れたくて。入れちゃえ!って(笑)」

――全体のバランスとしては速めの曲が多いですよね。
 「わりと速め。140とか、もうちょっと速いのもあるかな」

――ダブステップは基本140前後だし、時代は140ってことで、よかったんじゃないですか?
 「そうなんだ!よかった。最後の最後まで、130とか、速くても133だったんだけど、マスタリングの時点で140くらいまで、4曲くらいかな、上げたくなって上げたんですよ」

――「Strange Orange」なんかはレゲエのテイストがありますよね。
 「特にそうしようと思って作ったわけじゃなくて、たまたまそうなっちゃったんです。イメージしたのは、オレンジ色のキラキラ~っとした感じだけ(笑)」

――そうなんですか?あの曲がアルバム中一番攻撃的だと思ったんですけど。
 「へえー!えっ?ほかの曲と間違えてないですか?」

――間違えてないですよ。
 「へえ……。受け取り方は人によってきっと違うんですよね。たぶん自分ではわからないんですね」

――「Moss」が一番ダークな曲だと思ったんですけど、それも作り手的には全然違う?
 「あれはね、森の中で、行くとヒヤッとするところあるじゃないですか。苔とか生えてて。屋久島みたいな。ちょろちょろって水が出てて。そういうのをイメージしました(笑)。若干気持ちが落ち込んでるときに作った曲ではありますけどね。機械的なテクノよりも、もうちょっと人間味とか、自然とか、そういう雰囲気のある曲が作りたくて。昔の人たちも自分で太鼓叩いて、ちょっとテクノっぽい曲でお祭をやったりしてたわけじゃないですか。そういう捉え方をしてもいいんじゃないかな?って。電子音に関して。そう考えて作りました」

――「Powwow」は正にそんな、トライバルな楽曲ですよね。同じPowerShovel Audioからの作品で言えばMaayan Nidam(Miss Fitz)さんみたいな。
 「あれは息抜きです。暗い曲が入り過ぎていたから(笑)」

――笛の音は何かのサンプリング?
 「そうです。後から自分で吹けばよかったな~って、少々引っかかってはいるんですけど……」

――今回、ご自分で実際に演奏されているパートはあるんですか?
 「ギターの音と、鈴のキーホルダーや机を叩いたり。それから声ですね。あと、中につぶつぶが入っていて“しゃー”って音が出る楽器を買ったんですけど、それは全く変えて使ってます。自分でもどこに入れたか忘れちゃったんだけど(笑)」

――全体的にモダンなテクノなんですけど、最近のこもった音作りではない、90年代初頭を思わせる輪郭のはっきりとしたビートワークも印象的でした。
 「そうですね、最近のテクノは音の角が丸いですよね」

Diana Chiaki, 2011

――90年代を意識して制作されたんですか?
 「そういうことはないです。でも“Beatport”を教えてもらって、見たんですけど、使われている音がわりとみなさん似てないですか?何でこの音にしなきゃいけないんだろう?っていう気持ちはありました。良い音だからみんな使ってるのかもしれないんだけど。それに人と同じようにやっても追いつけないから、わたしは。知識もやってる年数も全然違うから、違うことをやらないとつまらないだろうな、と思って」

――パンキッシュですね。作りたい型に向かって進んでゆくというよりも、浮かんだものをその場で音にしているようなアブストラクトな雰囲気もパンキッシュだと思いました。
 「そうですね、漠然としてますね。よくあるのは、“こういう曲を作ろうかな”って超漠然と作り始めて、音を探しているうちに“この音イイな”と思ったら最初に作っていたのはもうやめちゃうんですよ。違うページを開いて、その時に気に入った音で違う曲を作り出す、っていうのはよくやっちゃいます。だからその時その時で、みたいなのはありますね。何も知らないままに始めちゃってるから、ちゃんと目標を決めて作ったりしたいんですけどね、本当は。そのほうが楽しそうですよね?」

――う~ん、どうなんでしょう……。でも、そういう曲作りは“今”のチアキさんをダイレクトに反映しているんじゃないでしょうか。スナップというか。アルバムは、それをまとめた作品という印象があります。
 「うん、テキトーって思われるかもしれないけど……」

――いえいえ、設計図を間に挟んでいないからこそ、直接的にチアキさんの心象を映し出してるんじゃないかと思って。モデルという華やかなイメージとは離れたサウンドだけに、失礼かもしれないですけど、実はすごく内向的なのかな?とか。
 「そうですね……最近はそうでもないけど……。そういう部分はあります。ほかのモデルさんたちよりは内向的かもしれないですね。たしかにハッピー系ではないです。友達から見たら全然意外じゃないとは思いますけど。華やかかあ……」

――もちろん、安直なイメージですけどね。
 「でもまあ、華やかな仕事ですよね。モデルは。お家に帰ったときのギャップとかはあるんじゃないですか?わからないけど(笑)」

――(笑)。音楽はお家で作られてるわけですもんね。ご自宅ではどんな感じなんですか?
 「たいてい独り遊びしてますね、ちっちゃい頃から。自分で自分を楽しませるのは得意です」

――アルバムはその延長線上と言っても良いかもしれませんね。
 「かな。うん。自分では、お家でわりと優雅に過ごしてるつもりなんですけどね(笑)。基本、家にいるのが好き。モデルをやっているから、ハッピーな感じのパーティに呼ばれてDJをやることは多いけど、特にイベント事が好きなわけではないし、シャンパン飲んでワー!とか全然興味ないし。家でGarageBandやってるほうが楽しい(笑)」

――(笑)。でも、モデルって、誰もが得られる仕事ではないでしょうから、多少は浮世離れしたイメージがありますし、生活を想像するのが難しい職業です。モデルを職業としている環境が、曲作りに影響を与えているとは思いますか?個人的にはあまり関係ないように感じたんですけど。
 「どうでしょうね。かかわっている雑誌はカテゴリーもいろいろだし、モデル全員が共通しているわけじゃないとは思うんですけど、撮影以外やることがないじゃないですか、モデルって。ひたすら鏡を見ているわけにもいかないし。半身浴をやったり、ジムに行ったりしてる子はもちろんいますけど、毎日それって……つまらなくないですか?ってわたしは考えていて。“自分をきれいに”っていうのは女の子ならみんなやってるし、モデルはそれに特別時間をかけたほうが良いのかもしれないけど、音楽とか趣味がある上で仕事に行くほうがわたしには楽しくて。モデルの仕事だけに日々備えるのではなく。だから、仕事が音楽に影響を与えてるっていうことはないですね。それっぽく作ろうなんて全然考えてないし」

Diana Chiaki, 2011

――そうですね。すごくパーソナルで、音への愛情が伝わる作品だと思います。ただ、“モデルである”というフィルタというか、プロモーション的に見られる面に対してはどう考えていらっしゃるのかな?と思って。
 「そう見られてもいい。全然嫌じゃないですよ。それはもう、15歳からモデルをやっているから仕方ないですよ。単純に、モデルをやってて、かつCDを出したというだけのことで、他のことは別に何も考えてないです。どう思ってくれてもいいかな。モデルである以前に、普通に生きていれば心が動く瞬間というのは必ずあるわけで。考え込んだりとか、落ち込んだりとか。そういうのは音に出ちゃいますよね。それに、モデルだっていろんな種類の子がたくさんいるんですよ。ネクラもオタクも(笑)。しゃべらないから人間が出難いし、TVに出ているモデルのラグジュアリーなイメージが強過ぎるんだとは思いますけど。10代の頃から良い洋服を着て、素晴らしいカメラマンに撮ってもらったりしてたら、やっぱり学校に行くだけでは学べないことを知ったり、いろんな経験はすると思う。チヤホヤされるってことの先を考えたら、必然的にキラキラしてばかりではいられなくなるし(笑)」

――仕事として、すごくシビアですよね。
 「大変な人はたくさんいると思うけど、わたしは楽しいですよ。幸せ。実にありがたい仕事だと思ってます。かわいい服を着て、綺麗に写真を撮ってもらって」

――それならなによりです。最後に、今後の予定を教えてください。
 「リリース・パーティに向けてどうライヴをやるかいろいろ考えているところです。みんなどういう風にやってるんだろう?って思うんですよね……。自分で曲を作ってDJもやってる人たちって。出来上がったものをCDに焼いてCDJで繋ぐだけじゃつまらないじゃないですか。だから、リリース・パーティではCDJも使わないかもしれないな。曲を分解して持って行って、その場で組み立てるというよりは、もっと別のものにしてしまうような感じかいいな、と思っていて。何をしようかな!」

Diana Chiaki Official Site | https://www.dianachiaki.com/