Interview | ICEAGE


何かを目指して始めたわけじゃない

 ユーロ有数のパンク・シーンが息づく“K-Town”ことデンマークはコペンハーゲンから現れた若きバンド・ICEAGEが、2011年に初のフル・アルバム『New Brigade』をリリース。同国のパンク黎明期バンドSODSに在籍したレジェンドPeter Peter Schneidermannがマスタリングを担当、プリミティヴ・ブラックメタル・フレイヴァの暴虐ハードコア・パンクで注目を浴びるSEXDROMEのカヴァーも収録され、ポスト・パンク、ノーウェイヴ、ダーク・ウェイヴ~ネオ・フォーク、ブラックメタル等をフラットな視点で捉えたサウンドが話題となった同作が、名門XL Recordings傘下のAbeanoよりワールドワイド・リリース。ローカル・シーンから世界へ羽ばたき、2010年代のパンクロック・ベーシックと呼んでも差支えない新世代のクラシックを携えて2月に初来日を果たしたICEAGEの面々にお話を伺いました。答えてくれたのはギター / ヴォーカル担当、リーダー的存在のElias Bender Rønnenfelt(以下 R)と、ベーシストJakob Tvilling Pless(以下 P)のお2人。

取材・文 | 久保田千史 | 2012年2月
通訳 | 大坪純子


――最初に一応確認しておきたいんですけど、本当に10代なんですか?サバを読んだりしてないですか?

R 「(笑)。俺たち2人は今19歳だよ」
P 「ほかの2人は最近20歳になったんだけどね」

――若いのに渋い音だって言われません?
P 「うん、ときどき(笑)」
R 「このバンドを始めたのが早かったから、そう言われるんじゃないかな」

――お幾つの頃に始めたんですか?
R 「15歳?16歳?」
P 「15歳だと思うよ」

――その頃、目指す音楽性のヴィジョンのようなものはあったんでしょうか。
R 「何かを目指してバンドを始めたっていう感じではなかったな」
P 「そうだね」

――きっと何度も聞かれてウンザリしてるとは思うんですけど、バンド名はJOY DIVISIONの楽曲タイトルから取られたんでしょうか。実は全然意図していなかったとか(笑)?
P 「そうなんだよ(笑)。全然関係ないんだ」
R 「ぱっと頭に浮かんだ言葉をバンド名にしたんだよね」

――何かとJOY DIVISION、WIREのようなポストパンクや、ノーウェイヴを引き合いに出されますが、初めてICEAGEを聴いたとき、オリジナルのそういったものよりも、ブラックメタル経由での影響の方が強いんじゃないかな?と思ったんです。
P 「ブラックメタルは大好きだよ。でも、たくさんの音楽から影響を受けてるから、一概には言えないな」
R 「JOY DIVISIONだって大好きだし(笑)。かといって“そうなりたい”って特に意識するようなことは全くないんだよね。それに俺たち、JOY DIVISIONには全然似てないよな?」
P 「うん、似てないと思う」

New Brigade
ICEAGE ‘New Brigade’, 2011

――(笑)。ICEAGEの特徴のひとつであるリチュアルなイメージは、どういったところから着想を得ているのですか?ロゴはCURRENT 93みたいなイメージなのかな?と思ったんですけど。
R 「うん、CURRENT 93大好き。でも真似してロゴを作ったわけじゃないよ、もちろん(笑)。ネオフォークだと、DEATH IN JUNE、NATURE AND ORGANISATIONとかも好きだな」
P 「最近のだとCULT OF YOUTHとかね」

――ABSURDみたいなバンドもお好きなんですよね?それを公言して、しかも曲に“White Rune”(『New Brigade』収録)なんてタイトル付けてたら、国家社会主義者だって言われたりしませんか?実際違うとは分かってますけど(笑)。
P 「そうなんだよね、たまにナチ・バンドだって書かれちゃったりする。でも絶対に違うよ」
R 「ABSURDは別にナチだから好きなんじゃなくて、ただ音楽が好きなだけなんだ。“White Rune”も確かによくそういう風に言われるけど、ナチズムを意識したものでは全然ないんだよね。ナチっぽく取り上げるメディアには正直ウンザリしてる。物申したいよ」

――そりゃそうですよね……。そうやって様々な音楽を吸収しながらICEAGEが現在のような形になるまでは、どんな道程だったのでしょう。やはり身近なバンドからの影響が大きいですか?
P 「そうだね、近くにいるバンドからはたくさんインスピレーションをもらったよ」
R 「友達が良い音楽をやっていると、俺たちもより良いものを作りたいっていうモチベーションが湧いてくるしね。音楽をやっているのは俺たちだけじゃないんだ、って思うとすごく良い刺激になる」

――SEXDROMEとすごく仲が良いですよね。彼らはどんな存在?センパイって感じなんでしょうか。
P 「いやいや、先輩後輩っていう感情はないよ」
R 「そうだね、親友だから。SEXDROMEのギタリスト(Alexander Fnug Olse)はここ数ヶ月、ICEAGEでもギターを弾いてくれてるんだよ」

――へえ!そうなんですか。
P 「今回の来日は一緒に来てないんだけどね」

――それは残念……。SEXDROMEも、様々な音楽の影響を感じさせるイカれたバンドですよね。
R 「うん。SEXDROMEとICEAGEの音楽性は全然違うけど、聴いてきた音楽、バックグラウンドがすごく似ているんだよね」

――それは納得です。他にコペンハーゲンのバンドというと、GORILLA ANGREBやNUCLEAR DEATH TERROR、DEATH TOKENなどが浮かぶのですが、そういったバンドとも交流はありますか?
R 「ちょうど日本からコペンハーゲンに戻ったタイミングでDEATH TOKENとライヴをやることになってるんだ」
P 「GORILLA ANGREBやDEATH TOKENは一回り上の世代っていう感じだけど、すごく良い人たちだし、よく会って話をするよ」

――GORILLA ANGREBは母国語で歌っているのが印象的ですけど、何故ICEAGEは英語での歌唱を選んだんですか?
R 「うーん、深く考えたことはないよ。曲にしっくりくるのが英語だったんだと思う」

――周囲のバンド、例えばSEXDROMEはPosh IsolationやMark McCoy(CHARLES BRONSON, DAS OATH, FAILURES, ABSOLUTE POWER ほか)主宰のYouth Attackなどからレコードを出してアンダーグラウンドに活動していますけど、ICEAGEはXL recordings傘下のAbeanoというビッグディールを獲得しました。それについて周囲の反応はいかがでしたか?セルアウトしたとか言われてないですか?
R 「全然そんなことないよ。周りのみんなはすごく応援してくれてる。正直俺たちも、まさか今みたいなレーベルと契約するとは思ってなかったんだ。でもそのおかげでこうして日本に来ることもできたって思ってるし。みんなに感謝してる」

――友達とすごく良い関係なんですね。
P 「うん、そうだね」

――今回は初めての来日ですけど、すごく沢山の音楽を聴いていらっしゃると思うので、日本のバンドもきっとたくさん知ってるでしょう?どんなバンドが好きですか?
P 「ENCROACHEDとか『Follow No Leaders!』(Nat Records)コンピレーションに入ってるバンドとか」
R 「AGEとか」

――えっ!AGEお好きなんですか!? かっこいいですよね。
R 「うん、AGE最高だよ。あとCRUDEも好き」

ICEAGE

――へえ!AGEは新潟、CRUDEは北海道っていう、どちらも日本では寒い地域のバンドなんです。さすがICEAGEと名乗るだけありますね。
R 「そうなんだ。去年の地震は北のほうで起きたって聞いたけど、彼らは大丈夫なの?」
P 「うん、何事もなければいいんだけど……」

――函館は津波の被害に遭いましたが、CRUDEの皆さんは無事だったようです。
P 「じゃあよかった……」
R 「そうだね……。日本はかっこいいパンク・バンドの宝庫だから、羨ましいよ」
P 「(筆者の着ているTシャツを指して)それも日本のバンド?メタリックな感じ?」

――ISTERISMOは東京のノイズ・クラストですよ。
P 「へえ、聴いてみたいな」

――ICEAGEは今年“Chaos in Tejas 2012”に出演しますよね。ISTERISMOは昨年のTejasに出演したんです。今年のTejasも日本のバンドたくさん出ますよ。ZYANOSEとかきっと好きだと思います。
R 「ZYANOSE……」
P 「わかった。絶対チェックするよ」

――ICEAGEもとてもかっこいいバンドだと思うので、もっと色んな曲を聴いてみたいです。曲が短いからアルバムはあっという間に終わっちゃうでしょう(笑)?
P 「ありがとう(笑)。そう言ってもらえて本当に嬉しいよ」
R 「実はアルバムに入っていない曲はすでにたくさんあるんだ。ライヴでは少し演奏してるんだけどね。次のアルバムがいつになるかはまだ決まっていないんだけど、楽しみにしてて」

ICEAGE Official Site | http://iceagecopenhagen.eu/