イ・ラン 이랑

이랑

システムがヘル、人は悪魔じゃない

 映画やドラマの監督を務める気鋭の映像作家としてのみならず、漫画家、文筆家、そして音楽家としても注目を浴びる韓国・ソウルはホンデ(弘大)のマルチ・クリエイター、イ・ラン(이랑, Lang Lee)。これまでに幾度も来日し、Alfred Beach Sandal、王舟、加藤りま、黒岡まさひろ(ホライズン山下宅配便)、柴田聡子らとの共演も続けてきた俊英が今夏、2012年のデビュー作『ヨンヨンスン(욘욘슨)』以来4年ぶりのフル・アルバム『神様ごっこ(신의 놀이)』をリリース。本国ではエッセイを収めた書籍にDLコードが付属する体裁で発売された同作は、エッセイの日本語訳ブックレットを同梱したCDフォーマットで日本盤も登場。併せて『ヨンヨンスン』も愛猫“ジュンイチ”に抱きかかえられる姿が愛らしい新たな装いで日本盤化されています。

 『神様ごっこ』ではチェロ奏者のイ・ヘジ、404(サーコンサー)のチョ・インチョル(dr)、SORIMUSEUMのイ・デボン(b, key)、SUNKYEOL(선결)のキム・ギョンモ(vo)といった腕利きの演奏陣をフィーチャーし、ギター弾き語りメインとなっていた『ヨンヨンスン』以上に芳純な音楽性を披露。自身の経験が反映された持ち前のシニカルかつ率直でユーモアも溢れるリリックは、より人々の心を抉るものへと変化し、ダイレクトに涙を誘います。その涙は、傷ついて、苦しみ、怒り、泣きながら喜びを生み出そうと闘う等身大かつヒロイックなイ・ランの涙であり、あなたの涙でもある。その背後にあるものについて、イ・ランさんが日本語で教えてくれました。


 なお、ラストネームで“イさん”とお呼びするのが妥当と考えていたところ、韓国に“イ”姓はあまりにも多いため“ランさん”とファーストネームで呼ぶのが通例だそう。ランさん曰く「“イさん”て呼んだら課長も部長も社長も来ちゃうよ!」とのこと。自明だったらごめんなさい。会場でご本人を見かけたら、“ランさん!”と声を掛けてみてください。


取材・文・撮影 / 久保田千史(2016年8月)

――『神様ごっこ』、韓国で売切続出だそうですね。インタビューもたくさん受けたんじゃないですか?
 「うん。大変だったー。毎週あったよ」

――どんな媒体に出ることが多いんですか?ファッション誌にたくさん出ていらっしゃるイメージがありますけど。
 「ファッション誌は元々出ることが多かったから。わたし映画とかドラマも作るから、映画の雑誌も多いよ。あとは一般のニュース雑誌とか」

――すごいですね。
 「超人気者ですよ」

――(笑)。ではもう、いっぱい喋っちゃいましたね。
 「うん、色々喋っちゃってる。『ヨンヨンスン』の時は新人さんだったから、あまり喋ることがなくて“どんな人ですか~?”みたいな感じだったけど、今は新しいアルバムもエッセイもあって、何でこんな風になったかを時間かけて聞かれることが多い。2、3時間かけて」

――長いですね。
 「たくさん喋って、取材中めっちゃ泣いたよ。最近友達が自殺したことを話して、めっちゃ泣いたりしてた」

――その出来事も、今回の作品と関係があるからお話されたわけですよね。
 「うん。トラウマの話が増えたから。作曲を始めた22歳の頃はトラウマが2つしかなかったけど。家族のトラウマと恋愛のトラウマだけ」

――家族と恋愛ですか。
 「家族大嫌いで、逃げたの。10代の頃に。何もチョイスできない家庭で生まれて、辛くて。高校辞めてすぐに家を出たよ。恋愛は、付き合うことが続かなくて、何でや!とか思って。何で恋愛は終わるかな?とか(笑)。でも今20代後半になって、死ぬこととか、女性が働く辛さ、ミソジニー、暴力とか、日常にそういうことがどんどん増えて、自然に考るようになって変わった。トラウマがどんどん増えた感じ。例えば仕事する時、わたしは若い女性の監督だから、歳上で男性の助監督とか“何この子?”みたいになる。仕事が終わった時はみんなわたしを好きになるけど、始める時はみんなそう」

――映画の世界は男社会が根強いということですか。
 「映画の世界じゃなくても全部が男中心の社会だから」

――そうですね。それを強く感じるようになったんですね。
 「うん。大学生の時はわからなかった。仕事を始めるとどんどんわかるようになる。音楽もそう。30代以上になっても男性はバンドやったりするんだけど、女性はやらない感じ」

――30代になると女性はバンドをやめちゃうということですか。
 「30歳になって女性が音楽とかやってたら、みんな“何やってんの?”みたいな感じになる。それでも音楽を続ける女性は“ちょっと気が強い女”みたいに見られる」

――それは、韓国の古い女性観に基づいた考え方なんでしょうか。それがフツー、みたいな。
 「うん。一般的な。大学でがんばって勉強しても、卒業したら結婚して、仕事しない感じが多いんじゃない?だから、わたしが大学の時めっちゃ仲良しで、一緒に何かやりたかった友達が、結婚とかして後は全然何もしなくなって、わたしは傷つく。“あの時は趣味だったの?”って。わたしはいつも仲間が大事だけど、仲間がどんどんいなくなる。“今まで何をがんばって勉強してきたの?”って思うよ。映画でも女性の監督めちゃめちゃ少ない。スタッフも、エラいスタッフは全員男性。日本は違うの?」

――日本も男社会は根強いですけどね。でも活躍する女性もたくさんいらっしゃいます。女性の映画監督も昔より増えたと思います。
 「そうか。韓国だと、女性の仕事はメイクアップとか、服飾とか、そういう感じ。あとはどこに行っても男性中心の社会。それは大変。女性のバンドも少ないし。日本は違うの?」

――日本は音楽をやる女性、多いと思いますよ。
 「う~ん。だから、“新曲の部屋”っていうイベントをやる時に、困った。日本で“新曲の部屋”を観て、イベントをコピーして韓国でやることにしたんだけど、日本だと男性と女性が順番に出る感じ。韓国は女性1人であと全員男性。女性ミュージシャンがいない。いるにはいるけど、“かわいい猫と散歩しま~す♡”みたいな感じばっかり(笑)。おもしろい人はいなくて」

――そういう状況が不満なんですね。
 「うん。韓国のニックネームが“ヘル朝鮮”だって知ってる?地獄朝鮮。韓国はもうダメダメで、色んなことがヒドいから、めっちゃ頭が良くて才能がある人はみんな外国に行っちゃう。友達が留学とか行くから、わたしも本当に力がなくなるよ。なんでや……」

1 2 3 4 5