Interview | ENDON


やりたいのは “フェティッシュじゃない” こと

 那倉太一(vo)、宮部幸宜(g)、横田 慎(dr)、愛甲太郎(electronics)、那倉悦生(electronics, samples)のノイズ要員2名を擁するベーシックなロックバンド価値観からすれば特異な編成を活かし、非音楽に準ずる“ノイズ”を統制することで“ロックバンド”のフォームを形成するENDONが、Aaron Turner(SUMAC)主宰Hydra Head RecordsからのUSリリースや数回に亘るUS / EUツアーを経て、『MAMA』(2014)以来3年ぶりの2ndフル・アルバム『Through The Mirror』を3月にリリース。これまでにDROPDEADやFULL OF HELL、HIGH ON FIRE、NAILSなどが使用した米マサチューセッツ・セイラムの名門GodCity Studioにてオーナー・Kurt Ballou(CONVERGE)手でレコーディングされ、おなじみ中村宗一郎(Peace Music)がマスタリングを担当。MA(HIDDEN CIRCUS)が手がけるアートディレクションも鮮烈な同作は、前作の方法論をより強固に推し進めた意欲作。GANG OF FOURやWIRE、CRISIS(UK)などのポストパンクを彷彿とさせる鉛色のギターを軸にハードコアパンクの意匠をより明確にしながらも、形容し難い不定形の色合いも増量。めまぐるしく、かつシネマティックに展開するサウンドノワールとなっています。本作の志向について、宮部(以下 M)、那倉(以下 N)両氏にお話を伺いました。

取材・文 | 久保田千史 | 2017年1月


――GodCityでの録音を敢行したのはどういった理由から?最近、那倉さんがCARNAGEとかIMMOLATIONのTシャツ着てたり、宮部さんがMORBID ANGELのTシャツ着てたり、愛甲さんもRelapseのロンT着てたりすることが多かったじゃないですか(笑)。Kurt Ballouは最近だとVALLENFYREなんかも手掛けていて、NAILSだってああいう音だし、ENDONもそういう気分なのかな?と思っていたのですが。

T 「それは全然ないです。たしかに、スウェディッシュ・デスメタルのリヴァイヴァルが起きて色々変わる、と思っていた時はあったし、PRIMITIVE MANが来日した時もZENOCIDEの3rd.Yと“ちょっとスウェデスな感じが良いんだよ!”って盛り上がって、M.A.S.F.もHM-2みたいなの作るべきだし!みたいに思ってたんですけど(笑)」
M 「デスメタルに希望が見えたもんね(笑)」
T 「Tシャツはフツーに巷のファッションとのリンクだと思うんですよ。ヒップホップの服屋の店員がINSECT WARFAREのTシャツ着てるとか。『Ghost In The Shell』のTシャツとMORBID ANGELのTシャツを、B-BOYがどっちも着られるのが2016年だったと思うんです。だからそれは、ただの意匠なんでしょうね。結局。まとめると90sリヴァイヴァルなんですけど。それって僕らの世代が今一番物を買ってるっていうだけの話なんで、大きい話じゃないです。東京でどう遊ぶかっていうレベルの話だと思うんで。それは十分楽しいですけどね。でも、もっと大事なことがあったんでしょう(笑)。だから曲はデスメタルにならなかったということです。GodCityはやっぱり、一重にCONVERGEにまつわるコンテクストですよね。それにCONVERGEクラシックスってロックの殿堂入りじゃないですか」
M 「『Jane Doe』ってもう15年以上も前なんですよね。僕16歳とか17歳の頃ですよ」
T 「かと言ってCONVERGEみたいなハードコアがめちゃくちゃ好きだったっていうわけでもないんですよ。自分としては当時とにかくアレンジに魅了されたんです。『Jane Doe』は“止まり方”がノイズですよね。プログレとは違って。それを聴いて、おっ!って思ったんです。『Jane Doe』と所謂日本のノイズ、アヴァンギャルド音楽を聴き始めたのが同時期だったこともあって。それ以前は、それこそMORBID ANGELとかDEICIDEしか聴いてなかったから(笑)。CONVERGEはアレンジの逸脱値が高かったんですよ。だから、CONVERGEもすごくノイズ的なピースなんですよ。僕からしてみると」

――以前の座談で那倉さんがおっしゃっていたところの、ノイズの“押し引き”みたいな部分ということでしょうか。
T 「まあそうですね。押し引きの感覚の特異性というか。あれは下地として持っているものというより、努力だと思ったんですよね。例えばKING CRIMSONは押しの努力を見せるわけじゃないですか。CONVERGEは押しも引きもあるんですけど、引きの部分の細かい話。ストップ & ゴーを重要視していてそうなるんでしょうけど。僕らも先行世代のノイズバンドと比較して音を止めるということを大事にしていますね」

Through The Mirror
ENDON ‘Through The Mirror’, 2017

――その点で言うと、今回の作品では宮部さんのギターがノイズの“間”の持ち方により合わせているように感じました。
M 「そうですね。そこはすごく意識しました」

――音色も大胆にどんどん切り替わっていくし。宮部さんのギターに今井 寿(BUCK-TICK, SCHAFT)を感じることになるとは思ってもみませんでした(笑)。
M 「あ~(笑)」
T 「エフェクターもマルチにしましたからね」

――えっ、宮部さんて、一番マルチに縁がないタイプのギタリストかと思っていました。
T 「恐らく幸宜にとって、ENDONをやることは自分が変わっていくことなんですよ」
M 「前と同じようなこともできないし、やってもおもしろくないんで。拘りを持つよりも、もうちょっと単純に、やりたい音楽を表現できる道具として扱えるようになってきたんじゃないかな、と思います」

――今回のギターはとにかく派手ですよね。
M 「派手ですね。でも今回、録音では基本的にエフェクター使ってないんです。アンプ直で録音して。重ねた本数も前作の半分くらいなんですよ。速い曲では基本1本しか入ってないです。そのおかげで、ノイズとの組み合わせでギターを弾いていないフレーズでも、なんとなくギターで弾いてるんじゃないかな?って感じるんだと思うんですよ。聴くとエフェクティヴなんですけど、ノイズの音色が変わってるのか、ギターの音色が変わってるのか、境界が見えない。ひとつの楽器みたいな感じになっていて」
T 「そうなんだよね。“Your Ghost Is Dead”の途中で、和音が増えたような感じがするじゃないですか。あれはハーシュノイズがそこから鳴るってだけなんだけど、ギターのフルコードの間にハーシュノイズが入ることによって、ギターのコードに上と下を足したみたいになってるんだよね。シンセで補強しているように聴こえるけどシンセは入れてない。キッチリと音律的に音を加えなくてもああいったことが起きる」

――そういった現象も、意識的に作り出しているのかと思っていました。
M 「曲を作る時点ではもちろん、意識的に作っています。でもやっぱり、曲を作っている段階で狙っているところと、バンドで演奏する時は違う。バンドって、演奏してみないとわからないんですよね。何かしらの効果を狙って作ったリフが、ノイズと合わせると全く違う効果になったりするので、練習の時にはそれを善しとするのか、ナシとするのか、っていう判断をします。さっきタイちゃんが言ったみたいに謎の厚みが出たり、音響として一体になる瞬間はかなり残すことにしました」

――そういう感覚ってすごくニューウェイヴですよね。
M 「ああ。そう捉えてもらえるのはすごく嬉しいですね」

――でも、ノイズ隊はノイズ隊で音色を綿密に練っているわけですよね。
M 「そうですね。ただ、あの人たちは感覚で出してくることのほうが得意なので、セッションしながらの時が一番良い音が出てくる気がします」
T 「そうね」
M 「家で考えてきてもらうにしても、やっぱり練習とか、スタジオワークでセッションした時のほうが良い音なんですよ」
T 「それはやっぱり“バンド”ってことなのかもしれませんね。スタジオに行って、みんなでガシャガシャやるのが当たり前だと思ってるのかもしれない。それだけじゃマズイんですけど。“音響作家”とか“ノイジシャン”とかみたいなアイデンティティはあまり感じてないのかもしれませんね。本人たちに聞いてみないとわかりませんが」

――そのガシャガシャを、レコーディングにはどう投入したのでしょうか。
M 「まずタイちゃん以外の全員でスタジオに入って、バンド録音で一発でやっちゃいます。ギターとドラムに関しては、そこで録ったテイクがほとんど本チャンです。ノイズはそれを踏まえて作り込んで、部分的に撮り直したりしました」
T 「お金の問題とかもあって、タイトなわけですよ。ノイズの奴らは、ラフ録って、昼間録ったギター / ドラムと合わせて夜寝る時間を削ってきっちり作る。要はPCで作業できることが多いわけですよ。それを次の日の朝、Kurtに提出。ブラックレコーディングです(笑)」

――限られた時間の中で、やっぱりかっちり作っていらっしゃるんですね。それもあってか、ノイズ的にこういう言い方はヘンかもしれないですけど“綺麗”ですよね。日本のノイズ特有の刺す高域の出方みたいなのも全然なくなって、音響的にも、楽曲的にも、聴き易いです。
T 「10年代以降のものとして、所謂アンビエント化だと思うんですよね。例えばFrank OceanがアンビエントR & Bって言われたりするような。私的にはアトモスフェリックにするというのとは微妙に違う感覚です」

――そこを“壮大になった”と言われてしまう向きもあると思うんですけど。
T 「いいんじゃないですか?でもそれはロックに限った“壮大”を扱ってるわけではないんですよ。大きなメロディと大きくないメロディ、大きなアレンジ、小さなアレンジっていうのはやっぱりあって、僕たちは大きな音楽と大きなアレンジに接近していったっていうことです」
M 「そうだね、うるさい音楽なのに曲が覚えられるとか」
T 「音楽史の中でお気に入りの楽派というか潮流があって、所謂“新しい単純性”とか“新調性派”とか言われるような。偏愛するのはヘンリク・グレツキとかフレデリック・ジェフスキ、コーネリアス・カーデュとかなんですが、大きなメロディはやっぱりそういうところからですね。昔ジェフスキの『不屈の民』を遊びでブラックメタル調にカヴァーするなんて話もあったくらいで」

――それが曲単位のみならず、アルバム単位で機能しているのも良いですよね。長さを感じないの流れというか。
M 「ああ!よかった。嬉しいです。一筆書きみたいに演奏が流れていくっていうのは、骨格の段階ですごく意識しました。今回50分くらいあるんですけど、アルバムとして簡単に聴けるものにしたかったんですよ。ハマっちゃえば50分のノイズってすごい気持ち良いとは思うんですけど、もうちょっと生活の中で聴けるものにしたかった。強弱があったり」
T 「クラシックとか映画音楽からの援用ですね。テーマを複雑にするんじゃなくて、クラシックのメインテーマみたいなものだけが繋がっていって、音響効果がバンバン変わるだけにするっていう。流れていく中で、カットをかけてく。そこで淀みとか違和感が作られるんですけど、快楽重視で作っているので、それも流れていくように。快楽の範疇を超えた違和感の置き方はしていないんですよ。そういう成立要件とで言うと、サイケに近いのかもしれない。あまり聴かないからわからないですけど」

――う~ん、でもその成立要件で言えば、サイケというよりやっぱりテクノに近い感じがしました。テクノと言っても、曲単体というより、現場の感じというか。良いDJがいるような。
M 「あ~、そうですね。DJの人たちって、自分のグルーヴのままに、自分の一番気持ち良いところを作っていくじゃないですか。それが良かったら客も反応する。うん、それはすごく似た感覚だと思います」
T 「そうなるのはやっぱり今回、幸宜が全部曲を作って、楽器の置き方を統制してるからですよね。ロックだからやっぱりギターがエラいんですよ。“ギターと関わるものとしてのノイズ”っていう作り込みを、幸宜はしっかりやったんだと思う」
M 「今回は、“ノイズという音”を把握するために使うというよりは、もっと音響効果として鳴らすためにノイズを使ってる。それって、昔のバンドがわざわざ大きいホールとかでレコーディングするとかっていう話と同じだと思うんですよ。小さい場所であっても、ノイズが場所を変えてくれるというか。そういうのがバンドの中にノイズがいるということだと思うんですよ。それと僕らは“feat. ノイズ”じゃないんで。ベーシストがいない代わりにノイズがいるし、リードギターがいない代わりにノイズがいるんですよ」

――そう考えると、ENDONてめちゃくちゃオールドスクールなバンドですね(笑)。
M 「そう、めちゃくちゃフツーのバンドがやりたいんですよ。前のインタビューで言ったみたいに、ツェッペリンじゃないですけど」
T 「出てくるのが遅かったからまあ、若手風にアレですけど、年齢と趣味から考えると、もう、軽くプチ老害入ってますから(笑)」

――あはは(笑)。でもオールドロックの例えは分り易いですよ。
T 「ギターの音なのかノイズの音なのかわからないし、ていうかまあ、どっちの音でもいんんですよ。すごく相乗的に、総合的になってる。コンポジションは幸宜が抱えてるのかもしれないけれども、それでもやっぱり独立した才能はないっていうか。幸宜の好きな音楽がこれ、っていうわけでもないしね。この人は好きなのはアルヴォ・ペルトとかなんかですから。好きな曲を書かせたら、みんなの仕事量激減します。ENDONの曲は、幸宜がみんなのことを思って作ってる曲(笑)」
M 「バンドをやるために」
T 「そう。“バンドをやるために作ってる曲”っていうのがすごくデカいわけですよ。そう思わせるみんなっていうのは、ネガティヴにそう思わせてるのか、ポジティヴにそう思わせてるのか、っていうことじゃなくて、結局そう思わせてる。やっぱりバンドっていうのは相互的・総合的な才能というか、関係性の賜物なんだな、っていう風に見ると、美談のようにも思えますね。作ってる最中はムカついてるだけですけど(笑)」
M 「(笑)」
T 「『MAMA』はみんな別々のことをやってたけど、今回はみんなで曲をフォワードして、みんなで同じ音楽をやってる。だからといって単一的なものでもなくて、関係性の賜物だとは思うんですよね。だって、嫌だったらやらないですもんね」

――(笑)!まあ、やらないすね。
T 「僕もそれ、最近気付いたんですけどね(笑)。まず第一に、嫌だったらやらないはずなんだ、っていう。僕はもう、この人が作った曲だったら、とりあえずやります」
M 「(笑)。タイちゃん“ヴォーカリストになりたい”って言ってたもんね。1stの時はかなりタイちゃんも作曲に関わってたんですけど」
T 「だから『MAMA』には僕のテイストがかなり反映されてるんですけど、それは“ノイズをどう扱っていくか”という宣言として最初のブレンディングを示しただけで、途中から僕が曲をまとめることの限界が見えてきたし、バンドとしての関係が続く中で幸宜の能力に震えたというか。お願いします!みたいな(笑)。だから今回は、これは自惚れかもしれないですけど、やっぱり僕のことある程度見て曲作ってくれたんだなとは思いました(笑)」
M 「(苦笑)」
T 「より情動的になれって念じて作ってくれてるような気がしました(笑)。 あれ?思い込みかな?事実はもう、どっちでもいいや。そんな気がして、僕自身はヴォーカルとしてコミットしました」
M 「タイちゃんのパートで言えば、題名はいつもタイちゃんがつけるんですけど、今回かなり綺麗だと思いますよ。見てもらえると、何かストーリーがあるような、ないような、みたいな感じで、1曲1曲にイメージのヒントみたいなものをくれると思うんですよ。そうやって楽しんでもらうのもいいし、全然関係なく、わけわかんねー!っていうのも楽しいですけどね」

――悦生さんの小説も素晴らしいですしね。
T 「言葉と音楽の関係っていう僕たちの態度としては今回、どう思っているかを自分たちでも言えるようになってきたし、かなり表出できているとは思います。やっぱり情動を扱うヴォーカルのトップになりたいという欲望が僕にはすごくあるので、インプロ的なヴォーカルの技巧ではなくて、やっぱりエモーションを発露するためのヴォーカルにしたいんですよ。Mike Patton的なことじゃなくて、もう完全に“自分が泣くためのスキル”みたいなことですよね。だから言葉は題名くらいがちょうど良いんですよ。音楽って時間の芸術じゃないですか。幸宜の作曲法として、みんなが知ってる意匠とかメロディを少しずつ引き伸ばしたり、収縮させたりっていうのがあるんですけど、そこに言葉が入っちゃうとまた決定的に違うものとして捉えなおさなきゃいけない。言葉が時間を切ってしまう。だから僕らの間にはまだ、言葉を入れるロジックはないですね。日本語だと特にそうですね。それをある種、音楽の流れに対して淀みや違和感を残しつつ昇華しているのがenvyだと思うんですよ。パイオニアは良いですけど、その良いところを模倣するのはすごく困難です。流麗さは学べるけど、他人の淀みのアレンジなんて盗むのは難儀ですよね。流麗で、運びが良いと“オリジナルではない”っていうのはやっぱり偏見だと思いますよ。今回、流麗だけどオリジナリティのあるものを作りたかったというのはあります。やっぱり。そして勿論、快楽として機能しなきゃいけない。ノイズの特異性は、快楽の方向に対して疎いですよね」

――前回のインタビューで“日本人がやるストレンジな音楽が嫌い”とおっしゃっていましたけど。
T 「奇をてらわないっていうのは何かって言うと、やっぱり快楽だと思いましたね。動物化、ポルノ化に対しては自覚的でなければならないとは思いますが、単純に目の前にある楽曲を聴く楽しさ、そこに過剰な言葉はいらないと判断しました。まあ、いらないと思ったものから外していったということです」
M 「うん。音楽はそういう部分があるからこそ、ヒトラーみたいな、あんなものにも利用されたんじゃないかな。ワーグナーの音楽自体は素晴らしいじゃないですか。“すべての武器を楽器に”みたいな言葉もありますが、音楽だって武器になり得るんだから。それくらい意識してやらなきゃ。曲を作るとか、演奏するとかって、そういうことですよ。だって、洋楽が好きな人全員が英語を理解しているわけじゃないですよね?なのに邦楽よりも好きになっちゃう人もいる。そういう力が音楽にはあるんですよね」

――そういう、雑に言えば“キャッチーな音楽”を作ることに対して、責任は感じているんですか?
T 「罪なキャッチーさについて」
M 「キャッチーだとは僕も思いますし(笑)、そこはすごく意識して作ってるので、言われると嬉しいです。そこには別に使命感も責任感もないんですけど、単純に、これのほうがかっこよくない?っていう。ノイズバンドだからって、キメがあっちゃダメなんですか?とか、リフがあっちゃダメなの?とか」
T 「ノイズ・ミュージックはやってないですけど、やっぱりアイデンティティはノイズ・バンドなんですよね」
M 「だから、ノイズの人からも“これノイズじゃねーよ”って言われたいですね。じゃなきゃ新しくならない。僕らはノイズ・ミュージックも聴くけど、俺らがノイズじゃなきゃいけない必要はないです。フツーにENDONというバンドがやれれば。それで色んな人に楽しんでもらえるほうが良いです」
T 「それってバンド・ドリームなんじゃないですか?ヒップホップ・ドリームばかりで、バンド・ドリームがあまりないですよね。BUMP OF CHICKEN的なロキノン・ドリームは別ですよ。そういうのはあるけど。うるさい音楽のドリームはないですよね。そのために、前のインタビューでも書いてくださったように“正解はあるというゲーム”という路線をかなり突き詰めた感じはしますね。より支配的な欲求を持ってそういう曲を作った」
M 「だって、ノイズもそうだし、テクノもある、何もある、もうすべてあるじゃないですか。コップ叩く音とか、玩具の音だけ聴いてる人すらいるわけじゃないですか。興味があるのは良いことですけど、そんなに色々あるんだから、もっと簡単でいいと思うんですよ。僕がやりたいのは“フェチじゃない”っていうことかな。本当に」

――今だったら、それってフツーだと思うんですけどね。
M 「そうなんですよね……。やっぱり、環境が整い過ぎたんじゃないですか?“このジャンルはここに行けば聴ける”とか。そうじゃなくて、“このハコにこのバンドを観に行ったのに、なんかヘンなのが出てた”みたいな感じがいい(笑)」
T 「そういう意味で“Phantasmagoria”はすごく意欲的なイベントだったよね。良いイベントだった」
M 「パンクとかメタルとか聴いてる人たちが、ダンス・ミュージックを聴いてる人たちと同じフロアにいて、差別なく音楽を聴ける環境っていうのは良いよね」
T 「でもあのラインナップはけっこう差別的じゃね(笑)?差別的っていうか、良いものを定義していたというか。悪いものがなかった」
M 「いやでも、“これは良いな”と思ってもらえるものは、やらなきゃいけないんじゃない?聴いてもらうのってやっぱりすごく緊張するし」

――緊張しますか。
M 「しますよ。だってクソかもしれないじゃないですか(笑)」
T 「それはあるよね。ふと演奏中に思うよね(笑)」
M 「だって、オリジナルの曲なんですよ!?」
T 「そうそう。それ本当そう(笑)」
M 「ライヴやったりとか、恥ずかしいじゃないですか(笑)」
T 「全く恥ずかしい人間だね(笑)」
M 「だって僕、ギター背負って自分が歩いてることほど恥ずかしいことないですもん。なんで背負ってるんだろうなあ……って思いながら」

――ENDON……ヤバいですね(笑)。
M 「“ギター持ってる俺、かっこいい”はないですね」
T 「そういう人いるの?」
M 「いるんじゃねーかな!それが自然とできる人はめちゃくちゃかっこいいかもしれないですけど」
T 「そうだったらそりゃ、めちゃくちゃかっこいいね。Chuck Berryみたいにね、ギブソンのギターと櫛だけ持ってキャデラックで来て、演奏して、帰っていくみたいなね。それくらいだったらかっこいいよ」
M 「エフェクターが入ったバッグを持ってる時とか恥ずかしいっす。だってエフェクター入ってるんですよ!? でも、恥ずかしさに素直になったから、曲が単純で分かり易くなったのかもしれない」
T 「恥ずかしくないっていうか、“これでいい”って思えるっていうことだよね。それはある」
M 「そのへんの覚悟ができたのかもしれないです。恥ずかしくない、っていうか、どうせ恥ずかしいし(笑)」
T 「そうなんだよね、何がどう転んでも、どうせ恥ずかしい人間だから(笑)」

――えーっ……(笑)。
M 「だけど、バンドをやることに対しての恥ずかしさはないかもしれない。ENDONの曲を演奏するなら。だから僕は、ENDONの中で“楽器の役割”をやってるんですね」

――なるほど。ここまで輪郭が見えているものを作ってしまったら、次どうするのかな?っていうのも気になります。
M 「それは次を作りながら見えてくると思います。それくらい自然でありたいですね。色んな音楽を聴き続けて、消費し続けて、生活して。自分の生活が1年後にどうなっているかすら想像つかないじゃないですか。それと同じ感じでENDONもやれたら」
T 「それは危険だ(笑)」
M 「曲に関してはそれでよくない(笑)?自分が知らない、聴いたことがない音楽がやりたいですね」

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