Interview | SISSY SPACEK | John Wiese + Charlie Mumma


オンキョー・グラインド

 2000年代のUSエクスペリメンタル / サウンドアートを代表する作家のひとりJohn Wieseと、LAのBLOODY PHOENIXやポートランドのKNELT ROTEなどでのプレイでも知られるドラマーCharlie Mummaによるノイズ・グラインディング・デュオSISSY SPACEKが、活動開始から20年の節目に初来日。全7公演のライヴ・パフォーマンスに合わせ、初の国内盤となる最新作3タイトル『Expanding Antiverse』([…]dotsmark)、『Spirant』(Daymare Recordings)、『Formation』(Daymare Recordings)が発売されています。それぞれ異なる側面にフォーカスした内容の3作からも窺える特異性と、一貫する本質について、John Wiese(以下 W)、Charlie Mumma(以下 M)両氏にお話を伺いました。

取材・文 | 久保田千史 | 2018年10月
通訳 | Yvko Under


――お2人の子供の頃のお話を聞かせてください。DOMMUNEに出演されたときにWieseさんはDEICIDEが好きだったっておっしゃってましたけど。

W 「好き(笑)。中学生の頃はDEICIDEとかOBITUARYとかを聴いてた。同じ頃にスケートも始めたから、その影響でBLACK FLAGみたいなパンクとかも聴くようになって。その後友達がG.G.Allinのことを教えてくれたり」

――フツーですね(笑)。
W 「うん、フツーだよ(笑)」

――Mummaさんは?パンク少年のMummaさんは想像できますけど。
M 「僕はアラスカのアンカレッジっていう、アメリカ領なんだけどアメリカでもカナダでもないような場所で育ったんだ。最初はアンダーグラウンドもメインストリームもわからない感じで音楽を聴いてたけど、そのうちパンクが好きになって、カナダのD.O.A.とかDCのFUGAZIを聴くようになった。パンクを聴いているうちにグラインドコアとかデスメタル、ブラックメタルも好きになったんだけど、パンクと同時に聴いていたのはハーシュノイズとか、もっと実験的な音楽だったんだ」

――Wieseさんは40代前半、Mummaさんは30代後半でほぼ同世代ですけど、この世代の青春時代って、パンクもメタルもエクスペリメンタルも同じようにポピュラーというか、それなりにフラットに接してた感じありますよね。
W 「そうだね、2000年代初頭にはアンダーグラウンドと現代音楽との繋がりも一般的になっていたし、2000年代半ばの、所謂インディ・ミュージックとしてのノイズの人気ぶりはすごかったしね」


――今の世代は更に様々なものをフラットに捉えている気がしますけどね。

W 「インターネット以前と以降では、辿り着き方が違うんじゃないかな。僕らの世代とインターネット以降の世代は別々のところからやってきて、同じところにいる感じがする」

――何か思うところがあるってことですか?
W 「いやいや、これは批判じゃないから。単純に経験が違うよね。人によっても違うんだけど。インターネット以前は身体的にも色々と苦労して何かを見つけてたけど、今はもっと手軽に触れられるでしょ?どちらが優れているっていう話でもないよ」

――お2人はちょうど狭間の世代って感じですよね。DOMMUNEではSISSY SPACEKの身体性と、ラップトップを用いたWieseさんのソロ・パフォーマンスを対比させた話になりましたけど、僕的には、そういう差があるように感じられないんです。
W 「どちらかと言えば君の意見に賛成。肉体的な動きが大きくなるからといってフィジカルなパフォーマンスとは思わないし、動きが小さくなってもフィジカルではないとは言えないし。差はないと思うよ」

――とはいえ、SISSY SPACEKの特徴のひとつであるグラインドコアというフォーマットは、フィジカルなイメージがつきまといますよね。原点のひとつであるNAPALM DEATHのカタログ・ナンバーは“Mosh”で振られていたわけですし(笑)。Wieseさんはパンクのシーンに関わるうちにピット・ミュージックに嫌気が差したっておっしゃってましたけど、SISSY SPACEKのライヴ中にモッシュが起こるのはOKなんですか?
W 「たしかに、モッシュピットを見るのには飽き飽きしてたね。でも僕らのライヴ中にモッシュが起きるのは全然構わないよ。そこは人任せかな。僕らがコントロールするものではないと思ってる。逆に、全然モッシュが起きないのも当然構わないし」

――グラインドコアというフォームを採りながらも、“音”そのものをメインに聴かせているということですよね。
W 「うん、“音楽”にはそれほど重きを置いていない側面があるからね。そこが他のバンドとの差を作ってるんじゃないかな。“音楽”に対しての熱量が低いっていうか。僕らは“オンキョー・グラインド”だからね(笑)」

――(笑)。MummaさんはKNELT ROTEやBLOODY PHOENIXでも叩かれていますよね。KNELT ROTEもノイズを多く扱うバンドですけど、SISSY SPACEKでのプレイと感覚違ったりしますか?
M 「僕的にはそんなに違いはないよ。叩く内容が違うだけで」

――SISSY SPACEK用に演奏方法を変えたりはしないということですか?
M 「う~ん、SISSY SPACEKの場合、自分なりのゴールをある程度は設定するかな」

――ゴール?
M 「音でどれだけ空間を埋められるか?とか、グリッドをどれだけ潰せるか?みたいな。最終的には僕じゃなくて音自体が語ってくれるものではあるんだけど」

――それは以前Wieseさんがおっしゃっていた、グラインドコアの特性のひとつですね。点が埋まって線になる、つまりはドローンになってゆくような。
W 「そうだね、点を詰め込み過ぎるとそうなっちゃう。だからSISSY SPACEKはカットアップになるよう作ってるんだ」
M 「LAST DAYS OF HUMANITYギリギリみたいな(笑)」
W 「それな(笑)。あと、レコーディングの仕方も関係あるかもしれない。これまでのメンバーもそうだったんだけど、住んでいる場所が離れていて、短時間で録音するから、生活的にも音楽的にもカットアップになっちゃう」

――ああ…。やっぱり、BLOODY PHOENIXみたいに楽曲ありきのバンドよりはフリーな感じなんでしょうか。
M 「たしかにSISSY SPACEKの方がインプロヴィゼーションの要素が強いけど、ある程度のリミットは設けて、楽曲の形になるようにはしてるよ」

――決まった形の曲を作る場合の制作過程は?
W 「やりたいことによるかな。直観、閃きから作ることもあるし、逆にしっかり構築していくときもあるし。アルバム用に曲は書いたりはするけど、それは僕らの作品作りにおける少しの真実でしかない」
M 「だいたいこういう曲にしたい、っていうアイディアはあるんだよ。そこに辿り着くために、練習しながら作る感じ」

――練習、するんですね。
W 「かといってルールを決めているわけではないよ。ガチガチに曲を作ってるわけじゃないから。レコーディングした後の編集の段階で違うことがやりたくなって、最初に決めていたものとは違う形になることもあるし」

――なるほど。そういうお話を伺っていると、楽器の扱い方、パフォーマンスを含め、音楽性は全然違うけれど個人的にHALF JAPNESEが浮かんでしまうんです。お2人とも異論があるかもしれないですけど…。
M 「名前は知ってる」
W 「HALF JAPNESE良いよね」

――Jad FairさんもWieseさんもLOS ANGELES FREE MUSIC SOCIETYと関係がある、っていうのとは別の話ですけど。
W 「うん、LAFMSとの共通点はあるかもしれないけど、彼らがフリーな感じとか、組み合わせで長く音楽を続けているのに対して、僕らはもうちょっと“音楽”作りを意識してる。だから、HALF JAPNESEみたいって言いたくなる気持ちはよくわかるよ」

――DEICIDEを妄想して今みたいな音楽が出来上がってきたことを考えると、やっぱり所謂デスメタルみたいにかっちりした音楽への憧れみたいなものもあるんですか?
W 「(ニヤニヤしながら)デスメタルは好きだけど、グラインドコアのほうが洗練されていて、賢い人たちがやっている音楽だから、僕らはそっち側にいたいんだよ(笑)」

――(笑)。でも、2018年の『Ways Of Confusion』はNuclear War Now! Productionsからリリースされましたよね。元メタルキッズとしては嬉しくないですか?
W 「嬉しい(笑)」
M 「Nuclear War Now!を運営しているYosuke Konishiは友達だし、クオリティに関しても120%信頼できるからね、嬉しかったよ」

――お2人はヴィーガンですよね。Konishiさん個人もアニマルライツを掲げていますけど、そういう繋がりもあったりするんでしょうか。
M 「それはあると思う。Konishiもヴィーガンだし、ブラスナックルを付けた人間の拳と犬の拳の絵が描いてある、“Animal Liberation / Human Extermination”っていうかっこいいパッチとかTシャツを作ってるんだよね」

――それ持ってます(笑)。
M 「そっか〜!いいね!」

――SISSY SPACEKはそういう部分を前面に出す感じではないですよね。
W 「2人の間で思想的な部分は共有するけど、SISSY SPACEKとしてスローガンを掲げるのちょっと違うと思ってるんだ」

――では、ヴィーガン・ストレートエッジを掲げている現在のMerzbowについてはどう思います?
W 「秋田(昌美)さんみたいに前衛的な考え方をする人は好きだし、もちろん尊敬してるよ。なにより秋田さんは友達だしね。2000年に初めて日本に滞在したときにコラボレーションしてから、連絡を取り合うようになって。初めての日本は大変な思いしかなかったんだけど、2回目以降は秋田さんが色んなところに連れて行ってくれて、すごく助けられたんだ」

――なにかと“友達”という単語がでてきますけど、お2人は音楽をやっていないときはどんなこと話してるんですか?
W 「全く喋らない(笑)」
M 「何も喋らないなんて、非常に平和的でしょ(笑)。そもそも、離れて暮らしてるからあまり会えないんだよね」
W 「僕らがどんな関係かは、第三者に聞いてみて(笑)」

――以前、Stephen O’Malleyさんにお話を伺ったときに、SUNN O)))について「Greg(Anderson)と友達だからできる音楽」っておっしゃっていたのが印象的だったのですが、お2人の間にもそういう感覚ってありますか?
W 「うん、バンドのメンバーが友達なのは良いことだよね。ツアーになったら長い時間一緒に過ごすわけだし」
M 「バンドを始める前から友達だったら、なお良いよね」
W 「バンドが友達と遊ぶ口実にもなるしね。楽しいことを友達とやれるっていうのは最高でしょ。ずいぶん前だけど、僕はSUNN O)))と一緒にツアーをして2人を見ていたから、Stephenの言ってることが本当だってよくわかるよ」

――今回も、お2人で日本の7ヶ所を回られたわけですが、ツアー中、印象に残った共演者はいますか?
M 「GANG UP ON AGAINST、CARCASS GRINDER、MUR MUR、黒電話666」
W 「SOLMANIA、ENDON」
M 「TEXACO LEATHERMANも楽しかったよ。シカゴのU.S. MAPLEを思い出したな」
W 「テンテンコも良かった。ていうか、みんな良かったから、さすがにここで全部は答えられないよ(笑)」

――テンテンコさんがアイドル・グループの一員だったってご存じでした?
W 「BiS階段があったからBiSのことは知っていたけど、彼女がメンバーだったのは知らなかったから、びっくりしたよ」
M 「僕もbisは知ってるよ、90年代のバンドでしょ?」
W 「それ違うビスやで(笑)」
M 「えっ、そうなんだ(笑)」
W 「へたしたらテンテンコが生まれていない時代の話じゃね(笑)?」
M 「たしかに……テンテンコは10代くらいに見えたかも……」

――(笑)!この度、初めての日本盤も発売されましたよね。『Formation』『Spirant』『Expanding Antiverse』の3タイトルを同時にリリースして、反応いかがでした?
W 「発売されたばかりだから、あまり感想は聞いてないんだ。自分でもまだちゃんと聴けてないくらいだから。ちょうど活動を始めてから20年目っていうこともあって、3タイトルで色んな側面を同時に知ってもらえ流のは嬉しいよ」

――3作はCDフォーマットでの発売ですけど、近年のフィジカル・パッケージはヴァイナルが主流ですよね。90年代の、音圧的に一番エクストリームだった時期のジャパノイズなんかもヴァイナルでリイシューされたりしてますけど、あれ、どう思います?
M 「良いと思うよ」
W 「うん、リイシューされることによって、まだ知らない人が興味を持つっていうのは良いことじゃないかな」

――僕は、ヴァイナルに向いてない音だと思うんですよね…。
W 「たしかに、エクストリームなノイズのベストなフォーマットはCDだと思う。最近だと、CDは劣ったメディアっていう風潮あるけど、そんなことないよ。理解できない。CD全然良いよ」

――Wieseさんは7″ヴァイナルの作品もたくさん発表されてますけど、カッティング等、制作が難しかったりしませんか?
W 「そうだね、ヴァイナルの場合、自分が作った音楽の新しい解釈っていう感じにはなっちゃう。そのままっていうわけにはいかないからね。その点でのベストはやっぱり、CDだと思うよ。テープも好きだけどね」

――最後に、せっかくの機会なので、全然語られていないSISSY SPACEKというバンド名の由来を教えてください。
W 「実在の人物は関係なくて、単にSが4つ入っている音が良いと思ったんだ。C.C.C.C.みたいな語感で良いでしょ?まあ、若かったんだよ(笑)」

SISSY SPACEK Official Site | http://www.gorejet.com/