太陽の下じゃなかったら?
活動歴は約20年に及ぶもアルバムは3枚のみという寡作な同バンドが、4作目のフル・アルバム『Reach Beyond The Sun』をリリース。なんと1stアルバム以前から数年間ヴォーカルを務めていたChad Gilbert(NEW FOUND GLORY)が復帰し、プロデューサーも兼任。歴代シンガーのゲスト参加も相まって90sの息吹を再び感じさせると共に、確実にアップデートも果たした傑作に仕上がっています。作品について、バンドのファウンダーにしてメイン・コンポーザー、ギタリストのMatt Foxさんにお話を伺いました。
取材・文 | 久保田千史 | 2013年1月
翻訳 | 白銀亜希子 (Howling Bull)
――最新作、最高です!前作も素晴らしいアルバムでしたが、今回はよりパンク / ハードコア色が強く、90sの空気をそのままアップデートした作品のように感じます。そのあたりは意識して作られたのでしょうか?
「ありがとう!俺たちとしては特にハードコア・サウンドを意識したわけではなくて、本当にナチュラルに曲を作った結果こういうものが出来た感じなんだよ。前作『Misanthropy Pure』では“怒り”を最大限に表現するために、サウンド面、アレンジ面でも修正に修正を重ねて、より独自性のあるトリッキーなものに作り込んでいったんだけど、言い換えれば原型を留めていない曲がほとんどだったんだ。だから精巧なアルバムになったんだと思う。良い作品だと思っているし、俺自身大好きだけど、“元々やろうとしていたこと”がなくなってしまっていたのはたしかだった。だから『Reach Beyond The Sun』では、曲を書いたらその良さを最大限ナチュラルに活かそうって思って。でもそれは俺にとって、すごく難しいことだったんだ。俺は曲を書いたら、より完成度を上げるために色々と修正したくなるタイプでさ。でも俺がギターを弾くと、プロデューサーやほかのメンバーは“それで充分素晴らしい、それでいこう”って言うんだよね。もちろん作業量は減るからありがたいんだけど(笑)。思い浮かんだものをそのまま生かすってことを受け入れるのは、なかなか大変だったよ」
――Chad Gilbertさんの復帰とプロデューサーとしての参加は、今回大きなトピックのひとつですよね。彼が戻ることになったきっかけがあれば教えてください。NEW FOUND GLORYとのスプリット作の前後には決まっていたことなのでしょうか。また、彼が戻ったことは今回の作品にどんな影響をもたらしましたか?
「ああ、7inchのスプリットのことか。あれはNEW FOUND GLORYと一緒にやったツアーだけで売った作品なんだよね。そのツアーで俺たちがサウンドチェックをしているとき、Chadに“何か新しい曲やってよ”って言われて演奏した曲の一部が、今回のアルバムに収録されているよ。Chadは新曲をすごく気に入ってくれて、話をする中で“次作は何か手伝ってよ”って言ったら“うん、やろう”みたいなノリになったんだ。それが2008年かな。ちゃんと一緒に仕事をするって決めたのは数年後だけどね。アルバムを作るにあたって、Chadとベースの(Matt)Fletcherは2人とも同じことを考えていたんだ。さっき話した“曲をいじり過ぎない”ってポイントだね。2人が揃ったことで方向性が決定したんだ(笑)。Chadに至っては俺が作ったものから更にパートを削ったりしたからね。プリプロで俺が曲を演奏したら、“この部分はいらないと思う”って言うんだ。凄くかっこいいと思って入れたリフだったから“なんで?!”って言ったんだけど、試しにナシにしてみたら、その部分がなくても曲がしっかり成り立っていたんだよね。そういうことか……みたいな感じがあった。そこがやっぱり、彼がもたらした一番大きな影響かな。Chadは“いらない”、俺は“いる”って散々やりあった上で、上手くバランスが取れたから今回良い作品になったんだと思う」
――Matt Coveyさんのパンキッシュなドラミングも今回の作品のテイストにぴったりですね。SHAI HULUD史を紐解くと、彼は長く在籍しているドラマーの1人であると思います。やはり現在のSHAI HULUDにフィットした存在なのでしょうか。
「彼はレギュラー・メンバーとして一緒にプレイした中では最高のドラマーだと思うし、彼ほど激しく、かつソリッドに叩けるドラマーもほとんど見たことがないよ。素晴らしいアイディアも持っているしね。確実にSHAI HULUDのバックボーンを支えてくれてるよ」
――2010年の来日時はMike Moynihanさんがヴォーカルでしたが、彼も素晴らしいシンガーでしたよね。現在はHOLLOW EARTHでの活動に専念しているようですが、彼のヴォーカルで音源を制作するプランはなかったのですか?
「うん、そういう予定もあった。1年半くらい前かな。一緒にツアーをしている段階でレコーディングの日程も決まっていたし、Chadがプロデュースすることも決まってた。でも彼はギターを弾きたい、自分で音楽を作りたい、ということでHOLLOW EARTHをスタートさせたんだよ。そこでChadに電話して、“歌わない?”って聞いたんだ。最初は断られたけどね!」
――(笑)。こんなことをお伺いするのはちょっとビミョーかもしれませんが、SHAI HULUDはメンバーの入れ替わりが激しいですよね。なぜなのでしょう?単純にそれぞれのタイミングが合わなくなってくる、というようなことなのでしょうか。
「全然聞いてもらって大丈夫だよ(笑)。みんな、それぞれの人生やそれぞれの欲求、好み、性格があると思うんだ。2人しかいない恋人同士ですら、長いことうまくやっていくのは大変なことだよね。それを5人で、しかも誰にも恋愛感情がない状態で(笑)、臭い機材車で四六時中移動しながら、大してお金も儲けられずにずっと一緒に居て、かつステージの上で心をひとつにして表現するっていうのは本当に大変なことだ。でも、誰かがすごく酷かったとか、メンバーが追い出したとか、そいういうことはないよ。みんな、ちゃんと話し合いをして決めたから、過去に在籍していたメンバーとは今でも全員友達だしね」
――そんな中でも、Fletcherさんは長きに亘ってあなたと共に行動している人物です。ZOMBIE APOCALYPSEでも一緒でしたし、特別な信頼関係を感じます。名前が同じだから仲が良いとか(笑)?15年近くも彼とバンドをやっていることになりますが、喧嘩するようなことはなかったのでしょうか。何かエピソードがあれば教えてください。
「名前は関係してるかもね(笑)!ていうかSHAI HULUDはMattだらけだから。一時期はバンド内に4人もMattがいたし。Fletcherとは1999年からずっと一緒だね。学校に行くために少し休んだり、今年も膝の手術で暫くツアーに出られなかったりするけど、彼はずっと作曲面でも一緒にやってきてるし、また次のアルバムも一緒に作るだろうし。SHAI HULUDがなくなるまで一緒なんじゃないかな。でも酷い喧嘩はたくさんあるよ。バンドっていう状況の中で喧嘩をしないなんて、まず無理だからね(笑)!レコーディング中も喧嘩ばっかりだし。でもまあ、大事な口論だけどね。兄弟でも恋人同士でも喧嘩はするからさ。それが根本的に関係性を悪くするような性質のものではないってことだよ。もちろん、つまらない類の喧嘩もたくさんあるよ(笑)」
――前作でのMatt Mazzaliさん、前々作でのGeert van der Veldeさん、暫し参加されていたJustin Krausさん。歴代シンガーの参加が感動的です。なんといっても初代シンガーDamien Moyalさん(AS FRIENDS RUST, BIRD OF ILL OMEN, CULTURE, MORNING AGAIN ほか)の参加には驚喜を隠せません。彼らが参加に至った経緯と、その意図について教えてください。
「みんな仲良くしていて、ずっと連絡を取っていたんだ。その中で新作の話をする時に“次何か一緒にやろうよ”って声を掛けてあって、みんな“いいよー”って感じだったから歌詞と曲のデモを送ったんだよ。全員すごく気に入ってくれて、ぜひやりたいって言ってくれたんだよね」
――ALPHA & OMEGAやTHE GHOST INSIDE、BLACKLISTED~REIGN SUPREMEといった最前線の若き面々も参加していますね。彼らはどんな理由から参加に至ったのでしょう。また、彼らのほかにもお気に入りの若いバンドがいれば教えてください。
「ALPHA & OMEGAはChadが知り合いだったから彼が声をかけたんだよ。Chadはカリフォルニアに住んでるから。俺は東海岸に住んでるからJay(Pepito / BLACKLISTED, REIGN SUPREME)を知っていて、数年前からOKをもらっていたんだ。THE GHOST INSIDEは西海岸だけど、一緒にツアーをしたことがあるから知っていたし、主張のある素晴らしいバンドで性格も凄く良いから、ぜひ参加してもらいたいって声を掛けたんだ。Jonathan(Vigil / THE GHOST INSIDE)は俺たちがレコーディングしている場所から20分くらいの所に住んでいたらしくて、当日は電話をしたらすぐ来たよ。彼は凄く良い声をしているよね。ある程度歳を取ってくると、だんだん若いバンドのことには疎くなってきてしまうんだけど(笑)、俺が知っている中ではHUNDREDTHとCOUNTERPARTSが良いな。この2つのバンドは最近では珍しくスマートなスタイルのハードコアをやっているんだ。それが注目されている理由だと思うんだよね。それにどちらも歌詞が素晴らしい。ちゃんと意味のあることを歌ってる。俺にとっては大事な要素だからね」
――近年、SHAI HULUDが登場した頃のハードコアに対する再評価が高まったり、90sにインスパイアされたバンドも多数誕生しています。そういった空気を肌で感じることはありますか?
「再評価の動きはますます大きくなると思うよ。そういうつもりでバンドを組む人たちが増えているんだけど、今一番メジャーなのは80sのNYHC系だと思う。俺も90sハードコアが音楽的にだけではなくて、歌詞を含むスピリットとして復興することを望んでるよ」
――あなたの生み出すリフや楽曲群は、当初からかなり独特のメロディと複雑な展開が特徴的ですよね。ハードコアやメタルだけを聴いていたのでは成し得ないものに思えるのですが、普段はどのような音楽を好んで聴かれているのでしょうか。
「俺自身はいろんな音楽を聴くよ。ずっとメインで聞いてるのはやっぱりパンク、メタル、ハードコアだけど、例えばクラシックや映画のサウンドトラックなんかも聞くし、ケルト音楽、Enyaとかも好きだし、サーフロックや昔のロックンロールも聴くよ。俺が大事にしているのはメロディなんだよね。だから俺はMETALLICAが大好きなんだ。彼らが素晴らしいメロディやハーモニーをこのジャンルに取り入れた最初のバンドだと思っているんだ。でも当時は俺も若かったから、よく分かっていなかった部分もあるんだけどね。俺が最初に衝撃を受けたのは、80s半ばか後半くらいに聴いたアリゾナ出身のサーフパンク・バンド、JFAだった。強烈なエモーションと綺麗なメロディがあまりに素晴らしく融合していて、心底感動したんだよ。それ以来、俺の課題はその2つの要素をいかに組み合わせるかっていうことになったんだ。ニュージャージーのTURNING POINT、Revelation RecordsのBURN、友達のSTRONGARMとか、俺が好きなバンドは全部そういう要素を持っているんだ」
――今回のアルバムのテーマや、カヴァー・アートに込められた意味があれば教えてください。
「アルバムのテーマは、タイトルを読んでそのまま“太陽の向こうへ行こうとする”ということなんだ。俺たちのバンドが発信する内容には楽観的な面、悲観的な面、両方あると思うんだけど、大事にしているのは常にリアリティなんだ。今現実として目の前にあることは、悲観するしかない酷いものかもしれない。でも、だからって何もできないというわけではないんだ。とにかく一歩踏み出さないといけない。アートワークでは、真っ黒な太陽に向かって手を伸ばしている様子が描かれていけど、“今見えている現実は真っ暗でも、その向こうに何か違うものがあるかもしれない、前に進もう”っていう意味なんだ。旧約聖書に“There is nothing new under the sun(太陽の下に新しきものなし)”っていうイディオムがあるんだけど、それにも関係しているんだよ。全てのことは繰り返しで、新しいものなんかないって意味なんだけど、これを思い出したときに俺は“じゃあ太陽の下じゃなかったら?”って思ってさ。それがこのコンセプトを思いついたきっかけだよ」