トラウマになるような活動
取材・文 | 久保田千史 | 2014年2月
main photo | ©Miki Matsushima 松島 幹
――masaさんはSEXを始められる以前はハードコア・バンドでプレイされていたんですよね。
「10代の頃に、RUTHLESSとKattu-という2つのバンドをやっていました。RUTHLESSではギター、Kattu-ではヴォーカルをやっていたんですよ。RUTHLESSはCONCLUSIONというバンドの狂壱くんがドラムで、後にMETAL SKULLに加入するシンジくんがベース・ヴォーカルっていう、不思議な組み合わせだったんですけど」
――それめちゃめちゃかっこ良さそうですね!音源は出ているんですか?
「デモを出してましたね。おもしろいバンドだったと思いますよ」
――そこから今のようなスタイルへ変化したのには、何かきっかけがあったのですか?
「パンクやハードコアを聴いたりバンドを組んだりする以前に、もっと若い頃はヴィジュアル系も聴いていたので、元々好きではあったんですよ。パンク、ハードコアのバンドを続けながら徐々に色んな音楽を聴いてゆくにつれ、周りがちょっとびっくりするような、何かおもしろいことがやりたくなってきて。中途半端にやるよりは振り切れたほうが良いと思って、突然こういうバンドを始めたんです」
――若い頃に聴いていたヴィジュアル系というのは?現在のサウンドからも連想される、X的な80sメタルコア寄りのものでしょうか。
「ヴィジュアル系全般という感じではないんですけどね。リアルタイムでよく聴いていたのは黒夢の中期・後期あたりだったんですよ。そういう世代です。12歳くらいの話ですけどね」
――赤いダイエースプレー・ヘアはかまいたちと比較されることも多いと思うんですけど、そういった時代のものはディグって知ったんですね。
「そうですね。徐々に知っていった感じです。かまいたちはドラマーのdieがすごく好きですね」
――Extasy系はいかがですか?
「Extasy系のバンドも一通り聴いたんですけど、やっぱりdieが特に好きなんですよ。彼はDISCHARGEやGAUZEのようなハードコアも大好きですけどね」
――masaさん自身はどんなイメージだったのでしょうか。
「結成したばかりの頃はGASTUNK、AIONあたりをよく聴いてましたね」
――なるほど。GASTUNKは今回、カヴァー(“Birth of Stars”)も収録されていますもんね。初期のDEAD ENDなんかはどうでしょう。
「DEAD ENDは、CREATURE CREATUREを観に行った時にMorrieさんと直接お話できる機会があって、その一夜で一気にファンになりましたね。佇まいも素敵な方で。以来、より意識的に聴くようになりました」
――そうですね、DEAD ENDは最近の曲もかっこいいですもんね。
「かっこいいですよね、本当に」
――とはいえ、SEXについて最も引き合いに出されることが多いのはやっぱり初期Xですよね。
「たしかに、結成当初は特に強く意識していたバンドではあります」
――Xはジャパコアとの繋がりが深かったバンドですし、masaさんが元々ハードコアをやっていらっしゃったこともあって入り込み易かったのでしょうか。
「そうですね。ただのヴィジュアル系ではなくて、ハードコアにも通じるような音楽性、活動のスタンスも含めて、惹かれるものがありましたね」
――SEXがメタルに振り切らずにパンクのテイストを残しているというのは、XとGHOULの関係のようなところを意識していらっしゃるということなのでしょうか。
「意識的にやっているっていうことは全くないですね。無意識のうちに」
――染み付いている感じで。
「たぶんそうです。自分もそうですし、メンバーも同じように10代の頃からパンク、ハードコアを聴いていたような連中なんで。自然と出てしまっているだけだと思うんですよね。ただ最近は、より幅広い音楽性を取り入れて、もっとおもしろいことをやって世界を拡げていきたいと思っています」
――Atsuoさんをプロデューサーとして迎えたのにもそういった意図が込められているのでしょうか。
「意図したわけではないですけど、結果的にはそうなっているんだと思います。今までSEXの作品を手に取ってくれなかった層に興味を持ってもらえるものになったので、それは良い傾向ですね」
――Atsuoさんとの関係はどんな風に始まったのですか?Borisのミュージック・ビデオにSEXが登場していたこともありましたけど。
「Borisの“H.M.A. -Heavy Metal Addict-”という曲で、SEXのPVをそのまま使いたいという旨、レーベルを通してご連絡いただいて。 その後『0(ゼロ)』をリリースした時、Atsuoさんにコメントをいただいたんですよ。ライヴにも来ていただいたり、気に掛けてくださっているのは知っていましたし、ありがたいなあと思っていたんですけど、当時メンバーが抜けたこともあって次に決まっていたリリース自体が流れてしまったんですよね。それでまた、ここ2年くらいでリリースできる環境が整ってきたので、自分の方からBorisのライヴに伺ってお話をさせていただいたんです。すごく懐の深い方なので、おもしろがっていただけて。そこから始まりました」
――Atsuoさんは独特の感性をお持ちの方なので、レコーディングもこれまでとは違っていたのではないかと想像するのですが、いかがでしたか?
「これまでプロデューサー不在の形で、判断は基本的に自分たちだけでしていたんですね。自分はけっこう“完璧にしたい”とか“こうじゃないと”っていう気持ちで曲を作っていたんですよ。“正解は1つだ”みたいな。でもAtsuoさんと出会って全く違うレコーディング手法や考え方、感性を知って、発見の連続でしたね」
――曲作りやアレンジに関してもAtsuoさんの助言があったのでしょうか。
「そういう部分に関してはあまりなかったです」
――以前に比べると、立体的な仕上がりになっていますよね。ヴィジュアル・メタルへの愛を確実に感じる楽曲であることに変化はないんですけど、アレンジや音響面が垢抜けて、より幅広い層に開かれた印象になったと思います。
「ありがとうございます。SEXってこういう見た目なんで、“きっとこうだろう”っていうイメージをすごく持たれ易いバンドだと思うんですよ。そういうところに対して、“実際はこんなのも持ってるよ”というのを徐々に見せていけたら良いですね。それぞれの受け手の感覚で捉えてもらえればいいんですけど、広い意味での“ロック”というか。それがアレンジにも現れているとは思います。今後は色々な引き出しを開けて、そういう部分をより出していきたいですね」
――でも見た目は変わらないっていうのが良いですよね(笑)。
「見た目を変えるのが一番早いんですけどね(笑)。このヴィジュアルとバンド名が諸刃の剣だということは認識してるんで。そこを良い意味で裏切れるような楽曲を作っていきたいな、とは思ってます」
――アートワークもかっこいいですよね。ファッション面で洗練されたところもあるんでしょうか。
「アートワークは本当に素敵ですよね。このヴィジュアルでこういったアートワーク、というものは今までに見たことがなかったので、そういった意味では洗練されましたね」
――ファッションの部分ではどんなところに拘りを持っているのでしょう。このスタイルで、かっこよく見えるのってすごく難しいと思うんですよ。
「まずは、赤です。ただ、ファッションも独自の方向に行きたいとは思ってます。革パン穿いて、弾丸ベルト着けて、っていうスタイルをずっと続けてたんですけど、最近は少しずつ変わってきてますね。自分は普段スカートを穿いたりするんですけど、最近はライヴでも穿いてますね。今は脳内の絵とのギャップを埋めていってる感じです」
――今回はヴォーカルの輪郭がクリアになった感じも印象的でした。
「制作する中で、これまではがむしゃらに歌ってたようなところを、力を抜いてやったりしてみたんですよね。聴こえ方は今までと全然違うと思います。歌い方の部分でも、今までなかった形をどんどん提示していきたいですね」
――masaさんは、ヴォーカリストとして影響を受けた人とかいらっしゃるんですか?ハードコアパンク時代は今みたいな歌い方じゃなかったわけですよね。
「そうですね。ハードコアの時は基本シャウトでしたね。それ以前の、ヴィジュアル系とか黒夢が好きだった12、3歳の頃は清春さんの歌マネとかをしていたわけですよ」
――まあ、小中学生はやりますよね(笑)。
「そうなんですよね(笑)。それが結成当初は出ていたんたと思うんですね。だから一度、その癖を抜いてフラットにする作業をしたんです。今はそこから、自分なりの色を付けていってますね。今回で言えば“The Birth of Stars”では一つの色がよく現れていると思います」
――ギタリストとしてはどうですか?hideさんのプレイはやっぱり研究したのでしょうか。
「hideさんはもちろん好きですけど、ギターのプレイ以上に、“メロディ・センスの持ち主”だと思っていますね。もっと言えばファッションやパフォーマンスを含めた“存在”に惹かれますね。当時の映像を観ていても全然古くないし、常に先を行っていた人なんですよね。プレイ面では、GASTUNKのTatsuさんやMichael Schenkerにすごく影響を受けましたね」
――すごいですね(笑)!
「そうですね、それは嬉しかったですね」
――そのお2人というのが渋いですね。
「そうなんですかね。このお2人は、共通するところがあると思うんですよ。泣きの要素とか。Michael Schenkerは来日公演も何度か観にいってるくらい好きですね」
――何年か前の中野サンプラザもご覧になったんですか?
「そうですね。当日、直接お会いする機会があってSEXのフライヤーを渡したんですけど、その時の模様が来日時のDVDに映ってるんですよ。普通だったらカットする部分だと思うんですけど、残してくれていて。それを勝手にMichaelの優しさだと思ってるんですけどね(笑)。一応存在は知ってくれてるという」
――masaさんの世代だと、泣きのギターと言えばメロデスやある種のブラックメタルのようなものも身近にたくさんあるわけじゃないですか。全然そっちには惹かれなかったんですね。
「一応聴いてはいるんですけど、その時は心に稲妻が走るような衝撃がなかったんでしょうね、きっと。まだ出会ってないだけかもしれないですけど。自分の中で心にグっとくるものがあったのが、MichaelやTatsuさんだったんです。すぐに流れていっちゃう音楽も多い中、この2人のメロディーは流れていかない。引っかかって仕方ないんですよね。Michaelの音楽と初めて出会った時のシチュエーションなんかも鮮明に覚えてますしね。自分の部屋で独りCDコンポの前で対峙して。彼が19歳くらいの頃にリリースした音源にヤラれました」
――Michael Schenkerを聴き始めたきっかけって、何だったんですか?
「色んな過去の音楽を漁っていく中でたまたま雑誌に載っているのを見て、聴いてみたんですよ。Michaelの前に、Tatsuさんのギターが好きでずっと聴いてたんですけど、Michaelを聴いた瞬間“Tatsuさんだ!”と思ってびっくりしたんですね。Tatsuさんの手癖がマイケルの手癖だったり、マイケルの手癖がさらに過去の人の手癖だったり。音楽って本当に影響の繰り返しだな、というのをその時に感じましたね」
――今の人って、あまりそういう風に過去に遡るような聴き方をしないって言われますよね。
「最新の音楽でも、素晴らしいものはたくさんあると思うんですよ。でも自分は、まだ聴いたことがない、過去に存在したものも知りたいという欲求が強くあったんで。まだまだ全然聴けていないとは思ってるんで、もっと知ろうとはしていますね。Atsuoさんも過去の音楽にすごく詳しい方なので、“宿題”って言って色々貸してくれるんですよ(笑)。色々な音楽を知っては反芻しながら自分の持っているものを活かしていけたら良いですね」
――たしかに、パッと聴いた感じはヴィジュアル・メタルなんですけど、様々な音楽を聴いてきた芳醇さが随所に現れている気がしますね。さっきおっしゃっていたような、広い意味での“ロック”感というか。
「それはそれは。ありがとうございます」
――SEXって、特に仲が良いバンドとかいるんですか?
「う~ん、どこにも属してない感じになってるんで、難しいんですけど(笑)。MEANINGは何度かイベントやツアーサポートに誘ってくれましたし、『♀』盤の“悪魔の歌”でドラムを叩いてくれたChargeeeeee…がやっているOMEGA DRIPPとか、スタッフが共通の流血ブリザードとかですかね。流血はちょっとご無沙汰なんですけど。あとは今回のシングルのレコ発もそうなんですけど、Borisとは最近よくご一緒させていただいてます。パンクでも、ヴィジュアル系でも、メタルでも、ノイズとでも、どこでもやれるのがSEXだと思ってるので、あえてどこかに留まるつもりはないですね」
――ヴィジュアル・メタルというと、上下関係的なシーン形成が浮かぶじゃないですか。
「ああ~(笑)。そういう、上下関係を重んじるのもひとつだとは思いますけど、自分は良くも悪くも何かの枠に入ったり、どこかに収まるのがあまり好きではないんですよね。どんどん飛び出して、色んな素敵な方々と、ジャンルも関係なく出会っていけたら良いですね。それはお客さんにも反映されることだと思うんですよ。所謂バンギャがいても良いし、パンクスがいても良いし、ヘドバンしてる子が居ても良いと思うし、じっくり音に浸って音楽を聴きにくる子が居ても良いですし。自由に、それぞれが楽しんでるライヴにしたいんですよ」
――海外での活動は視野に入れてないんですか?
「海外からも、“こっちでライヴやってほしい”っていうメールはけっこういただくんですよ。反応はたしかに色んな国からあるんで、いずれは海外でもやりたいんですけど、まずは国内が先決かな、と思っていて。日本でも行ってないところがたくさんあるんで。まだ出会ってない人がたくさんいると思うので、それからですね、海外は」
――真面目ですね(笑)。
「そんなことないっすよ(笑)」
――SEXはこれからどこに行ってしまうんでしょう。
「今回リリースした曲や、これから控えてる曲たちが行く先を教えてくれると思いますよ。それを、今これを読んでくれている人はもちろん、自分自身の楽しみにもしたいですね。まだお見せしていない引き出しがたくさんあるんで、その辺りを開けつつ、聴く人のトラウマになるような活動をしていきたいな、と思ってます」
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