Interview | Tara Jane O’Neil


“ひとつのことだけ” は超退屈

 現在は米オレゴン・ポートランドを拠点に活動するミュージシャン / 画家・Tara Jane O’Neilが、二階堂和美とのコラボレート作『タラとニカ』をSweet Dreams Press / K Recordsからリリース。ソロ作、RETSINなどでのシンガーとしての魅力はもちろん、RODANやTHE KING COBRA等での活動、JACKIE-O MOTHERFUCKERへの参加など、多彩な顔を見せるマルチ・インストゥルメンタリスト / サウンド・アーティストとしても名高いTJOと、ヴォイス・パフォーマー / サウンド・メイカーとしての二階堂和美。2人がほぼ全篇即興で作り上げたのは、コミュニケーションの空気が伝わる心地良い緊張感と、巧みな音選びがナチュラルに流れる“時間”そのもの。TJOに、本作についてお話を伺いました。

取材・文 | 久保田千史 | 2011年6月
通訳 | Ryo Matsuura 松浦 亮
main photo | ©Sarah Cass


――このアルバムを作ろう!ということになったのはいつ頃だったんですか?

 「う~ん、2008年かな?東京で個展(”What Becomes What” / 東京・広尾 UNIVERSAL MARGINAL heights)も開かせてもらったツアーの時。ツアー前に“ニカと一緒にやりたいんだけど、いい?”って訊いたら“いいよ!”って」

――なぜ彼女となら良いものが出来ると思ったのでしょう。
 「実際はどうなるか全然わからなかったんだけど(笑)。このアルバムの話が出る前にやった3回のジャパン・ツアーで何度も共演して、彼女のことが好きだったから。実験だね」

Tara Jane O’Neil + 二階堂和美 / photo ©<a href="http://minorsweet.tumblr.com/" target="_blank" rel="noopener"><span style="color: #ffffff;">Ryo Mitamura 三田村 亮</span></a>
photo ©Ryo Mitamura 三田村 亮

――二階堂さんとTaraさんは、アルバムでしか接していない方々には“歌もの”のイメージが強いんじゃないかと思うんです。今回はインストゥルメンタルで、かつエクスペリメンタルな作品なので、そういった皆さんには最初ちょっと取っ付きにくいかもしれないという気がしたのですが……。
 「う~ん、あたしは別にオーディエンスのために音楽を作っているわけじゃないから。歌を歌っている作品はもちろんあるけど、インストゥルメンタルが良い時もあるし。エクスペリメンタルだったり、ノイズだったり、その時々で色んな音楽をやりたいの。ひとつのことだけっていうのは超退屈だから。それが皆に受け入れられるかどうかっていうことは考えてないな」

――そりゃそうですね。
 「あたしが最初に聴いたニカのアルバムはイールさん(『また おとしましたよ』2003, Poet Portraits)だったんだけど、初めて彼女の声を聴いた時の印象って強烈だから、気持ちは分かるんだけどね」

――この作品を作るにあたって、何かコンセプトはありましたか?
 「全然。何にもなし(笑)」

Tara Jane O’Neil & 二階堂和美 'タラとニカ', 2011 <a href="http://bayon-p.com/" target="_blank" rel="noopener"><span style="color: #ffffff;">Sweet Dreams Press</span></a>
Tara Jane O’Neil & 二階堂和美 ‘タラとニカ’, 2011 Sweet Dreams Press

――とりあえず集まって、音を出して、という感じ?
 「そう。最初はtonraum(スタジオ / 京都)で。小さな部屋に福田(教雄)さん(Sweet Dreams Press)、Geoff Soule(FUCK, THE NAYSAYER)、ニカ、あたし。で、録音。パーカッションとか、ストーブとか、ヤカンを叩いて。2回目は旧グッゲンハイム邸。tonraumで録ったセッションにオーヴァーダブしたの」

――すごくリラックスして、楽しい雰囲気が伝わってくる録音ですよね。
 「カフェや車の中でも録音してすごく楽しかったし、リラックスしてたけど、チャラい感じじゃないよ、もちろん(笑)。音を出す時はかなり集中してたから」

――車の中でも録音したんですか?
 「本当は琵琶湖のほとりで録音するつもりだったんだけど、風が強くて。ジャケットはその時の写真。マイクを持っているのが東(岳志)さん(tonraum)。この写真気に入ってるの」

――ライヴでは音源とは一味違った感じになっていましたね。
 「あたし自身は特に楽器を変えたりしていないんだけど、ライヴでは一緒にやるプレイヤーがいつも違うから、そういう風に聴こえるんじゃないかな」

――Taraさんはソロでライヴをされる時も、同じ曲でも毎回随分と違って聴こえるんですよね。それもあまり意図していないんですか?
 「コピー機みたいにいつもいつも同じように演奏するのが嫌だから変えてるの。そんなの全然楽しくないし」

――じゃあ、形の決まったものより、今回のアルバムのようなフリーフォームな作品を作るほうが実は楽しい?
 「そうね、録音している時はめちゃめちゃ楽しかった。演奏してる時は。デートみたいな感じで。でも最終段階はツラかったなあ~(笑)。録音したものをProToolsで編集したんだけど、すごく大変で。福田さん、東さん、ニカの写真をPCの前に飾って、それを見ながらがんばったわけ(笑)。ハァ……」

――いつものソロ・アルバムと、今回のようなアルバムの決定的な違いってなんでしょう。
 「歌がない(笑)!」

――そ、そうっすよね(笑)。今回の作品では、Taraさんの1音1音を扱う瞬発力がいつにも増して強烈だと思うんですよ。
 「そうね、それは正しいと思う。ほとんどのパートでは何も考えずに、出てくるものをそのまま音にしていったから。オーヴァーダブの時はもう少しちゃんと選んで作るようにしたけどね。最初に何か決めて作ったのは“4 Trains”だけかな。でもその曲もほとんどインプロヴァイズなの。Moondogの曲とか、ニカに教えてもらった“蘇州夜曲”(服部良一)もやったんだけど、あまり上手にできなかったからお蔵入り(笑)」

――それは聴いてみたいですね!
 「あたしが死んだらね(笑)」

――えーっ(笑)。ライヴを拝見した時、お祭りというか、ちょっとリチュアルな感じがしたのですが、そういう雰囲気は意識していたのですか?
 「ニカのパーソナリティもあると思うけど、パーカッションが入っているからプリミティヴな感じがするのかな。でも特に意識しているわけではなくて、その時その瞬間で感じたものをそのまま音に出そうと心がけているから、それがリチュアルな雰囲気に繋がっていくのかもしれないよね」

Tara Jane O’Neil / photo ©<a href="http://www.meganholmes.com/" target="_blank" rel="noopener"><span style="color: #ffffff;">Megan Holmes</span></a>
photo ©Megan Holmes

――アンコールでは「サザエさん」のエンディング・テーマを少しカヴァーしていましたね。“タラちゃん”が有名なキャラクターだってこと、知らなかったんですか(笑)?
 「うん……ニカにダマされたわけ……(苦)。今はちゃんとわかってるよ。日曜の夕方でしょ?」

――その通りです(笑)。日本には何度もいらしゃっているTaraさんですが、今回は状況が状況だけによく来てくださったなあ、って思います。
 「日本のアーティストと一緒にアルバムを作って、日本のレーベルからその作品が出ているんだから、日本のオーディエンスにライヴを観てもらうのは良いことだし、当然だよ。10日間くらい日本にいても死なないってことくらいわかるし」

――ありがとうとしか言いようがないです。
 「こちらこそ!ありがとう!」

Tara Jane O’Neil Bandcamp | https://tarajaneoneil.bandcamp.com/
二階堂和美 Official Site | http://www.nikaidokazumi.net/