気を遣い過ぎると楽しくなくなっちゃう
取材・文 | 久保田千史 | 2013年12月
――MINさんは、いつ台湾からいらっしゃったのですか?
「不知不覺我就在日本了。
気付いた時にはもう、日本にいたんです」
――えっ(笑)。何をきっかけに今日本にいるということ認識したのでしょう。
「因為我周圍的人說的話我都聽不懂。
わからない言葉をみんな喋ってるから」
――その状況の中で、バンドのメンバーはどのようにして見つけていったのでしょうか。
「我的團員們突然一個人接著一個人聚集到我身邊、我也搞不懂(笑)。一開始是貝斯手的翔、然後另外兩個人就出現了。所以我們就組團了。我是三藏法師、翔是悟空、玲生是沙悟淨、肉包鼓手是幹、我們一起往西邊移動、朝著天竺走。想帶著更多人一起去。
メンバーは勝手に集まってきてたから、よくわからない(笑)。最初はベースの翔くん1人しかいなかったんですけど、気付いたらポポン!てもう2人出てきて。それでバンドが始まったんです。わたしが三蔵法師で、翔が悟空、玲生(g)が沙悟浄、肉まんドラマー幹が八戒として西に遊びながら天竺を目指していますが、どうせならもっとたくさんの人たちを連れて、みんなで行きたいと思ってます」
――“杏窪彌”はどんな意味なんですか?
「“un ami”是法文的朋友的意思、我加上自己的名字“min”想出的造語。是有意思的。
“un ami”ってフランス語で“友達”っていう意味で、そこに自分の名前の“min”をくっつけて作った言葉です。意味を込めてるんです」
――バンドは以前からやりたかったのでしょうか。
「也不是。但從以前就很喜歡唱歌。
そうでもないです。でも、歌は大好きだったから」
――台湾にいた頃から歌は唄っていたのですか?
「我小時候長跟阿嬤在一起、所以長聽阿嬤喜歡的台語。很有鄉土味。你們可能會嚇一跳(笑)。
そうですね。おばあちゃん子だったから、おばあちゃんが唄っている、中国語じゃなくて台湾語の歌を聴いてました。ローカルな感じ。聴いたらローカル過ぎてびっくりするかもしれない(笑)」
――台湾に古くから伝わる歌ということ?
「對。
そうです」
――その影響が現在、杏窪彌として唄うにあたって出てきたりすることはありますか?
「我想沒有(笑)。台語歌的唱法、有點像演歌。
出てきてないと思います(笑)。台湾の歌の唄い方は、ちょっと演歌っぽかもしれない」
――台湾のポップスなどは聴いていなかったのでしょうか。
「不常聽、國中的時候喜歡聽西洋的音樂、高中的時候才開始聽日文歌。然後就變成只聽日文歌了。
あまり聴いてなかったですね。中学生の頃は洋楽をよく聴いていたんですけど、高校生になってからは日本の音楽を聴くようになって。そこからはもう、日本のしか聴いてないです」
――ほかのメンバーはどんな音楽が好きなの?
「風飛飛、鄧麗君、“望春風”、Sadistic Mika Band、CHAKRA、坂本 九、小林 旭、吉 幾三、水前寺清子、町あかり、むせいらん、Martin Denny、YMO、“北風小僧の寒太郎”、“みんなのうた”、はっぴいえんど、大滝詠一等等。
フォン・フェイフェイ、テレサ・テン、“望春風”、サディスティック・ミカ・バンド、チャクラ、坂本 九、小林 旭、吉 幾三、水前寺清子、町あかり、むせいらん、マーティン・デニー、YMO、“北風小僧の寒太郎”、“みんなのうた”、はっぴいえんど、大滝詠一とかみたいです」
――杏窪彌としてのコンセプトのようなものはあるのでしょうか。
「杏窪彌是幻想中的國家。杏窪彌王朝。裡面住4個人。有夢想、有崇景、有冒險、加上有點不知道是哪裡的亞洲節奏、是這個國家的動力。我們很重視接觸各種異文化、然後把沒有落處的那種感覺結合到藝術上。一定會到來的令人懷念的未來表現在歌曲中、這就是新歌謠的主題。而背後其實是在台灣在日本都會令人感到很懷念的節奏。
杏窪彌は空想国家です。杏窪彌王朝。人口は4人です。あらゆる夢、憧れ、冒険、さらにはアジアに対する間違えたエゾチズムが、この国のエネルギーです。異文化に接したような感触を大事にしていて、それは落とし所のない気分にさせるアートに繋がります。これから来るであろう、懐かしい未来を予言的に唄う、ネオ歌謡がテーマです」
――歌詞は翔さんが書かれているのですか?
「幾乎都是翔寫的、中文的地方一部分是我寫的。
歌詞も全部翔くんだけど、中国語のところだけわたしが書いてる」
――歌詞、すごく変ですよね。
「真失禮!
失礼~(苦)!」
――いやっ、良い意味でなんですけど(笑)。言葉遊びの要素があったり、風変わりだと思うんですよ。
「我從來都不覺得奇怪!不過反正我也不是很懂、所以就唱了就對了。
変なんて思ったことない(怒)!でも、あまり日本語わからないから、ただただ唄ってるだけ(笑)」
――MINさんが曲作りに参加することはないのでしょうか。
「我不會樂器。所以什麼意見都不說。只是有時我喜歡的部分突然被改掉時我就會說那個部分。
う~ん、わたしは全然楽器とか弾けないから、何も言わないです。でも、編曲でわたしの好きなフレーズが違う感じになっちゃった時は“消えてるんだけど!”って言ったりはする」
――杏窪彌は1つの曲でもたくさんアレンジがありますよね。
「一邊想一邊試。
いつも試行錯誤しながらやってるから」
――曲を量産して次々出していく感じではなくて、1つ1つの曲を納得がいくまで練るタイプのバンドなんだろうと考えていたのですが。
「算吧。
どちらかというとそうですね」
――リリースも毎回、4曲入りとか、少ないし。
「(苦笑)
(苦笑)」
――いやっ(笑)、そういうところにも1曲1曲を大事にするアティテュードが込められてるのかな、と思って。
「也是。沒有讓我覺得是“B面”的歌。
それはそうですね。“B面”と思う曲はないです」
――これまでのCD-Rの作品は、デモはデモですけど、すごく拘りを持って作っている感じがします。
「一開始完全只是想做試聽帶而已。加上也只打算坐幾張而已。但發行了demo CD之後很多人很喜歡、所以我們也盡量想提供給大家。關於demo CD並不是故意想推的。
最初はそんなに意識してなくて、本当にただのデモだと思ってたんですよ。少しだけしか作らない予定だったし。でも出したらみんなに興味を持っていただけたから、その状態のままがんばって作り続けてる感じなんですよ。意図して広めようとしているわけではなかったんです。デモに関しては」
――手作りのパッケージがナイスですよね。
「太漂亮太整齊都東西不符合杏窪彌、所以我們出手工的CD。
綺麗過ぎるとあまり杏窪彌ぽくないから、手作り感を出した方が良いかな、ということで」
――そういう部分で、あえてデモのテイストで続けているのかな、と思っていたんですが。
「也不是。
そういうわけでもないんですよ」
――オフィシャル・サイトに載っているレポート“てづくりCDプロジェクト”も、反響が出てきたから始めたのですか?
「不是因為反應好才開始做的、是想讓大家看製造過程。一開始只是想讓大家知道我們每一張都很細心的手工製作(笑)。數賣掉幾張也不是想讓大家知道我們賣出了幾張、而是想讓大家知道我親的幾次、因為是真正的唇印(笑)。
反響があったからとていうより“作ってる過程はこうだよ”っていうのを見せたらおもしろいかな、と思って。最初はただ、“1枚1枚すごいがんばって作ってるよ”っていうのを言いたかっただけ(笑)。売れた枚数をカウントしているのも“売れてるよ”ということじゃなくて、キスマークとか本物だから、“何回やってるよ”っていうのを言いたいだけです(笑)」
――そうやって一生懸命手作りするのは、所謂音楽産業、例えば特典のために複数買いしたCDが大量に捨てられるとかね、そういうことに対するアンチテーゼなのかと思っていたんですけど(笑)。
「完全沒有。我們沒思考別人的事(笑)。
全然。全く考えてないです(笑)」
――そうだったんですね(笑)。今回は手作りCD-Rではなくて、初のプレスCDですよね。この選択をした理由は?
「那是因為手工做實在是太累了、趕不上進度(笑)還有因為想讓更多人聽我們的音樂。我們自己在網路賣CD的時候、很多買的人都是東京以外的人、完全不知道他們是怎麼知道杏窪彌的。
それはやっぱり、手作りCD-Rがすごく大変だから(笑)。あとは、もっと色んな人に聴いてもらいたくて。自分たちで通販をやった時、東京以外のところからも注文があって、何で杏窪彌知ってるんだろう?って思ったんですよ」
――初めてのプレスCDに“箱根にしようか”を選んだのはなぜですか?
「因為我很喜歡這首歌。也很喜歡第一首歌“オン泉とオフ呂”。
わたしがすごくこの曲が好きだから。1曲目の“オン泉とオフ呂”もすごく好き」
――たぶん、“ジャイアントパンダにのってみたい。”で杏窪彌を知った方ってたくさんいらっしゃると思うんですけど、あの曲を収録曲に選ばなかったのはあえての選択?
「其實中國大陸送給台灣之前、台灣根本沒有貓熊。所以其實貓熊並不代表台灣我個人是希望大家可以更了解台灣、但這樣會被誤解……。
実は、中国がプレゼントしてくれるまで、台湾にはパンダがいなかったんですよ。だから、パンダって本当は台湾色がないんです。わたし個人はもっと台湾を知って欲しいのに、パンダだと中国になっちゃうから……」
――なるほど。台湾を象徴するような動物って何かいるんでしょうか。
「台灣黑熊。不然就是只有台灣人知道的動物(笑)、或是龍之類的。
う~ん、熊とかになっちゃう……。あとは台湾の人にしかわからないような動物とか(笑)、龍とかそういうものになってしまう」
――“箱根にしようか”は元々、2012年に行われた展示のために制作された楽曲ですよね。そもそもなぜ“箱根”なのですか?
「好像離我們很近、很想去、但又無法馬上去、可是又很想去。跟現實生活相比、箱根是個樂園。連接這個樂園跟現實生活的就是浪漫特快。浪漫特快充滿夢想與崇景、冒險、空想的意思。帶著浪漫特快的車票、就彷彿帶著浪漫在身上。就像人在談戀愛時會忘我。有這張車票隨時都可以到樂園箱根。就算現實的世界多冷。充滿浪漫的空想世界箱根、有快樂 = 溫泉等著我們。溫泉裡有戀人、所以更充滿愛。
すごく身近で、すぐにでも行けそうなところだけど、なかなか行けなくて、でも行きたいっていう気持ちがすごくあるところだから。現実に対してHAKONEは楽園、ユートピア。その楽園と現実をつなぐのはロマンスカーで、ロマンスとは夢や憧れ、冒険、空想を意味します。ロマンスカーの切符を持つには、ロマンスを持つこと。具体的にいえばそれは、恋愛だったりなにかに熱中する我を忘れること。それさえあれば、楽園としてのHAKONEへいつでも行ける。たとえ現実の世界ですっかり寒くなってしまっても。そして、ロマンスを持って空想世界としてのHAKONEにゆくと、そこには快楽 = 温泉が待っている。湯の中には恋人もいる、愛するものだけがたくさんある」
――ドリーミーな中に、生々しくなりそうな単語を挟むことで不思議な感じになっていることが多いですよね?“漫画喫茶「桃源郷」”とか。
「漫畫喫茶有的時候對自己來說不像桃源鄉嗎?我唱這首歌時常會想起自己一度迷上漫畫喫茶的心情、邊回想邊唱。其他手的玲生他本來想當漫畫家、對他來說漫畫喫茶應該是真正的桃源鄉吧!
漫画喫茶が自分にとっての桃源郷になることだってあるじゃないですか。わたし自身は、漫画喫茶にはまってた頃の気持ちで唄ってます。ギターの玲生くんも漫画家になりたかったくらい漫画が大好きな人だから、玲生くんにとっては本当に漫画喫茶が桃源郷なんですよ」
――曲ではファンタジックな印象になっている箱根ですが、実際に行ってみて、いかがでした?
「很漂亮、很喜歡。可是上次去的時候下雨、所以還想再去。
すごく綺麗で、良かったです。行った時は雨降っちゃったんですけど(笑)。でもまたすぐにでも行きたいです」
――MINさん的には、すぐにでも行けそうだけどなかなか行けない場所というとどんなところ?
「我家附近的澡堂。不是因為害羞所以不去、只是嫌麻煩(笑)。
近所の銭湯です。別に恥ずかしがって行けないわけではなくて、ただ面倒臭がりなだけなんですけど(笑)」
――『箱根にしようか』のリリース・パーティを銭湯でやることにしたのも、そういう理由から?
「沒什麼關係、本來是想在箱根辦表演、但大家應該不方便來。所以就找了在東京都內比較費類似的地方。澡堂裡也可以看到富士山。
いやっ、本当は箱根でライヴをやったら楽しいと思っているんですけど、みんながなかなか来られないと思うから。東京都内の似た場所で出来たらいいな、と思って(笑)。銭湯の中でも富士山が見えるよ」
――杏窪彌はライヴだけではなく、展示というスタイルを採ることがあるのもおもしろいですよね。
「對!在眼科画廊辦展覽、是因為店長很喜歡杏窪彌、她說画廊隨我們用。所以我們就開始計畫要做什麼。一直都有很多人跟我說想找我當來賓只唱、或是想幫我拍照、所以就想趁這次的機會跟大家合作。
そうですね。眼科画廊(東京・新宿)でやった時は、店長さんが杏窪彌のことをすごく気に入ってくれて、“好きに使っていいから”っていきなり言われたんですよ。それまで、例えば、わたしをゲスト・ヴォーカルに呼びたいとか、写真を撮りたいとかよく言われてたから、これをきっかけにコラボレーションしようと思って展示にしたんですよね」
――これからも色んなことが出来そうですね。
「對!無限大。
そうですね、無限大に」
――MINさん的テーマ“台湾を知ってもらうこと”は、主にどんな部分を知ってもらいたいのですか?
「大家人都很好。而且很喜歡日本、所以也希望日本的大家喜歡台灣。在日本其實有很多人不知道台灣。台灣是島國、離沖繩很近。坐飛機大概40分鐘。比從東京到沖繩還近。但很多人以為在中國大陸裡面、所以至少希望大家知道台灣在哪裡(笑)。
人の好さ。すごく親日の国だから、日本の人に仲良くなって欲しいっていう気持ちがすごく強いんですよ。日本では台湾のこと意外に知らない人が多いと思う。台湾は島国で、沖縄のすぐ近くなんですよ。沖縄から飛行機で40分くらい。沖縄から東京に行くよりも近いんです。でも、中国の中のどこかにあるって思ってる方も多いみたいなので、せめて、その、場所だけでも知って欲しい(笑)」
――僕個人としては、以前より杏窪彌を聴くようになってからの方が台湾が気になっている気がするので、成功しているのではないでしょうか。
「很多人也跟我說一樣的話、很開心。
そう思ってくださっている方はけっこういらっしゃるみたいで、嬉しいです」
――バンド名に込められたものが拡がっていくと良いですね。
「對啊。在日本大家不會刻意介紹高中的朋友給國中的朋友。但在台灣、大家都會變成朋友。譬如這個朋友今天有空、就算我要跟別的朋友吃飯也會找她來。然後她們兩個就會變成朋友。像這樣有介紹來介紹去、朋友圈就越來越大!希望樂團也像這樣圈圈越來越大。不用很拘謹才好玩。
そうですね。日本だと、高校の友達同士とか、中学校の友達同士でしか会わなかったりするじゃないですか。でも台湾は、みんな友達になっちゃうの。例えばヒマな友達がいたら、その人が全然会ったこともない人とご飯食べてる時でも“来る?”みたいな感じで誘っちゃうし、普通に来ちゃう。そこで2人が友達になって、また違う人を紹介して……っていう感じでどんどん輪が拡がっていくんですよ。そういう感覚でやっているところはありますね。それぞれが気を遣い過ぎると楽しくなくなっちゃうから」
杏窪彌 おんらいんしょっぷ | http://unamin.thebase.in/