みんなに愛情を返したい
取材・文 | 久保田千史 | 2013年10月
通訳 | 青木絵美
――ジュークとの出会いはどのようなものだったのでしょうか。
「“ジューク”は、そう呼ばれる以前は“ゲットー・ハウス”という音楽で、俺は1999年頃にゲットー・ハウスのDJをしていたんだ。DJ Gant ManとDJ Ponchoが“Juke It”というトラックをリリースしたのがきっかけでフットワーク / ゲットー・ハウスがジュークと呼ばれるようになったんだけど、俺たちは当時ちょうどそのシーンにいたんだよね」
――あなたにとってのジューク / フットワークの魅力を教えてください。
「ジュークの魅力は、どんな曲でもビートを160にしてエディットすれば、その音で遊べるという点。フットワークの魅力は、自由に自分を表現出来ること。ベースがハードでエネルギッシュであれば、それ以外のルールは無いから。どちらもBPMは160なんだけど、昔はジュークとフットワークは少し違う種類の音楽のことを指していて、ラジオ・フレンドリー、DJフレンドリーなコマーシャル寄りのものをジュークって言っていたんだ。そうじゃない、頭おかしいヘヴィなベースが入ってるのがトラックス(フットワーク)。今では“フットワーク”と言えば音楽のこともダンスのことも指してるけど」
――あなた自身もフットワークを踊ることがある?
「最近はもう踊らない(笑)。踊るのは10年くらい前にやめちゃったよ」
――現場以外ではどんな音楽を聴くことが多いですか?
「ラップ、ヒップホップ、ソウル、トラップだったら何でも聴くね」
――ジュークの魅力のひとつに、ポリリズミックなトラックメイクが生む効果が挙げられると思います。それはガチで狙って作っているのでしょうか。それとも作っているうちに発生してくるもの?
「狙ってそういうリズムを作っている時もあるし、自然に出来上がるときも多いな。場合によるね。その場のヴァイブスとか、その状況でやろうとしていることによるけど」
――ヴォイス・サンプルの使い方には拘りがありますか?
「サンプルソースを選んだら、一番キャッチーなところを切り取って、細かく刻む。それを組み合わせて、自分に語りかけているようなサウンドに作り変えるんだ。俺のメソッドとしてはそういう感じ」
――今回はHyperdubからのリリースですが、Kode9からのオファーはどのような内容だったのでしょうか。
「すごくプロフェッショナルで、簡潔にまとめられていたよ。他のプロフェッショナルなレコード会社と変わらない内容だと思う。俺たちのやりたいように自由に表現させてくれるしね。名前は出さないけど、“こういうサウンドにしたい”というような基準を持ちかけてくるレーベルも存在するんだよ。何曲かレーベルに提出すると“この曲はもう少しこうした方が良くなる”とか言ってきたりさ。全てのレーベルがそうだっていうわけじゃないけど、俺たちは過去にそれでレーベルと揉めたことがあったから。そういう点でもKode9のレーベルはすごく良いと思う」
――彼の音楽についてはどう考えていますか?
「最高だよ(笑)。特にフットワークに関して彼は天才。それに尽きる」
――ジュークは基本的にシングル、ダウンロードのカルチャーですよね。今回アルバム、しかもフィジカルでリリースされる作品を作るにあたり、何か留意した点はありますか?
「気をつけたことは特にないんだけど、確かに、このアルバムをフィジカルでリリース出来るというのは、俺たちにとってすごく重要なことだったんだ。最近のジュークはレコードで手に入らないものが多いからね。だから今回のアルバムは、こういうソウルフルでスムースなサウンドにした。普段は出来ないことだから」
――これまで以上に音楽性に幅を持たせて、ダンスありきではなくリスニングも意識しているようにも感じたのですが。
「意識したわけではないけど、色んなジャンルに対して俺たちが好意を感じているということを示したかったんだ。それを自分たちの音楽に取り込んで表現したかった。たくさんの人がアルバムを聴いてくれたら嬉しいな」
――今回のアルバムはアシッドな展開が印象的ですが、これはシカゴの先輩から影響を受けたもの?
「そういうわけじゃないんだ。俺とTony(Williams / ADDISON GROOVE)がその時スタジオでやっていたことが、こういうサウンドになっただけ(笑)。Tonyは303(Roland TB-303)を持っているんだけど、俺は今まで本物の303を触ったことがなかったから、2人で303を色々いじくって遊んでたんだ。それがきっかけでアシッドみたいなサウンドが出来たんだよ。アシッド・ハウス、シカゴ・ハウスはすごく尊敬してるけど、今回のアルバムに関してはシカゴの先輩から影響を受けたとは言えないな」
――英国人であるTonyとの作業はいかがでしたか?
「(笑)。Tonyはめっちゃイケてるよ。ヴァイブスもハンパねーし。天才だと思うし、やっていることも尊敬に値する。これまで、一緒にDJする機会は何度かあったから、今回スタジオに入って彼と作業するっていうのは本当に楽しかったよ」
――来年日本にいらっしゃるわけですが、日本の何かから影響を受けたことはありますか?
「それは……悪いけど、あったとは言えないなあ。でも、日本で起こっているカルチャーには影響を受けているよ。“Teklife”が日本に広がっていたり、Booty Tuneがシーンを盛り上げているところを見ると、俺もあの場にいなくちゃ!って思うんだ。FulltonoとかApril、シーンの人たちのことも知ってるよ」
――日本に期待していること、楽しみにしていることは?
「とにかく日本のみんなに会って、日本全てを体験したい。TRAXMANとA.G.が日本に行った時のビデオを見て、早く俺も行きたいな、と思った。日本のファンが俺たちに対してサポートを示してくれているのと同じように、俺もみんなに愛情を返したいと思うんだ」
Teklife Records Official Site | http://www.teklife57.com/
Hyperdub Official Site | https://www.hyperdub.net/