相容れない部分が共存する破壊力
取材・文 | 久保田千史 | 2012年2月
――結成の経緯を教えてください!
松井 「もともと、ゑでぃまぁこんのライヴでプレゼントとして配る特典用に、4人で『きらきらしずむ』(“ゑでぃまぁこん&トンジャイ”名義)っていう音源を1枚作ったんですね。その時にお互い、気持ちが通じ合った感じがあって。一緒に音楽やるのいいね、って話をしてたんですけど、そこから特に進展はなかったんです。でもその半年くらい後だったかな、姫路でライブをやることになったんだよね。ゑでぃまぁこん企画で、みみのことが姫路に来た時。Easeで」
アキ 「あ~思い出した」
松井 「そうそう。一緒に音源作ったし、これを機にバンドとして出てみない?っていうことで正式に結成して。一晩で10曲作ったんだよね」
アキ 「一晩はないよ(笑)。1週間でしょ~」
松井 「そっか。気持ち的には一晩くらいだったんだけど(笑)」
アキ 「ライヴをやることが先に決まっちゃったから、無理矢理と言えば無理矢理だけど(笑)、それに合わせて何が何でも曲を作らなきゃいけなくなってしまって。気付いたら1週間前になってて……」
松井 「何にもやってなかったんだよね」
アキ 「そこから本格的に曲を作ったり、覚えたりで」
松井 「ライヴの前の晩に初めて合わせたんですよ(笑)」
アキ 「姫路でライヴだったから、前の日に行ってゑでぃまぁこんの家に泊まって」
松井 「で、そのままライヴ。その慌しい感じが今だに続いてる感じ(笑)」
――その慌しさは、やっぱり距離的に?
松井 「そこはあまり問題じゃないですね。行く時は行くもんね」
アキ 「そうだね」
――フットワーク軽くて良いですね。
松井 「うん、全然重くはないですね」
――曲を作っている時はどんな風にやりとりされていたんですか?
アキ 「どっちかが思いついたら歌詞を送って、それにメロディを付けたりとか、その逆とか。ゑでぃさんは割と歌詞から始まる感じ。3人はメロディかな」
松井 「詞からっていうのも結構あったけどね。自分たちでもどうやって作ったのか思い出せないくらいに、部分的に作っていて」
アキ 「出だしのところだけを一平くんが作ったりとか。いろいろ」
松井 「自分で作った曲をみんなでやる、っていう感じではなかったですね。お互いが投げ合って、独りの意志で作ってないから無意識な感じが生まれて、自分たちでもハテナマークな感じ。把握しきれていないというか。それがおもしろくて」
アキ 「まぁこんさん、ゑでぃさんが作った曲をわたしとか一平くんが歌ったりするだけでもまた違う感じ」
松井 「そうだね。ゑでぃさんたちならゑでぃまぁこんぽい感じ、僕だったらTEASIっぽい感じとか、それぞれのバンドで普段あまりやらないことも結構オッケーな感じだし」
――歌詞も、歌を担当する人が書いているというわけではないんですか?
アキ 「歌詞を書いたのと違う人が歌ってることのほうが多いと思う」
松井 「自分で書いていない歌詞だと、また違う気持ちになるから、TEASIではやらない歌い回しもあったり」
アキ 「ゑでぃさんが書いたメロディをゑでぃさんが歌うとゑでぃまぁこんぽくなっちゃうとか、そういうのをあえて避けてたっていうのは最初のうちはあったかもしれない。今はお互い自然になったけど」
松井 「最近は意識しなくても、なんとなくわすれろ草っぽい感じがあるかもしれない」
アキ 「最初はゑでぃさんが歌ってた曲でも、わたしや一平くんが歌ってみておもしろかったら変えたり、この部分はこの人が歌ったほうが良いね、って指名したり」
松井 「最初はまぁこん氏も歌ってたんだけど、だんだん声が小さくなってきてフェードアウト(笑)。次のアルバムでは歌ってもらいたいよね(笑)」
アキ 「うん。まぁこん氏の良い歌あるんだよね」
――1曲の中でも、部分部分で違う人によって書かれているというのが、曲の展開としておもしろい結果を生んでいるところがありますね。
松井 「そうですね、最初に自分で意識していたものとは違う意識が入ってくる感じで。あと、わすれろ草は基本的に、ごはんが重要かもしれない」
――ごはん……?
松井 「わすれろ草の活動は、食べることが結構な割合を占めてますね(笑)」
アキ 「ライヴというよりも、旅行……こんなこと言っちゃダメなのかな(笑)」
松井 「うーん(笑)。旅行っていうのは語弊があるけど……」
アキ 「夫婦が2組揃うから家族旅行みたいな」
松井 「漢共がスタジオで汗かいて、このバンドでなんとかしようぜ!みたいな感じのムードじゃなくて。どこに行っても温泉旅行に来たみたいな雰囲気がどうしても漂ってしまうよね(笑)。2家族だと」
アキ 「姫路でライヴがある時は、名古屋を夜中に出て、午前中には着いて、昼から練習、っていう予定を立ててるんだけど、とりあえず着いたら何食べようか?っていうことになって。食べ終わったら食べ終わったで、昼寝しようか、みたいなノリになる(笑)」
松井 「結局食べる、昼寝、食べる、昼寝、食べるで」
アキ 「夜になっちゃう(笑)」
松井 「あんまり練習できない(笑)。でもそれが重要なんです」
アキ 「そうそう(笑)」
松井 「真夜中0時過ぎからゑでぃさんと僕で作った曲もあって」
アキ 「まぁこん氏とわたしは結構早く寝ちゃうほうだから、朝起きると曲が出来てる(笑)。あ、でもレム王子はまぁこん氏が作ったと言ってた」
――家族同士の相性が良いんですね。それが作品にも出ていると思います。それぞれのタイム感は違うんだけど、ピーク値でシンクロしているというか。
松井 「そうですね、相性良いですね。このバンドはその部分が強いのかもしれないです。熱血なバンドでは生まれない感じはありますね」
――なんだか不思議な雰囲気のバンドですね(笑)。
松井 「ほわっとしてますね(笑)。そこにすべてがある気がします。ほわっとやってるってアレですけど。でもほわっとしてるだけじゃないんですよ、もちろん」
――全体的な印象はむしろ生々しいです。でも時折、生活の匂いがする場所から、ふっとファンタジックな世界に行ってしまう感じがありますよね。複数人で歌詞をかいていらっしゃるからかもしれないですけど、あれがまた不思議で。
松井 「(笑)。ゑでぃさんがそういうとこあるかもしれない。ゑでぃさんてすごく夢がある人なんですよね。そこが素敵で」
アキ 「みんな歌詞にする事柄が全然違っていて。ゑでぃさんはやっぱり、夢見る少女の部分がたくさんあるから(笑)、そういうのが歌詞に出てると思う。一平くんはもうちょっと……」
松井 「暗め?」
アキ 「そうそう。集中してる感じっていうか。」
松井 「歌詞も独りの人間の思考じゃない部分があるのかもしれないです。全部独りで書いているのもあるし、みんなの歌詞が混ざってるのもあって、ガチガチには作ってないから」
アキ 「ほとんど出来上がってても、後で付け足したりする時もあるしね」
松井 「うん。バンド自体がガチガチじゃないから、抜けが良いというか、たわんでるというか。ライヴでも毎回アレンジが違っていたり。同じようにできないっていうのもあるんですけど、緊張感はありますね。綱渡り感というか(笑)」
アキ 「綱渡り(笑)」
松井 「自分がやってるバンド、全部綱渡りみたいなのばっかり(笑)。頑丈な橋はあんまり渡ったことがない気がする」
アキ 「TEASIはもうちょっと頑丈な気がするけど」
松井 「あれは頑丈じゃないんだよ!ほそほそだよ」
アキ 「そうなの?でも逆の感じがする。活動の仕方が」
――アキさんがソロでやられている音楽もガチガチではないですけど、ユルユルにも全然聴こえないですよね。
松井 「ゑでぃまぁこんもそうですね」
――そういう、言葉で表すのが難しいバランスが、わすれろ草にもあると思うんです。松井さんはかつてOUT OF TOUCH、ゑでぃさんも怖 COAやLSD MARCHで、わすれろ草とは音楽性も全く違う、ほわっとしてないバンドに在籍されていたわけですが、皆さんその頃と印象があまり変わらないんですよね。そういうことも関係があるんじゃないでしょうか。
松井 「それはそうかもしれないですね。そういうのは出てるのかもしれないです。みんな、あまり意識してはいないところですけど。一緒にいる時はほわっとしていても、曲になるとそんな風には聴こえないかもしれないですね。それが何故かは分からないんですけど……。だから今回アルバムを作り終わった後も、良いのか悪いのかを自分で判断できないというか、自信満々で良いって言い切れる感じなのか分からなくて」
アキ 「わたし自身はバンドで音楽を作るのが初めてだから、良いのか悪いのか分からないんだと思った。独りだったら自分で最終地点を決めることはできるけど、バンドだと他の人の考え方も入ってきて、最終地点を決定する感覚なしで完成しちゃうから。考えないって言ったらアレだけど(笑)」
松井 「でもそういうとこあるんですよね。他人の感覚が入ってきて、ままならないところが良いんですよ、バンドって。自分独りじゃ考えられないことが起きる」
アキ 「うん。やっぱり自分だったらこうしない、っていうことがいっぱい出てくる」
松井 「お互いたぶんそうなんだよね」
アキ 「自分だったら切り捨ててるところを、切らないという選択で続けられるっていうのはすごいこと。ほかの人の感覚があるから、それを許せるっていう」
松井 「好みじゃないの音が来ても、気付くとそれが絶対自分の一部になってる。そういう人間関係が好きですね。だからバンドをやってるっていうところがある。TEASIの曲を弾き語りでやって欲しいっていうお話をたまにいただくんですけど、僕は興味がなくて。絶対バンドでやりたいからお断りしてるんですよ。とか言いながら2ヵ月後くらいにはやってたりして(笑)。やっぱりバンドが一番面白い。わすれろ草のことを”ユニット”って書かれたりするのは結構嫌で。“バンド”だと思ってるんですよね」
――バンドですよ(笑)。でもお互いに許容できるキャパシティがないと、なかなか築けない関係ですよね。
松井 「ですね。だけど、わすれろ草はお互いキャパが全然無い者同士でやってる感じかする(笑)」
アキ 「やっぱりもともと好きっていうのはあるんじゃない?自分ではやらないタイプの音楽だけど、ゑでぃまぁこんの音楽は好き、っていうのが。このバンドをやってみて、ゑでぃまぁこんの音楽とか、2人のことがもっと好きになった。ゑでぃまぁこんの音楽はこの2人が作ってるからすごいんだって」
松井 「ゑでぃまぁこんベタ褒め(笑)」
――(笑)。わすれろ草は4人ともかなりキャラが立っているのに、誰の色でもない感じでまとまっているのは不思議ですよね。
松井 「まとまってますかね。やっぱり、4人で焼肉や鍋をやってる感覚に近いというか。そこすごい大事だと思うんですよね。姫路に行くと、焼肉で始まって、途中で鍋に切り替わるんですよ。で、シメにはうどんとラーメンを半々ずつ入れるんですよ」
アキ 「そこからさらにファイナルで雑炊もやるんだよね」
――ああ~。なんか変ですけど、それって本当にわすれろ草の音楽に近い感覚かもしれないですね。なんだか納得です。
松井 「はい。音楽に出ている可能性はかなり高いです」
アキ 「で、飲み物はコーラなんだよね」
――あ~、それもなんとなく伝わりますね(笑)。洒落た飲み物って感じは全然しないですね。
松井 「コーラ飲んでるゑでぃさんがまた、従姉弟の子みたいでかわいいんですよね(笑)。小さい頃に親戚とボウリングに行った時みたいな感じというか。お互い家族だからっていうのもあるけど、友達っていうより親戚って感じなんですよね。バンド仲間って感じでもないし」
――アルバムはちょっとノスタルジックな雰囲気もありますけど、そういう親戚感みたいなものが関係しているのかもしれないですね。
松井 「そうですね。俺たちファミリーだぜ!みたいな気持ち悪い感じのファミリー感とかじゃなくて、昭和の親戚付き合いみたいな感じはありますね。親戚で集まると、子供だけで遊んでなさい、みたいなことってあるじゃないですか。普段の友達と遊ぶのとは違う、親戚と遊ぶ感じ。移動中は、当てっこしようや~とか言って、イントロクイズみたいなことやったりするんだよね(笑)。みんな異様にたくさん音楽聴いてるけど、ゑでぃさんが一番早いんですよ、当てるの。でもあんまり音楽の話はしないかな。くだらない話が多いよね」
アキ 「うん」
――異様にたくさん聴いてる音楽を、わすれろ草に反映させてるっていうこともなさそうですよね。
松井 「ないですねえ。何かみたいにしよう、っていうのはもちろん全然ないし。創作に意図しているものがあんまりないというか」
――そうですね、コンセプトが1つも見えないんですよね。
松井 「ですね(笑)。自然とそこに行き着いてるというか。コンセプトみたいなものがあるほうが、作品を作る時は良いっていうこともあるかもしれないけど、もっと違う感じで。ほんと鍋とか焼肉みたいな感じの成り立ちというか(笑)」
――(笑)。歌詞を通じて何かを伝えよう、みたいなことは?
松井 「ないですね。何かを伝えよう、って感覚はないですね。伝える感じがないとダメって風潮が世の中には割とあるけど。誰かにフィットさせようってことは考えずに、もっと自分たちに素直にやってますね。メッセージ性みたいなものは自然にどこかで見え隠れしてるかもしれないけど。人間だから、普段思ってることは社会的なことも含めてそれぞれあるけど、バンド4人でみんな全然考え方が違うから。沈殿してるというか。前面には出てきてないです。あれ?アキちゃん眠いの?」
アキ 「う、う~ん」
松井 「メッセージ的なこと言うと眠くなる人がいるんです(笑)!」
――(笑)。でもそういうところは、バンドのあり方が示してると思うんですよね。人間の集まり方が。
松井 「ですね。あんまり深いメッセージは言い過ぎたくないんですけど、社会の、嫌いなものと好きなものが同居してるっていう感覚に近いものがバンドって絶対あるから。自分の感覚じゃない感覚が入ってくるのって、なんか人生に、生活に似てるから。全部好きなものだけで固めてないところに、意義があるんですよね。全部好きなものだけで固める作品の作り方はしたくなくて、バンドをやってるんです。バンドだけじゃなくて、何でもそうかもしれないですけどね。謎っぽい、把握しきれないところが、世界全部を見渡せてないところが、ある感じですかね」
――自分の力が及ばないところ、ってことですよね。
松井 「そうそう。青い色の家を建てたい人が青い家を建てて、その隣の黄色い家を建てたい人は黄色い家を建てて、街が形成されてく。それを遠くから離れて見ると、全体的には赤く見えたり、思いがけず違う色に見えてくる感じ。ひとつひとつに意志はあるのかもしれないけど、全体には全然力が及んでないっていう」
――社会の縮図というか。
松井 「縮図感はありますよね。他人と相容れない部分って絶対同じじゃないから。それが共存して、自分では計り知れない感覚が入ってきて作品に生命力が宿るっていうか。全部好きなものだけだと音楽が死んじゃった感じになると思う。僕的には。自分じゃやらないだろう、っていう感覚がちょっと入ると、なんか活き活きする。全員でひとつの方向を向くっていうのもアリなのかもしれないですけど、それとは全く違う破壊力があると思うんですよね」
ゑでぃまぁこん Official Site | http://eddiemarcon.com/
松井一平 Official Site | https://ippeimatsui.com/
アキツユコ Official Site | https://akitsuyuko.com/