Interview | Gofish | テライショウタ


単純に音楽が好きなだけ

 愛知・名古屋を拠点に活動するGofishことテライショウタが、2009年の2ndアルバム『あたまのうえ』以来となる新作『とてもいいこと』を10月にリリース。森閑としながら存在感を主張するアトモスフィアの中で紡がれる歌声は、稲田 誠(cb / ブラジル, PAAP, SUSPIRIA)、黒田誠二郎(vc / ゆすらご, 細胞文学)、山本達久(dr)、ASUNA(org)といった個性的なプレイヤー陣との時間の共有を経て、これまで以上の奥行きを感じさせるものへと深化しています。名古屋産異形ハードコアパンク・バンドNICE VIEWのシンガーとしても活躍する氏に、Gofishの成り立ちと新作までの道程、NICE VIEWとの関係についてお話を伺いました。

取材・文・撮影 | 久保田千史 | 2012年10月


――Gofish以前からNICE VIEWのシンガーとして活動されていたわけですが、Gofishを始めるきっかけは何だったのでしょうか。

 「NICE VIEWとGofish、あまり自分の中では関係性のないものなんです。たまたまできるタイミングがNICE VIEWが先でGofishが後だったっていうだけなんですよね」

――Gofishでやられているような歌ものも、ハードコアも、元々両方お好きだったんですね。
 「そうですね。歌ものは昔から好きでしたし、ずっとやりたい思ってはいたんですけど、なかなか曲ができなくて。ぽろっと曲できるようになった時がGofishの始まりですね」

――リスナーとして聴く分にも、ハードコアより歌ものの方が先だったわけですよね。幼い頃に聴いていたものとか。
 「そうですね。遡ればそうなっていくんだと思います。80年代ですよね。まあ普通に歌謡曲だったりとか、親が聴いているものだったりとか」

――ご両親も音楽がお好きだったんですか?
 「いやっ、普通だったと思います。特別レコードマニアとかそういうんじゃなくて。Richard Clayderman、Paul Mauriatとか、そういうムード音楽はよく聴いてたかな。Harry Belafonte、THE BEATLESとか。その当時流行ってた洋楽っていうのかな。特別変わったものはなかったですね。あとは美空ひばり、森山良子とか……普通過ぎる感じですよ(笑)」

――ご自身のリアルタイムでは?
 「“アメリカン・トップ40”をラジオで聴いて、レコードをレンタルして聴いてました。“洋楽”って感じですね。田舎だったから、とんちんかんなセレクションしてて。MTVがちょうど出てきた頃だったから、Peter Wolfとか、Daryl Hall & John Oatesを聴いたり。THE GRATEFUL DEADもMTVに出ていたので、全然わけもわからず聴いてましたし。めちゃくちゃというか、とりとめがないというか。ザ・中学生って感じ(笑)。あとは普通にBOØWY、REBECCAとか。でもやっぱりメタルを聴いたらメタルにハマりましたね。中学生の頃にAC/DCとかガンズ(GUNS N’ ROSES)が好きになって。AC/DCが一番好きだったかもしれない。そこからスラッシュメタルが好きになって、その後に速いつながりでハードコアが好きになって。そこからパンクに行った感じですね」

Gofish / photo ©Chifumi Kubota 久保田千史

――パンクが好きになった頃も、並行して歌ものも聴かれていたのですか?
 「その頃はそういう激しいのばっかりでしたね。パンクは最初、下手だから嫌だと思って好きにならなかったんですよ。だからパンクより先にハードコアが好きになって。最初はやっぱりクロスオーヴァーもの、D.R.I.とかが好きになって。『BURRN!』買ってました?『BURRN!』のレビューにもたまにハードコアが載るじゃないですか。それをすごいチェックしてました」

――あ~、点数が低いやつってことですよね。
 「そうそう(笑)。HERESYとか。CONCRETE SOXとか。その辺りから“ハードコア”っていう単語が気になってきたんですよね。ジャケットもメタルとは全然雰囲気が違うし、こっちの方がかっこいいな、って思い始めたんです。そこから日本のバンド、リップ(LIP CREAM)とか、SxOxBなんかも聴くようになって。コピーをやるにしても、メタルって難しいから、ハードコアの方がやり易いじゃないですか。そういう感じで」

――そこから、また歌ものに目覚めるきっかけは何だったんですか?
 「高校生の終わりくらいから、グランジを通ってNeil Youngを聴くようになって。コピーしたり」

――ハードコアも並行しつつ?
 「そうですね、ちょうどハードコアのバンドを始めてた頃ですね。18歳とか、そのくらいかな。あ、あとガンズの『GN’R Lies』っていうアコースティックのアルバムがあるんですけど、それを聴いてアコギをやり始めたんですよ。“Patience”っていう曲がすごく良んですよね」

――確かに良い曲ですけど、そうなんですね……。ハードコアが好きで、しかも10代って、そういう、所謂コマーシャルなものを排除しがちじゃないですか?
 「本当かなあ(笑)。俺そういうの、拘りがなくて。今でもないけど」

――Gofishの原点はガンズ……。
 「いやいや、そんなこともないんですけど(笑)。原点と言われると分からないですね。ポヤ~ンと形作られていったようなものだと思います」

――Gofishを聴いていると、ちょっと“シティ”を感じる時があるんですね。それはやっぱり多感な時期を80sに過ごしたことが関係しているんでしょうか?細野(晴臣)さんと比較するレビューも時折見られますよね。
 「それはもう、80sはどっぷりだったから、細野さんとかは好きですよね」

――逆に“これはちょっと聴けない……”という音楽はありますか?
 「え~っ、特にないと思いますよ。何でもおもしろがれると思います」

――Gofishはハードコアに疲れて始めた、というのとは全然違うんですね。
 「違います違います。そんなわけないです」

――Mike Judge(Mike Ferraro / JUDGE)みたいに、ハードコアに嫌気が差してブルーズ始めちゃったりする人もいるわけじゃないですか。
 「あー、そういう人もいたね。ATTITUDE ADJUSTMENTの人とかね。俺はそういう感じではないです」

――リスナーの中には、所謂ハードコアのパブリックイメージと、Gofishの音楽が結びつかない方も結構いらっしゃると思うんですよね。
 「自分にも上手く説明できないと思うんだよな……その繋がりっていうのは。単純に音楽が好きなだけっていう気がするんですよ。そうとしか言いようがないんですよね。でも確かに、ハードコアのバンドをやりながら、歌ものでライヴをしたり、音源を出したりっていうのは、最初はすごく抵抗がありましたね」

Gofish / photo ©Chifumi Kubota 久保田千史

――それはどういったところから生まれる抵抗だったのでしょう?
 「今はみんな普通にやっていることなのかもしれないけど、当時はこういうことをやってる人が全然いなかったから……良く思っていない人もいたと思うんですよ、たぶん。ハードコアにも色々あって、DCとか好きな人だったら普通に受け入れてくれると思うんですけど、名古屋に多かったゴリゴリのメタリックな人とか、クラストパンクの人からしたら、訳の分からないことをやっているんだろうな……って。そういう音楽をやっている人たちの中にも、もちろんGofishを気に入ってくれた人もいましたけど。でも、どうかな、俺が考え過ぎてたのかも(笑)。自分自身でも戸惑いながらやっていたのかもしれないです。でもそれは、音楽が好きとか嫌いとか、そういう次元じゃないところだったんですけどね」

――人との関係とか?
 「そうそう。そういうところだったと思います。今思うと、どうでもいいこと考えてましたね(笑)」

――実際1stアルバムを出した時、ハードコア・ファンからの反応っていかがでしたか?
 「うん。良いね、って言ってくれる人と、ないものとして何も言わない人と(笑)」

――NICE VIEWも決して直線的なバンドではないと思いますし、僕は全く違和感なかったですよ。ご自身で葛藤されていた時期があったというのが逆に意外でした。
 「そうですか。普通にやってる感じしました?」

――はい。
 「でもまあ、1stアルバムを出した時には結構マシになってたかな。そういうことを考えていたのはもっと前の段階だったかもしれないです。音楽が違うと、演奏する場所も違ってくるし……今でもそれはあるけど(笑)」

――NICE VIEWとGofish、音の出し方は全然違いますけど、愛の形が同じであることが音楽から伝わってくるので、別々になってしまうのはもったいない感じがするんですよね。
 「うん。でも、そうやって関連付けて聴くものですか?」

――音楽はそれぞれで聴きますけど、完全に別のものとして捉えたことはないかもしれないです。同じ方が歌われているわけですし……。
 「まあそうですね、確かに(笑)。でもそれってNICE VIEWを元々知ってる人の主観であって、そうじゃない人がGofishを聴いてもそんなこと思わないでしょ」

――そうですね……。でも“ハードコア・バンドでヴォーカルを務めるテライショウタ”って書かれるとイメージがそっちに持っていかれる気がしますし、かといってそれを枷のように感じてしまうのもちょっと違うじゃないですか。これも僕の主観が強い見方なんだとは思いますけど。
 「うん、そういうところは見る人が決めれば良いところだと思っていて。GofishでやるときにはNICE VIEWのことなんか全然考えないから(笑)。作品を作ることに関して言えば、あんまり関係ない気がしてるんですよね。極稀にクロスする時はあるし、もっと深い、心理的なことを言われたら何かあるのかもしれないけど……」

――ご自身では、そういう心理面での連続性について、何か思い当たる部分はありますか?
 「う~ん。歌詞を作っていて、“この歌詞どっちだろう?”って思うことはたまにあるかな」

――唐突ですけど、Gofishという名前の由来は?
 「『GO fish』っていうレズビアンの映画があって、そこから取りました。ちゃんとした意味はよく分かってないかもしれない(笑)。トランプのゲームでありますけど、たぶん色々な意味がある言葉なんだと思います。NYにGO!っていうバンドがいたじゃないですか。その名前がかっこいいな、と思っていて。 “Go”って付くのが良いな、って。Lookoutから出てる女の子バンドのGO SAILORとか。とにかく“Go”ってポジティヴな感じで付けたかったんですよね。俺全然ポジティヴじゃないですけどね、やってることは(笑)」

――そんなことないですよ(笑)。
 「あからさまにポジティヴではないじゃないですか。“行こうぜ!”みたいな(笑)」

――確かに……(笑)。そうして名付けられて、始まったばかりの頃のGofishはどんな感じだったんでしょうか。
 「ヘタクソだったから、ローファイ気味にやりたくて。Beckの『One Foot In The Grave』みたいな、ヘタクソだけど良い曲をやるっていう(笑)。最初のデモテープはそういう感じでした」

――1stアルバムの時にはすでにローファイな感じではなくなっていますよね。少し自信が付いたのでしょうか。
 「どうなんでしょう。急激に成長したんじゃないですかね(笑)。いや、機材を色々買って楽しかったので、その楽しさに任せて作った感じでしたね」

――2ndアルバムは、その楽しさの延長線上にある感じがしますね。ゲスト陣も増えて賑やかで。
 「でも……結構行き当たりばったりで作ってて(笑)。ゲストの演奏も、最初に独りで全部録ったものに、後で重ねてもらったんですよね。一緒に演奏はしていないんですよ」

――基本やっぱりソロ・プロジェクトというか。
 「そうですね、2ndまではそういう感じだったと思います」

――では、今回のアルバムはだいぶ気持ちの持ち方が違いますね。
 「やっぱりそうですね。人とやったのは初めてですから」

――今回のような体制での制作は、何か思うところあってのものなのでしょうか。
 「自然な流れですね。2ndアルバム以降、稲田 誠さんと一緒にライヴをすることが多くなって、次録音する時には一緒にやりたいと思って」

――今回のアルバムには稲田さん、黒田誠二郎さんとのトリオ編成でのちょっとチェンバーな楽曲が収録されていますが、楽曲に必要で組んだ編成なのですか?それとも、その編成だからこそ生まれた曲なのでしょうか。
 「3人だからできた曲ですね。曲自体は自分で作ったものがあったんですけど、こういうアプローチは独りではできなかったと思います。元々あった曲を、みんなで一緒にアレンジしてもらった感じですね」

――人と一緒に録音することによって、これまでと一番変わったところは?
 「やっぱり、任せられるところじゃないですかね。独りだと、どうしても重くなっちゃうんですよね。今回は、もっと軽い気持ち……っていうと語弊がありますけど(笑)、楽にできましたね」

――これまでずっとお独りでやられていたわけですし、人に任せることに対して躊躇してしまう部分はありませんでしたか?
 「それは全くなかったですね。任せられる人たちだから、安心して委ねられるというか。黒田くんも稲田さんも、人それぞれが持っているリズムというか、呼吸をちゃんと理解した上で演奏してくれていて」

――人が増えたことによって、逆に色々削ぎ落とされた感じもしますよね。詰め込み過ぎない感じというか。
 「そうですね。1人の沈黙よりの3人の沈黙の方が、沈黙に厚みがある気がします」

――じゃあ2ndアルバムでの出会いっていうのは大きかったんですね。
 「そうですね。でも稲田さんとの最初の出会いはNICE VIEWだったんですよね。稲田さんはSUSPIRIAもやっていたから、ライヴで一緒になって」

――やっぱり、NICE VIEWとGofishで音楽性は違えど、やっぱり人同士は繋がるんですね。
 「というより、稲田さんも僕も活動形態が相当特殊だった、ってところで繋がったんだと思います」

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