Interview | RISE OF THE NORTHSTAR


ジャパニーズ不良スタイルは俺たちそのもの

 『ドラゴンボール』(鳥山 明 | 集英社)、『北斗の拳』(原 哲夫 | 集英社)、『ろくでなしBLUES』(森田まさのり | 集英社)といった90sジャンプ・コミックスをモチーフにしたリリックと、ラッピン・ヴォーカルのビートダウン・ハードコアをミックスしたスタイルで注目を浴びるフランスはパリの5人衆・RISE OF THE NORTHSTAR。もはや日本のアニメやコミックを主題とする楽曲制作は一般的ですし、NYHC由来のハードコアというフィールドに限定しても、かつてはMURPHY'S LAWやSICK OF IT ALLが『ドラゴンボール』のファンであることを公言していました。しかしながら、RISE OF THE NORTHSTARのそれに至っては趣味のレベルを陵駕し、もはや血肉の如し。ステージ・ウェアとして着用するカスタム学ランの着こなしからも、漫画 mangaや不良 furyoへの愛が一過性ではないことが伝わってきます。

 彼らが、2012年夏の「BLOODAXE FESTIVAL 2012」に続き、今年1月に神奈川・川崎 CLUB CITTA'にて開催されたLOYAL TO THE GRAVE主催「NEW YEAR'S BLOODAXE FESTIVAL 2014」出演のため英「Rucktion Records」からのリリースで知られる盟友バンド・PROVIDENCEと共に再来日。“スーパー・ベジータ”ことVictor Leroy aka Vithia(vo | 以下 V)、“北斗のKev”ことKevin Lecomte(dr | 以下 K)のお2人に、バンドを代表して結成の経緯や漫画の魅力について語っていただきました。


取材・文 | 久保田千史 | 2014年1月
通訳 | Kengo (FOR A REASON), Romain Delnaud


――RISE OF THE NORTHSTARはどのように結成されたのでしょう。友達同士とか?

K 「Vithiaが今とは別の連中と始めたんだ。そのときのメンバーは誰も残っていないんだけどね。今のメンバーはローカルなハードコアのショウで出会ったんだけど、全員がハードコアとかメタルみたいな音楽、それに日本のマンガが好きっていう共通点があったから一緒にバンドをやることになったんだ」

――そのハードコアのショウというのはどんなバンドのライヴだったんですか?
V 「NYHCスタイルのショウが多かったかな。2008年頃にパリで行なわれたその手のショウの映像をYouTubeで探してみると、俺もKevinもギターのBrice(Gauthier)も映っていたりすることがあるよ(笑)」
K 「そうなんだよね(笑)。今はバンドをやっているけど、単純にそういう音楽のファンだったんだよ」

――フランスは昔からINSIDE CONFLICTやKICKBACKのように、かっこいいハードコア・バンドがたくさんいますよね。そういったバンドからは影響を受けているのでしょうか。
K 「もちろん。INSIDE CONFLICTかっこいいよね。若い頃はそういうバンドのライヴによく行っていたんだ。KICKBACKは今回日本に来る前に一緒にライヴをやったばかりだよ。彼らは1995年頃に始まったバンドだから、世代はもちろん違うんだけど」

――今は国内だと、どんなバンドとやることが多いんですか?
V 「THE GREAT DIVIDE、PROVIDENCEかな。どっちもベーシストのFab(Fabien Lahaye)が在籍していたバンドなんだけど。THE ARRSとかL'ESPRIT DU CLANも何度か一緒にやったことがあるよ。L'ESPRIT DU CLANはKICKBACK世代の90s感がかっこいいんだよね」
K 「最初はハードコアのバンドとやることが多かったけど、最近はメタルのバンドとやることも増えてきたかもしれないね」

――RISE OF THE NORTHSTAR自体は、“ハードコア・バンド”という自負を持ってやっているのでしょうか。
K 「そんなことはないよ。自分たちでは“ハードコア・バンド”とは名乗らない。ハードコアはもちろん好きだけど、メタルとかヒップホップ、ほかのジャンルの音楽も大好きだから。“Protect Ya Chest”を聴くとよくわかるけど、いろんな要素を組み合わせているのがRISE OF THE NORTHSTARなんだよね」

――漫画の要素も、そのひとつということ?
K 「その通り。マンガとか、不良、ヤンキーみたいな日本のサブカルチャー要素はすごく重要な一面だね。それをメタルやハードコア、ヒップホップと融合させるイメージなんだ」

――ハードコア / メタルとヒップホップのハイブリッドというのは世界中それなりに存在するスタイルだと思うんですけど、そこになぜ漫画の要素を入れようと考えたのですか?
V 「俺は今、グラフィック・デザインやドローイング / ペインティングをやっているんだけど、それを志すきっかけになったのがマンガや日本のアニメだったんだ。幼い頃から絵を描くと先生に“アジア風の味わいがある”って言われていたし、音楽をやるにしてもそういう雰囲気を出したいと思って。マンガってすごくヴァイオレントだろ?音楽もヴァイオレントなものが好きだから、ぴったりなんだよ」

――フランスにはヴァイオレントなコミックがあまりないということ?
K 「そうだねえ」
V 「マンガのほうがグラフィックがアグレッシヴなんだよね。日本のマンガと同じようにフランスにもバンド・デシネっていうコミックがあって、例えば作家で言うと……ヤバい、ど忘れした……ほら、宮崎 駿も影響を受けているっていう……」

――Moebius(Jean Giraud)ですか?
V 「そうそう!もちろん、彼が描くようなフランスの古典的なファンタジー・コミックも素晴らしいんだけどね。あと、マンガってどんどん続きが読めるだろ?そういうところも良いんだよね。バンド・デシネは年に1回くらいしか出版されないんだよ。マンガに比べると値段も高いし」

――そうなんですね。初めて出会った漫画は何だったんですか?
V 「『聖闘士星矢』(車田正美 | 集英社)!クラシックだね」

RISE OF THE NORTHSTAR 'Tokyo Assault'

――世界的認知度の高い日本のコミックといえば『AKIRA』(大友克洋 | 講談社)『攻殻機動隊』(士郎正宗 | 講談社)という印象なんですけど、そのあたりは通っていないのでしょうか。
K 「もちろん両方とも読んでるよ。『AKIRA』大好きだよ」
V 「俺もグラフィック・デザインをやる上で、『AKIRA』の影響はすごく受けてる。例えば1stアルバム『Tokyo Assault』のカヴァー・アートがそうだね。あれは大友克洋のデザインをイメージしたところが大きいよ。コラージュで作っているんだけど、東京の街にも、パリの街にも、どちらにも見えるものが作れてよかったと思ってる」

――RISE OF THE NORTHSTARのヴィジュアルは所謂“不良”をイメージさせるものですが、それはどこから?やっぱり『ろくでなしBLUES』?
K 「そうだね。『ろくでなしBLUES』もそうだし、『ROOKIES』(森田まさのり | 集英社)とか……」
V 「『SLAM DUNK』(井上雄彦 | 集英社)。俺は桜木花道の背中を見て育ったんだ(笑)」
K 「(笑)。あとは『湘南純愛組!』(藤沢とおる | 講談社)、『GTO』(藤沢とおる | 講談社)、『ビー・バップ・ハイスクール』(きうちかずひろ | 講談社)とかね。基本的に古めのやつが好きだね」
V 「90sだね。マンガだけじゃなくて、音楽も90sのものが好きだったりする」
K 「そうそう。MACHINE HEADの1stとかね。ヒップホップもやっぱり90sのが好きだし」

RISE OF THE NORTHSTAR

――不良、ヤンキーのどんなところに惹かれたんですか?やっぱりヴァイオレントな部分?
K 「いや、アティテュードかな。(肩を揺らしてメンチを切りながら)こういう歩きかたとか態度、(日本語で)“なンだ?ゴルァ”とか“ボケェ!”みたいな喋りかた、学ラン、ボンタン、そういうイメージが全部イカしてるんだよね」
V 「あとはやっぱり、自分自身が同じ種類の人間だからっていうのもあると思う。学校から追い出されて、社会的には負け犬っていう。マンガの中に、自分の姿を見たっていうか」

――そういったマンガは、ヴァイオレントな登場人物が強い正義感を持っていることが多いでしょう?仲間を守ったりとか。不良マンガに限らず、『北斗の拳』なんかもそうだと思いますけど。そういう、精神的な面での影響はあるのでしょうか。
K 「『北斗の拳』は良い例だね。ケンシロウの拳は正義の拳であると同時に、復讐の拳でもあるわけじゃない?RISE OF THE NORTHSTARはその、復讐の部分にフォーカスしているんだ。俺たちは学校や社会では決して最高ではないけど、ステージでは最高のショウを見せる。それが俺たちなりの復讐なんだ」

――バンド名にもしているくらいだし、マンガの中ではやっぱり『北斗の拳』が最高?
K 「そんなことないよ。もちろん『北斗の拳』は大好きだけど」
V 「そうだね、シンボルとして使っているというのが正確かな」
K 「実は、RISE OF THE NORTHSTARと名乗る前は違うバンド名だったんだ。“FURYO'S DAY”っていう名前だったんだけど、“furyo's”がフランス語の“furieux”、英語で言うと“furious”に聞き間違えられちゃうんだよ。それが嫌で今の名前に変えたんだけど、『北斗の拳』だけが好きなわけじゃないんだ。例えば“Protect Ya Chest”のビデオは『ROOKIES』のイメージだし、“Phoenix”は『聖闘士星矢』から取ってるし」

――フェニックス一輝?
K 「鳳翼天翔!」

――鳳凰幻魔拳……。
K 「そうそう。そのフェニックス。そうやっていろんなところからの要素を入れているんだ。『北斗の拳』もそのひとつっていうこと」
V 「マンガのリミックスというか、トリビュートというか。“Sound of Wolves”では『20世紀少年』(浦沢直樹 | 小学館)のイメージを入れたりもしてる」

――『20世紀少年』はわりと最近の作品じゃないですか。90sのものだけじゃなくて、新めのマンガもチェックしているんですか?
V 「もちろんチェックしてるよ。『GANTZ』(奥 浩哉 | 集英社)とか超好き」
K 「おもしろいよね。新しいマンガもやっぱり良いんだよね」

――『BLAME!』(弐瓶 勉 | 講談社)はどう?弐瓶先生はバンド・デシネの影響を受けていると思うんですけど。
K 「『BLAME!』いいよね!絵で魅せる部分がすごく多くて、ストーリーもストレンジだし、たしかにバンド・デシネに通じるものを感じるな」
V 「俺は『バガボンド』(井上雄彦 | 講談社)が好きなんだよね。実は次のアルバムに、『バガボンド』をテーマにした曲を入れる予定なんだ」

――それは武士道についての曲ということ?
V 「そう。侍の精神というか」

――日本に訪れてみて、実際に不良とか、侍のスピリットに触れる機会はありましたか?
K 「そうだね。上野とか吉祥寺に行ってみたんだけど、マンガの中とは違っていても『ろくでなしBLUES』のヴァイブスは伝わってきたな。現代の日本に刀を挿した侍はいないっていうことはもちろん知っているけど、その道徳観や価値観が日本の人たちの心に残ってるということもすごく感じたよ」

――日本の文化を理解してくださっているんですね。アメリカの映画などでは、今も誤解した日本像が真面目に使われたりするじゃないですか。
K 「そうだね(笑)」
V 「俺たちは、日本でプレイすることを目標にしてきたバンドだから、そういうものとは違うと思うよ。他のバンドは逆にアメリカを目指していることが多いと思うんだけど」

――ステージ・ウェアの学ランはどこでゲットしたんですか?
K 「ヤフオク(笑)」
V 「俺はデカいから、合うサイズのを探すのが大変だったよ(笑)」

――パンツはDickiesをカスタムしてボンタン仕様にしてますよね(笑)。なぜ本物のボンタンではないんですか?
V 「Dickiesは丈夫だからね(笑)。たくさんライヴをやるから、パンツは丈夫なほうが良かったんだ」
K 「それにDickiesは学ランにめちゃめちゃ合わせやすいんだよ」
V 「次のアルバムに向けて、新しいステージ・ウェアも開発中なんだ」

――そうなんですね。長ランとか(笑)?
K 「(笑)。長ランも短ランも特攻服も知ってるけど、今はまだ秘密(笑)」
V 「見てのお楽しみだな(笑)」

――ステージ・ウェアはコスプレに通じるところがあると思うんですけど、そういうカルチャーにも興味があるんですか?
V 「それは全くないね。俺たちのはコスプレとは違う。コスプレっていうのは、何かのキャラクターになりきるのが目的だろ?ジャパニーズ不良スタイルは自分自身の中から出てきたものだから、俺たちそのものなんだよ」
K 「そうだね。コスプレとは違って、もっとリアルな表現なんだ」

――マンガのほかに、興味がある日本のカルチャーってある?
V 「田中 瞳*註(笑)!」
K 「(笑)」
V 「最高(笑)!」
K 「俺は古いゲームも集めているんだ。ファミコン、スーファミ時代の。食べ物とか、寺社仏閣にも興味があるよ」
*註: テレビ東京アナウンサー・田中 瞳さんではなく、元グラビア・アイドル / セクシー女優のHitomiさん。

――本当に日本がお好きなんですね。
K 「うん。でも同じくらいフランスも愛してるから、学ランの襟にはフランスの国旗を付けているんだ」

――3年前、日本で大きな地震が起きたとき、勇気づけるようなビデオを作ってくれましたよね。あれにはどんな意図が込められていたのですか?
K 「“Phoenix”のベネフィット・ビデオだね」
V 「愛する国の人たちが傷ついているのを見て、何かしなければと考えたんだ。俺たちにできるのは、曲を書いたり、ビデオを作ったりすることだったんだよ」

――最後に、日本の皆さんに何かメッセージがあれば聞かせてください。
V 「自分の国の文化に自信を持って、変わらないでいてほしい」
K 「そうだね。誇りを持ち続けてほしいな」

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