Interview | 近藤さくら + CARRE


“やらなきゃいい” ってわけじゃない

 THROBBING GRISTLEやSPKなどのオールドスクールなインダストリアル・ミュージックを想起させるサウンドで注目を浴び、ノイズ・インダストリアルの現場はもとより永田一直、やけのはら、ECDからZENOCIDE、ENDON、AUTO-MODまで幅広い共演歴を持ちながらも、独自の美学に裏打ちされたスタンスを貫いてきたNAGとMATERIALによるデュオCARREが、『Grig And Cold Mouse』以来5年ぶりのニュー・アルバム『Grey Scale』を6月にリリース。同作は、鉛筆やアクリルガッシュを用いたダイナミックな無彩色作品で知られ、衣料品メーカー“MAN”の一員としても活躍するほか、近年では白波多カミンのグッズ・衣装デザインも手がける画家・近藤さくらとのエキシビションに向けて制作されたもの。両者は“絵”と“音”を3年に亘ってやりとりし、4月24日から5月1日にかけて東京・恵比寿 KATAにて展示“Grey Scale”を開催。4月25日にはレセプション・イベントとして、6時間不休のライヴ・ドローイング + 演奏“6 Hours of SAKURA KONDO × CARRE”を敢行しました。アルバム『Grey Scale』は、アクリルのプレートに覆われた装丁で会期中に販売された画集 + CDの流通エディション。その完成に至るまでの過程について、両者にお話を伺いました。

取材・文・撮影 | 久保田千史 | 2015年5月
main photo | ©Ichiko Uemoto 植本一子 | 天然スタジオ


――『Grey Scale』の構想は、いつ頃スタートしたのでしょう。

MTR 「3年くらい前ですね。さくちゃん(近藤)から話をもらって」
近藤 「当時は自分の絵に飽きてしまっていた時期で、突破口が欲しくて、CARREにミックスCDを作ってもらうことを思いついたんですよ。めちゃくちゃ漠然と、今まで聴いたことがない音源が欲しいなあ、って。展示をやるときに一緒に売ったりするのも良いな、と思って声をかけたら、“新曲が出来た”って言われてびっくりして(笑)」

――CARREのやっている音楽を知った上でオファーしたんですか?
近藤 「そうですね」
MTR 「でも僕らはDJをやっていないので、“DJミックスはできません”って断ったんですよ」
近藤 「そうなんだよね、そもそもDJやってないんだよね、失礼な話だ(笑)。それでも、ちょうど個展を控えていたから“とにかくわたしの絵を観に来てください”ってお願いして」
MTR 「それでCULTIVATE(東京・小伝馬町)にさくちゃんの展示“うず”を観に行って、できないDJミックスを作るよりも新しい曲を作ったほうがいいな、と思ったんだよ。ていうか曲を作らないとダメでしょ、っていうくらいの存在感だったから。やる気になって。それでNAGくんにも“すごいからすぐに観に行ったほうがいい”って話して観に行ってもらったんですよ」

――近藤さんの絵ありきで曲を作り始めたんですね。
MTR 「そうですね。CULTIVATEで観た絵のイメージから、こういうのが合うかな?っていう感じで何曲か作って、少し溜まってきたところでさくちゃんに渡して。そこからさくちゃんは“Grey Scale”の絵を描き始めたんだよね。そういう意味では“うず”から繋がってるといえば繋がってる」

――近藤さんはそもそも、CARREのことをどういった経緯で知ったのでしょうか。
近藤 「友達の植本一子から2人の事は聞かされていて、“CARRE”っていう名前は以前から知っていたんですよ。聴いたことはなかったんですけど。初めて聴いたのは、たぶん2011年くらい。たまたまオルグ(東京・南池袋ミュージック・オルグ / 2014年閉店)にライヴを観に行ったら出ていて」
MTR 「その時ってさ、元々何を観に行くつもりだったの?」
近藤 「忘れちゃったけど(笑)。とにかく“CARREすごい!”と思って。ライブが終わって外に出たら2人が車に機材を積んでいて、全然面識ないのに“すっごい良かったです!”って言って、満足して帰った」
NAG 「あはは(笑)」

――近藤さんは元々どんな音楽がお好きなんですか?
近藤 「生活に欠かせないもののひとつではあるけど、何かひとつの音楽が好きっていう感じはありませんね。気分とか天気とか季節で聴きたい音楽は変わります。知らない音楽を聴くことはとても好きです。強いて言うと歌が入ってるものよりも、音が秀でてる音楽が好き。ライヴも友達が企画したり出演したりしているものを中心に行ったりします。学生の頃に“RAW LIFE”とかには遊びに行ったりしてました。その時に出てたんだよね?」
MTR 「出てたよ」
近藤 「その時は何を聴いてたんだろうなあ……」

――オルグというサイズの場所で出会ったのが良かったのかもしれないですね。
近藤 「そうかもしれない。会場が狭くて、しかも一番前で観てたから距離が近かった。ミヤジ(宮崎岳史 / オーガナイザー / 東京・渋谷 7th FLOOR)は昔からの友達で、おもしろいライヴがあるとよく誘ってくれるんですよ」
MTR 「さくちゃんはミヤジがTEE PARTYでやってるレーベル(CADE)のロゴを描いたりしてるもんね」
近藤 「描いてる描いてる」
MTR 「僕もCADEから出品してるから、お互いけっこう近いところにはいたんだよね」

――CARREの音楽と出会って、ご自身の作風と通じるものを感じたのでしょうか。
近藤 「共通点というより、“こういう風に絵が描きたい”って思ったんですよ。ライヴに行って感動すると、そういう絵が描きたくなるんです」

近藤さくら + CARRE exhibition "Grey Scale" @<a href="http://kata-gallery.net/" target="_blank" rel="noopener"><span style="color: #ffffff;">KATA</span></a>
近藤さくら + CARRE exhibition “Grey Scale”, 2015 @KATA

――CARREとしては、特定の何かに対して曲を作るという方法を、それまでに試したことはあったのでしょうか。
MTR 「依頼されて即興で『メトロポリス』に音を付けたことはありましたけど、しっかりとしたやり取りを経て何かを作り終えるというのは、やったことがなかったですね」

――『Grey Scale』は、これまでのCARRE作品と比べると、音が一歩後ろに下がった作風になっていると感じました。
MTR 「そうだと思います。作った中からそういう曲を選んだので。だから、“これはこのアルバムには入らないな”と思ってボツにしたアウトテイクも多いんですよ」

――その選曲は絵を引き立てるという意味で?
NAG 「そうですね」
MTR 「もう少し“音楽”っぽいものは今回ほぼ全部ボツにしました」

――“音”としての部分を重視して。
MTR 「そういうことですね」

――それは近藤さんの要望に応えてのことだったのでしょうか。
MTR 「いえ、こちらで勝手にそう思って。NAGくんとの話し合いの中で決めたことですけど」

――音楽について3人で話し合うことはなかったんですか?
近藤 「なかったですね。そもそも3人で頻繁に会うとか、メールをめちゃくちゃやり取りするということが全然なくて。こんなに会わなくていいのか?みたいな(笑)」
NAG 「(笑)」
近藤 「でもわたしはそういうところに親近感とか信頼を感じて。すぐに馴れ合いの友達になるとかじゃなく、ずっと良い緊張感があるというか。作る者同士、わたしが絵を描いて、返ってくるものは音楽。それにわたしはまた絵で返すっていう。そういうのは信用できるって思ってました」

――音そのもの、絵そのもので繋がった感じですね。
NAG 「そうですね」
MTR 「でも展示の1ヶ月くらい前から、急に毎日メールするようになったよね。焦って(笑)」
近藤 「そうそう(笑)」
MTR 「それまでは本当に全然連絡を取り合わなくて、どこかでたまたま会っても“Grey Scale”の話はしなかったり」
近藤 「全然関係ない話してたよね(笑)」
MTR 「むしろ一時期は“Grey Scale”の話は避けようかな、と思ってたくらい。それくらい曲作りが進まない時もあったんだよ。これは本当に果たして終わるのかな?って。完成が見えない時がけっこうあったんだよね」

――それだけ丹精込めて作っていたっていうことですよね。
NAG 「そうです(笑)」
近藤 「あはは(笑)」

――近藤さんの絵を前提とするにあたって、今回何か特別なことはしましたか?
MTR 「特にしていないですね。以前と比べると機材が増えているっていうのはありますけど」
NAG 「シンセサイザーの数は増えてるよね」
MTR 「あと今回は僕がトランペットを吹いてるとか。前作でも少しやりましたけど、今回もマイク録音みたいなことをやって空気感を出したり」

"6 Hours of SAKURA KONDO × CARRE" / photo ©Chifumi Kubota 久保田千史

――それで後ろに下がった感じがするのかもしれないですね。
MTR 「それもあると思います。ラインで録ったほうが良い曲も当然あるので、そういう時はやらないですけどね。でも今回は、機材からハードディスクまでずっと機械の中を通って、音が1度も外に出ない感じが考えられなかった。空気に触れさせたほうが良いんじゃないかという判断をすることが多かったんですよね」

――それは近藤さんの絵の印象からということなんでしょうか。
MTR 「それもあるかもしれないですね」
近藤 「へえ~。おもしろい」

――近藤さんの絵って、風景っぽいイメージにも見えたりすることがありますよね。そういう感じ?
NAG 「僕はけっこうそうですね」
MTR 「僕はわりと物質的なイメージがあるんですよね。今回、この曲は“アリ”とか“ナシ”でしょ、っていうのがお互いにはっきりした時期があったんですけど、その違いに起因するところが多かったように思います」
近藤 「そんなことがあったんだ……」

――お2人で曲を作る際、あまり話はされないんですか?
NAG 「めっちゃ喋りますよ(笑)。お互いが納得できたらOKという感じです」
MTR 「どちらかが100%作ることもあるんですけど、そうだとしても2人がOKじゃなかったらダメ」
NAG 「最終的な判断は2人でしますね」

――『Grey Scale』にはどちらかお1人が作った曲は収録されていますか?
NAG 「ありますあります。半々くらいですね」

――どれがNAGさんの曲でしょう?
NAG 「3、6、8は僕で、1、4、5がMTRくんの曲ですね。残りの曲は2人でやってます」

"6 Hours of SAKURA KONDO × CARRE" /  photo ©<a href="https://clinamina.in/" target="_blank" rel="noopener"><span style="color: #ffffff;">Chifumi Kubota 久保田千史</span></a>

――相手の作ってきた曲に対して“ナシ”とする基準はどんなところなのでしょうか。
MTR 「今回ボツになった曲の中に、TB-303を走らせて、僕がたまに音を入れるっていうだけの冗談みたいな曲があったんですよ。一発録りで、何分の曲か忘れましたけど、3分の曲だとしたら3分で出来た曲。僕はアルバムが全体的に真面目過ぎる感じがしたから、“遊びでやっているんですよ”くらいの感じをちょっと入れたかったんです。でも最後にどうしても嫌だっていうから」
NAG 「(笑)」
近藤 「あの曲良かったけどね」

――近藤さんも聴いてはいらっしゃったんですね。
近藤 「わたしは勝手に“ブニュブニュ”って呼んでたんですけど、最終の選曲に入ってなくて“あ、あいついなくなったんだな~”って思ってました(笑)。音としての良し悪しはどうかわからないけど、気になる曲だったな。他の曲がだいたい20歳としたら、“ブニュブニュ”は5歳くらいのイメージ(笑)」

――NAGさんは近藤さんの絵からそういったファニーな印象は受けなかったわけですね。
NAG 「さくちゃんの絵からというよりは、単純に音楽としてフザけ過ぎじゃないかな、という気が僕はしたんで」
MTR 「そう言われて、フザけ過ぎてる気が僕もしてきたから(笑)、今回はやめようということで。あれが世に出ていたら、TB-303を使った最もフザけた曲になるはずだったんですよ」
NAG 「まあ、おもしろいはおもしろいんだけどさ(笑)。やり過ぎだと思って」
近藤 「普段CARREのライヴを観に行ってる人が聴いたら、“えー!?”ってなると思う」

――CARREは細部にまで拘って作品を作っていらっしゃると思うので、アリ、ナシの基準が厳しい気がするんです。お2人個々の美学をどう摺り合わせているのかな?と思って。長く続けていらっしゃるからには、何か秘訣があるんでしょうか。幼い頃から一緒にいるというのも大きいかもしれませんが。
NAG 「う~ん、細かく言ったらそりゃ違うところはたくさんありますけど……共通する部分は多いし、信頼してますんで」
MTR 「(笑)。でもまあ、“もうやってらんね”みたいにはならないわけですよ。だから、けっこうお互い妥協してるんじゃないかな。そういう意味ではそんなに拘りがないのかも(笑)。妥協しないで止めちゃう人もたくさんいるじゃないですか。“もうこいつとはできない”みたいな。そうはならないから」

――今回はさらに近藤さんとのやり取りも入っているわけですが、お互いにダメ出しするようなことはありませんでしたか?
近藤 「あんまりなかったよね?」
MTR 「なかったんじゃない?お互いに褒め合うっていう(笑)」
近藤 「今思うと気持ち悪いな(笑)」
MTR 「イイネ!イイネ!みたいな(笑)」
近藤 「自分が作ったものに対して、“良いものを渡している”っていう自信があったから、“その先はやっちゃってくれ!”って思ってました」
MTR 「本当にそう。どんな絵が来てもOKだったし。僕らは最初、渡すのすごく恐かったですけどね。逆に返ってくるものに対しては、間違いないと思ってた」
近藤 「わたしも、一番最初は見せるの緊張したよ」
MTR 「そうだよね。最初は恐いよね」

――良い関係ですね。
近藤 「そうなんですよ」

――展示はその集大成として行われたわけですが、全国流通のアルバムは“CARREのアルバム”としてのリリースですよね。今回は音楽と絵がかなり密接な関係にあると思うので、それを不満に思うことはないのかな?と思います。CDのパッケージに、自分の名前があったらなあ……とか。
近藤 「それが全然思わなくて。思ったほうが良いのかな(笑)」
MTR 「いや、これは本当に悩んだんだよ。音自体は僕らの音だし、さくちゃんの絵を全部載せられるわけでもないしね。流通盤が“近藤さくら + CARRE”として出ていても、逆によくわからないじゃないですか」
NAG 「だから、画集と流通盤は別物の感覚だよね」
MTR 「正直そう」

――サウンドトラックだと思ったら良いのかもしれないですね。
MTR 「本当そうかもしれない。映画の音楽がEnnio Morricone名義でリリースされたりするのと一緒だね」
近藤 「なるほど」
MTR 「盤の内容自体は一緒だけど、画集と流通盤では違う聴こえ方になるかもしれないですね」

CARRE 'Grey Scale', 2015 <a href="http://mgmdelivery.tumblr.com/" target="_blank" rel="noopener"><span style="color: #ffffff;">MGMD A ORG.</span></a>
CARRE ‘Grey Scale’, 2015 MGMD A ORG.

――そうですね。Morriconeも観たことのない映画のサウンドトラックだと印象が全然違いますもんね。
MTR 「そうそう」
近藤 「わたしが絵を描いている時は、サウンドトラックを最初にずっと聴いてる状態だったんだよ。だから、わたしは流通盤のほうがしっくりくるのかもしれない」
MTR 「なるほどね、たしかにそうだね」

――サウンドトラックから映画ができたみたいで、不思議な関係ですね。
近藤 「本当そうですよね」
MTR 「さくちゃんはさ、曲にタイトルが付いてることについてはどう思ってるの?これは僕らが最後に決めたタイトルだからさ。展示とはあまり関係ない感じもあるし。タイトル付けないことも考えたんだけど。少なくとも画集のほうには」
近藤 「タイトルが付いたことで、わたしが描きながら考えてた曲に対するイメージが巣立った感じがした。良い距離ができたというか。これどういう意味なの?ってひとつひとつ聞きたかった」

――今教えていただきましょうよ。
近藤 「“LFTM”は医療機器なんだよね?」
MTR 「そうそう。Low Frequency Therapy Machineのこと。“LFTM”の2曲は低周波治療器の音から出来た曲なんだよね。“Tin Reverb”っていうのは、リヴァーブはわかるでしょ?」
近藤 「うん」
MTR 「リヴァーブなんだけど鉄っぽい感じで、FenderのTwin Reverbっていうアンプをもじって“Tin Reverb”」
近藤 「“Tin Reverb”は鉄でできた寺のイメージだった」
MTR 「“Open”は?」
NAG 「これは元々“Operation”ていうタイトルで、それを略したの。手術中の感じっていうか」
近藤 「“Mortar Sleigh”は?」
MTR 「これは“存在しないもの”を指してるんですよ。モルタルで出来たソリなんて有り得ない。元々は丘みたいなところをソリで滑ってるイメージで作っていた曲で、最初は“Green Sleigh”っていうタイトルだったんですけど、“Grey Scale”だからミドリ色はやっぱり止めたほうが良いんじゃないかと思って。だからといって“Grey”って付けるのつまらないから“Mortar”にしたら、頭の中で“こんなもの有り得ないんじゃないか”っていう感じになって」
NAG 「“Tepid Liquid”は?」
MTR 「これは直訳すると“ぬるい水”、常温ですね。これも最初考えていたものからタイトルが変わったんだよね……。何だったか忘れちゃったけど」
近藤 「これは割り箸みたいな形の生き物の珍道中の映像がずっと浮かんでた(笑)」

――タイトルは直感的に付けているんですか?
MTR 「そうですね。歌詞がないから」
近藤 「“Vertigo”は?」
NAG 「それはそのまま。眩暈をイメージして作った曲。“Geography”は直訳すると“地理学”なんだけど、これは僕なりにゴルジェを意識して(笑)」
近藤 「ゴルジェって何?」
NAG 「山みたいな感じの音楽。僕は炭鉱を工事してるようなイメージで作ったんだけど。“Geography”の綴りもゴルジェっぽいし(笑)」

――“Siemens Und Halske”は?
MTR 「会社名ですね。今はもっと短い名前で補聴器、測定器みたいな医療機器とか、色々やってますけど。シンセサイザーも作ってました。ナチスの時代の頃は、この長い名前だったんですよね。別にナチは関係ないですけど。『花様年華』っていう映画にこの会社のでっかい壁掛け時計が出てくるんですけど、それが欲しかったっていう(笑)」
近藤 「そっか、欲しかったのか(笑)」
MTR 「その映画がすごく好きで、僕としては劇中っぽいイメージの曲なんですよ。ドイツの会社名だけど、1950年代の香港のイメージ(笑)。最後の曲の“Trompete”は聴いていただければわかるように、トランペットを吹いている曲なので、これはトランペットの……何語だったかな?ドイツ語だっけ?」
NAG 「そうです。特に意味はない(笑)」

――これまでの作品も含め、タイトルはそこまで重視していないのでしょうか。付けなくても良いくらいの。
MTR 「まあ、そうですね。付けたい曲もあるし、無理して付ける曲もある。今回の場合は、さくちゃんの絵が本当のタイトルというか。だから付けなくてもよかったんですけどね。“何曲目”みたいな感じで言うよりも、一応タイトルがあるほうが自分たちも覚え易いから。タイトルが浮かんで、その意味がわかってくると、それに引っ張られるパターンもあるし」
NAG 「MTRくんはよく、“まずタイトルを決めよう”みたいなことを言うんですよ。タイトルから曲を作ろうとすることもありますね」

――NAGさんにもそういう感覚ありますか?
NAG 「僕はどちらかというと音から作ります」
MTR 「それ以前に、これまでCARREがリリースしてきたものって、CD-Rで出していたものも含めて全部ジャケからできてるんですよ。“もうジャケができたから中身を作ろう”みたいな」
NAG 「(笑)」

――今回の近藤さんとのコラボレートは、ある意味その延長にあると言えるのかもしれないですね。
MTR 「そうかもしれない。アルバムのジャケがちゃんと決まったのは最後だったから、そういう意味では逆だけど、さくちゃんの絵がジャケになるっていうのがまず決まっていたという点においてはたしかに、今まで通りっちゃ今まで通りだったのかも」
近藤 「作り方はわたしも似ているかも。わたし、最初に展示のイメージがないとなかなか絵を描かないんですよ。日々描き溜めていて、ある程度蓄積されたら展示をするっていうんじゃなくて、“こういう展示がしたい”っていうところに向かって絵を準備するやり方だから。似てるね」
NAG 「そうだね」

――空間や、絵同士の構成から考えるということですか?
近藤 「う~ん、設計図というか、部屋の見取り図みたいなものはわりと日々描いてますね。ここに大きい絵があって、ここに細かい絵があって、真ん中に何かあって……とか」

――へえー!そういうことやられてる方って周りにいらっしゃいますか?
近藤 「どうだろう……。でもいわゆる“画家”と呼ばれる人って、毎日、何時間でも、いくらでも描いて、その膨大な量の中からふるいにかけて作品として発表する人が多いですよね。絵を描くことが日常と繋がっているというか。そういう人のこと私は羨ましいなと思ってます。わたしにとって描くことは非日常なんです。だから何か先に決まったことがないと手が動かない。あとよっぽどすることがない時とか(笑)」
NAG 「僕らも完全にそうです」
MTR 「今回はボツ曲がたまたまあるけど、基本的にムダなことはやりたくない(笑)。創り溜めてる感じは全然ないし、そんなの苦痛でしかない(笑)」
近藤 「描くの苦しい(笑)」

――でも所謂“音楽家”とか“画家”とかの一般的なイメージって、たぶん逆ですよね。
NAG 「ああ……」
MTR 「だって、僕らはそういうのじゃないですから。ただの遊び人(笑)」
近藤 「あはは(笑)!」
MTR 「さくちゃんは画家だと思うけど、僕らはねぇ……」
近藤 「わたしも、いわゆる生粋の芸術家ではないと思うよ。憧れを込めて“画家”って言ってるけど。できることなら何も考えずに楽しいことして過ごしたいよ。南国に行くとか。友達と呑みに行くとか。楽しいことはいくらでも思いつくし、そっちに行きたいんだけど」

――展示は楽しいことのうちに入らないんですか?
近藤 「展示自体は楽しい」
MTR 「始まると楽しいけど、それまでが本当に大変だっていうことが今回よくわかりました(笑)」
近藤 「“だったらやらなければいいじゃない?”って思われるかもしれないけど……やらなきゃいいってわけでもないの。やりたいの。でも苦しい……結局はこのループをずっと続けていくんだと思う」

"6 Hours of SAKURA KONDO × CARRE" /  photo ©<a href="https://clinamina.in/" target="_blank" rel="noopener"><span style="color: #ffffff;">Chifumi Kubota 久保田千史</span></a>

――とは言っても、例えばメジャー・レーベルの、きっちりしたリリース・スケジュールで……みたいな感じではないですよね?
MTR 「そうですね。でも、もしかしたらそういう予定があったほうが、作り易いのかもしれない」
NAG 「締切がないとね(笑)」
近藤 「わたしもそう(笑)」
MTR 「ただ、僕たちに関して言えば、リリースが目的でやってるわけじゃないんですよ。もちろん物として残るのはすごく嬉しいですけど、それを作るために他の何かをセーブするのは本当に苦痛だから。そこは上手くバランスをとって。リリースをするにしても、一発入稿で1週間後にパッケージされたものが1,000枚届いて、値付けして、みたいなものを出すつもりは全くないし、嫌なんですよ。流通盤の『Grey Scale』にしたって、この箱をひたすら自分たちで作ってるわけです。音楽と、ジャケットだったり、パッケージだったりの比率が全部同じでないと嫌というか。やっぱり、そういう内職みたいなことに憧れがあるから。昔のパンクとか、それこそTHROBBING GRISTLEもそうですけど、週末にメンバーが集まって、みんなでシルクを刷ったりしていたわけじゃないですか。手を動かすっていう。そういうのが好きなんですよ。もちろんCDのプレスとか印刷は自分たちでやるのはなかなか難しいですけど、可能なところは全部自分たちでコントロールしたいんですよね」

――近藤さんのCULTIVATEでの展示に感銘を受けたというのは、DIYの質感に因る部分も大きかったのでしょうか。
MTR 「ああ、そうですね。それはあるかもしれないです」

――マニュファクチュアリングですよね。一般的に言われるインダストリアルの対義語として。
MTR 「そうそう。それですよ。TGが言うインダストリアルっていうのは、アンチ・インダストリアルなわけじゃないですか。昔のノイズ・インダストリアルの人たちの“インダストリアル”は、パンクで言うところの“DIY”と同じで、ほとんど思想だから。全く同じものが大量生産される感じへの嫌悪感とか。最近またジャンルとしてインダストリアルってよく言われますけど、別物ですよ。本来のインダストリアル・ミュージックの人たちは、みんな家で内職してたわけだから。それをやらなかったら全然、嘘ですよ」

――そういう意味で、CARREはすごく難しいですよね。“インダストリアル”と銘打って紹介すると、ジャンルとしての“インダストリアル”として刷り込まれてしまう。
MTR 「言葉としてね。まあ良いんですけどね。間違った解釈をしてくれるのも、それはそれでおもしろいと思う」

――ジャンルという観点でも、ノイズなのか、テクノなのか、みたいにどこにも寄せられない感じがCARREですよね。それはそういうものを目指した結果なんですよね。
MTR 「最初から、何なのかわからないものがやりたかったから。紹介ができないから売るのが難しいっていう困難は伴いますけど(笑)、ざまーみろとも思いますよ」

――近藤さんの絵も、説明はし辛いものですよね。
近藤 「そう。いつも“何の絵なんですか?”とか“何をイメージして描いてるんですか?”ってすごく聞かれるんですけど……答えるのにいつも困りますね」

――でも実のところ……何をイメージして描いてるんですか(笑)?
近藤 「何も考えてないですよ、頭真っ白(笑)。“あなたは何を考えているのかわからない”って色んな人に言われるんですけど、何も考えてないだけです。展示で6時間描いた時は、できるだけ今鳴ってる音をちゃんと残していこうと思ってました。耳に集中して描いてましたね。あの時はいくつかの小さめの紙に描いたんですけど、本当は巻物みたいな紙に音を残したかったんです。結局あれが一番描きやすかったからああしたけど。そういうことは考えてますね。頭が真っ白の状態で何かをひねり出すのが楽しいんです」
MTR 「でも抽象的なものをやっているつもりはないですよ」
近藤 「そうだね。あと、たぶんCARREもそうだと思うけど、“暗黒なんじゃないですか?”って言われない?」
NAG 「言われる」
近藤 「実際はそんなこと全然ないでしょ?」
MTR 「ないね」
近藤 「むしろめちゃくちゃ清々しい気持ちで作ってるんだよ(笑)」
MTR 「和気藹々とやってるんだよね(笑)。録音もだいたい笑いながらやってるけど、なぜか出来上がるとその感じは伝わらないんですよね。恐い人だと思われてたりとか(笑)」

――でも皆さん、受け手としては“ダーク”と言われているようなものはお好きなんじゃないですか?
NAG 「まあ……ものによりますけど、わりとそうですね」
MTR 「そんなことないでしょ、明るいのも全然聴いてるじゃん」
NAG 「そうだね、別に“ダークだから”聴くわけじゃないですよ」

――“ダークだから聴く”という方も世の中にはたくさんいらっしゃいますよね。
MTR 「そうですね。特に僕らがカテゴライズされてしまうところのリスナーっていうのはそういう人が多いのかもしれない。でも僕ら自身はダークじゃないし、そういう人たちが僕らの音楽を聴いても、あまりおもしろく感じないんじゃないかな(笑)。もちろん、聴いてみてはほしいですけど」
NAG 「単に、明るい曲は恥ずかしくてできないだけなんだよね」
MTR 「ギリギリ、フザけた音楽ならできる。明らかにメジャーコードものはテレが入ってできないね。そういうものは周りにいる人が巣晴らしい音楽を作ってるから、それでいいや、と思っちゃう。それこそ、僕はシティポップみたいなのが大好きなんですけど、自分の表現としてはできないし」

"6 Hours of SAKURA KONDO × CARRE" /  photo ©<a href="https://clinamina.in/" target="_blank" rel="noopener"><span style="color: #ffffff;">Chifumi Kubota 久保田千史</span></a>

――そういうCARREも聴いてみたいですけどねえ。
近藤 「興味あるなぁ」
MTR 「う~ん、でも、絶対良くないと思うよ」
近藤 「わかるな。好きなことと、できることは違うよね。わたしもジャンルが違う作風に憧れはあるもん。カラフルで、分かりやすいモチーフで、気持ちが明るくなるような……(笑)。でもそれはわたしの役割ではないし、やりたいこととも違うと思って。需要があった時に、わたしは同じ場所にいて、待ってればいいかなって思う」

――音楽もそうですよね。
MTR 「そうですね。僕らも別に、誰かを引き寄せようと思ってるわけじゃなくて、僕らみたいな音楽が合うときもあるかもしれないですね、くらいの感じなんです。そもそも別に音楽じゃなくても良いわけで。絵だってあるし、映画もあるし。アメリカの、広い庭で、ピザがいっぱいあって、パーティしてて、ディーヴァが出てきて歌って、みたいな映画とかフツーに好きだしね。そこに行きたいな、って思うし」
近藤 「あはは(笑)。何の話?」
MTR 「Norah Jonesがいきなり歌い始める映画があったんだよ。そういうの全然、大好きだから。この表現だけが自分だとも全く思ってないしね」

近藤さくら official site | http://sakurakondo.com/
CARRE official site | http://mindgainminddepth.blogspot.jp/
MGMD A ORG. | http://mgmdelivery.tumblr.com/