黒電話666

黒電話666

――soupでやり始めてからということは、環境が低音を意識させたということですか。アーメンて元々低音ないですもんね。
黒電話 「そうですね」
西山 「ドラムンベースとかって低音そんなに低くないんですもんね。100Hzくらいとかで。普通のスピーカーでも出る。本当のサウンドシステム文化だと、60とか50とか出ないといけない。そこを意識しているだけでも昔の世代と違うと思います。“演奏”だけではない、従来の日本のノイズとは違う視点が生まれている感じがして、興味深いですね」
黒電話 「あとはMURDER CHANNELに関わっている中で、2000年代半ば辺りにダブステップが出てきたのも大きかったかもしれない。ベースミュージックの影響はありますね」
西山 「ベースを出すためにキックもスネアもハットも音が高くなって、上をスカスカにして下を出すっていうダブステップの作りは分かり易いですね。ダブステップ以降、単純にみんなベースがデカくなった(笑)。フツーのUKインディとかでもベースがデカくなりましたからね」

――今回の作品も、構造としてはそうなっていますよね。
黒電話 「もっと上手く出したいですけどね」

――ノイズ的に語弊があるかもしれないですけど、こういう風に“綺麗に”ベースが出ている作品て、なかなかないと思うんです。
黒電話 「ハーシュノイズに括られるものの中ではあまりないかもしれないですね」

――ベースミュージックからノイズに寄せた作風へと進化したRoly Porterみたいな例もありますけど、そういう感じで捉えることもできる気がして。
西山 「EMPTYSETとかもそうですよね」

――そうそう。ダブステップ以降のフロアミュージックの流れから、エクスペリメンタルに移行していく人ってけっこういると思うんですけど。
黒電話 「その流れでいうと、“Back To Chill”には勝手に親近感をもっています。中心メンバーのGOTHさん(GOTH-TRAD)、100madoさんがノイズ演奏を経ていて、元々そうじゃなかったENAくんが近年エクスペリメンタルな方を向いているっていうのが」
西山 「Roly Porterとかは、爆音なんですけど、常にラウドネスがマックスというわけじゃないですよね。小さいところはすごく小さいし、ダイナミックレンジがものすごくあって……。ノイズだと、フィードバックの特性もあってそれは難しい。そういう意味では『Accumulation』はRoly Porterに近いところがあると思います。細かい構築がちゃんとあって、レンジが広い」
黒電話 「ハーシュはずっとブシャー!なのが長所であり短所」
西山 「『Accumulation』は細いところ、海苔じゃないところがちゃんとあって、メリハリが効いてる」
那倉 「押し引きなんだよね。これは僕の観る側としてのファンタジーかもしれないけど、ハーシュノイズって結局休符なんだよ。ゼロを作ってバーン!と鳴らすっていうのがハーシュノイズの一番のダイナミズムだから。そこがかっこいいかどうかっていう話。休符の取り方で好きな音楽がわかる奴もいる。黒電話は特にそう」
西山 「Roly PorterとかPaul JebanasamとかEMPTYSETとかって、すごくマッシヴな音なんですけど、とても西洋的なバックグラウンドを感じさせるマッシヴさですよね。ある種宗教的な要素もあって。黒電話の場合はもっと日本的というか、宗教的なバックグラウンドがないがゆえの振り切れ方みたいなのがあって、そこがおもしろい」

――ノイズ側からのアプローチで言えば、Russell Haswellの近作『As Sure As Night Follows Day』(2015)とかもある意味近い作品なのかもしれないですよね。隙間を作る構造って、インダストリアル / ボディが再興する下地を作った気もしているんです。PSYCHIC TVみたいにビートミュージックとノイズが並列で存在していた時代を再び掴み易くなったというか。
黒電話 「なるほど」
西山 「たしかに、BLACK RAINみたいにインダストリアルだけど低音を出してた人がリヴァイヴァルしてるよね」

――そのあたりの影響はなかったんですか?
黒電話 「PRODIGYとかDHR~ブレイクコアの影響のほうが大きいです。PAN SONICは好きでしたけど」

――DHR全盛期、NYのIndustrial Strength Recordsも元気でしたよね。DELTA 9はVinyl Communicationsからもリリースしていたから、そういう流れでのノイズもあったのかな?と思ったのですが。
黒電話 「ガバは全然通ってないんです」
西山 「速いのが好きっていうわけでもないんですね」
黒電話 「やっぱり跳ねたリズムが好きなんです。パーカッシヴな感じというか。かといってキラキラドラムンベースみたいに艶やかな感じは好きじゃなくて」
西山 「Hospital Records的なドラムンベース?」
黒電話 「そうですね。汚くて激しいのを求めてVENETIAN SNARESとかに流れました。ブレイクコアとノイズがぐしゃぐしゃになってる、スネアズとSPEEDRANCHの共作(『Making Orange Things』Planet Mu, 2001)があるんですけど、そういうのが好きで。だからビートを作るよりも、ぐしゃぐしゃにする方向に気持ちが向かっていきました」

――でも、この作品を聴いていると、ビートを作っていてもヘンじゃないと感じるんですけど……。
黒電話 「周りに優秀なビートメイカーがたくさんいるし、そこじゃない部分で勝負すべきだと思って。ノイズの中でビートを聴かせちゃうと“ノイズ的に負け”だな、というのはけっこう意識してます」
西山 「ビートは出せる音のレンジの中である程度音量を確保しないといけないし、それを邪魔しないようにノイズを出すとノイズが小さくなってしまう、ということ?」
黒電話 「ノイズではなくなってしまう。あくまでノイズ主体で考えて、ビートを使わずにグルーヴを出すことを考えてます。絶対にビートを入れないと決めているわけじゃないですけど、そこの判断センスはなかなか難しいところです」
那倉 「ENDONはいわゆるツインギターのバンドの楽器構成をシンセとハーシュで模倣しながらズラすというスタイルを今はとっているので曲としてのまとめ方がちょっと違いますけど、僕らの周りにはカットアップノイズの連続で曲を作っていく人たちが多いわけです。それを見ていて、長年やっていると“音楽的”なグルーヴが出てくる人が多いなあ、とは思いますね。最近soupで観た中で言うと、Kenny(Sanderson)がやってるFACIALMESSはやっぱりリズムがあるし、逆にSCUMくんなんかはわざとカットアップの連なりが音楽的にならないようにやってる。Kubotaくんは明らかに“これは音楽ですよ”ってわかるように後ろでホワ~ンて鳴ってる中でバコーン!バコーン!ってやるわけですよ。なんだかんだみんな音楽の範疇ですよね。うちを含めイカれた人間がそんなに多くないってことかもしれないですけど、長くやっていると“今は何をやりたいか”っていうコンセプトをはっきりと出してきますよね」
西山 「特にPAINJERKはそうですよね」
那倉 「うん。五味さんは文脈をかなり推してくるところがあるから、けっこう啓蒙的な側面があるんですよ。後輩としては(笑)。僕とか黒電話なんかは、そこを見てきたっていうのが大きい気がします。ノイズ、ノイズって言ってるけど、やっぱり僕らのノイズってもう、ハーシュノイズのことなんですよ。僕らとか黒電話、Kubotaくんは、それを扱って何をするかっていう中でやっぱがんばってきたわけで。速くてうるせーバンドが曲を作るように、“ノイズを1曲仕上げる”みたいな気持ちでやってるんだよね。メランコリックでマイブラとかLUSHが好きなKubotaくんがいて、ブレイクコアが好きな黒電話がいて、ロックとかメタル / ハードコアが好きだから、バンドをやるところに戻ってきた僕らがいて。黒電話はMIDIで躓いたって言ってたけど、僕は最初、バンドで躓いたんですよ。バンドをやることに躓いてノイズに行った。ノイズって、本当悪いことに、包容力があるんですよね」
黒電話 「ほんと子供でもできるからね」
那倉 「ある種の挫折、ブレイクスルーできなかったみたいな経験、まあある種の挫折をして、うるさくて包容力があるシェルター、もう胎内みたいな中に入って居直ってみると、勿論その中には幼児化した格好悪いことやってる奴らがいるって、わかるじゃないですか。“ダラしねーな、こいつら”みたいなのがいっぱいいるわけですよ。そこで“そうなくなりたくない!”ってなって、整理整頓して好みの構築手法を確立する時に、シェルターに逃げ込むきっかけになった挫折ポイント、それは固着しているポイントなんですけど、そこに回帰してゆく感じなんですよね。挫折のポイントをノイズの構築のためのスパイスとして……挫折してるからやっぱりルサンチマンと疎外感とで妄想的に“ブッ殺す!”、みたいな」
黒電話 「うん。ブッ殺そうって思ってる」
西山 「(笑)。ブッ殺すっていう気持ちひとつ取っても、単純に“殺すためにとにかくうるさくしよう”っていう人と、“殺すためにも、もうちょっと細かいところに気を配ってがんばらなくちゃね”っていう人といると思うんですけど、その差が大きくアウトプットにも顕れるんじゃないかと思いますね。ノイズって雑音だから、一般のリスナーにとっては気にもされ辛いところなのかもしれないけど、そういう中にあって、ENDONにしろ黒電話にしろ、はっきり目指してるところを感じさせるというか」

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