Kyoka

Kyoka

音を知れば、別の世界に行ける

 2012年にOlaf Bender(Byetone)、Carsten Nicolai(Alva Noto)、Frank Bretschneider(Komet)が主宰する独Raster-NotonよりEP『iSH』をリリースし、同レーベル初の女性クリエイターとして注目を浴びた鬼才・Kyokaが、約2年の時を経て初のフル・アルバム『IS (Is superpowered)』を引き続きR-Nよりリリース。経験・観測に基づく本来の意味でのシリアスなエクスペリメンタリズムと、相反する要素に思えるファニーな遊び心を持ち合わせた楽曲群は、幾重ものパラダイムシフトを繰り返して『iSH』以上に洗練と深みを増し、集大成と展望を同時に感じられる力作となっています。本作までに訪れた変化とこれからの旅路について、Kyokaさんにお話を伺いました。

取材・文 | 久保田千史 | 2014年3月
main photo | ©Ryo Mitamura 三田村 亮

――アルバムの制作はいつ頃からスタートしたのでしょうか。『iSH』からさらに進化したものに仕上がっていたので、『iSH』の頃から隠し持っていたのだとしたらズルいなあ、と思ったいたのですが(笑)。
 「曲のパーツ自体はたぶん、2010年頃からあったんですよ。生き残った音源を素材にして、仕上げた感じです。なんか自信がなくて隠してたんです。“これダメかな……”と思って(笑)」

――えっ……。むしろ『iSH』の時に出さなかったのは、もったいなく思ってしまいますよ。
 「そんなにですか?どのへんがですか?逆インタビューですね(笑)」

――まず奥行きが全然違いますよね。
 「たしかに、奥行きに関してははここ数年、がんばりました。ミックス的なところですね」

――5.1とかいけそうな立体感です。
 「えーっ(笑)。でも5.1はいつか手を出したいですね。“今さらか!”って言われそうだけど(笑)」

――今でも誰もが出しているものではないから、聴いてみたいです。Kyokaさんの5.1。がんばった点というのは、具体的にどのあたりなのでしょうか。
 「『iSH』の頃は、“おっ!”てなる音像がほっぺた横30cmあたりにぶんぶんくるので精一杯だったんですよ。今回はもうちょっと、“前の上”とか“少し背後寄り”っていうのが出来るようになりました」

――それは技術的に進歩したということ?
 「はい。でも数字で計算したわけじゃなくて、よくわからないけど“ここをこうすると、こうなるようだ”っていう日々の探索で知ったことなんです」

――なるほど。それから、ハイの音が丸く、マイルドに入ってくるようになりましたよね。
 「そうですね。わたし元々高音がそんなに好きじゃなくて、大好きな低音を多用して作っていたんですけど、iTunes Storeで全然売れない曲ばかりになっていることに気づいて。“試聴できないし!”みたいな(笑)。高音を入れればiTunesでほかの人くらいに聴こえるっていうのはわかったものの、その作業が嫌で嫌で。でも、誰かが“低音を引き立てるための高音”ていうことを言っているのを聞いて、“それなら高音使える!”と思って。低音を引き立てることを理由に高音を使うようになったんです。『ufunfunfufu』シリーズ(onpa))))))の流れで、アドレナリンをかきたてる目的でキュイーンっていう中高音は少し前まで使っていたんですけど、今は完全に“低音を引き立てる高音”に徹するだけの気持ちの余裕が出来てますね」

――それって気持ちの余裕の問題なんですか(笑)?
 「はい。大人になったんです(笑)。色々やってみて、とりあえず今は“マイルドな高音”というところに落ち着いてみました。耳を傷めないで、頭上を掠るくらいの。わたしの音に限らず、そういう音が良いんですよね」

――日本の所謂エレクトロニック・ミュージックって、わりと強めのハイで耳に刺してくるものが多いですよね。Kyokaさんがそうなっていないのは、海外での活動の長さが影響しているのかな、と思ったのですが。
 「日本のエレクトロニカ的なものがハイ強めだということは、ベルリンに引っ越す前から気づいていて。そもそも、そこだったんですよ。外国に引っ越した理由っていうのは(笑)。わたしがハイを出すようになるか、引っ越すか……悩んで」

――重症ですね……。
 「これは真面目な話なんですよ。みんなハイが出てるし、日本で暮らして友達を作るにはハイを出さないといけないんじゃないかって思ってたんです。1st EPに入ってる曲の何曲かは友達が欲しくてハイを強めに作った音源なんですけど、今聴くと“もっと上手くやれただろう”って感じますね。そういうすべての体験が、今回のハイに込められてるんですよ」

――そこだけ考えても集大成的な作品なんですね……。
 「そうですね、今のところ(笑)」

――僕は外国と日本で現場のサウンドシステムが違うことが影響しているのかな?と想像していたのですが、実際はどうでしょう。違いを感じることはありますか?
 「たぶん、サウンドシステム自体は一緒なんですよ。PAさんの傾向とハコの傾向がもしかしたら、ちょっと違うかもしれない。外国のPAさんは直感でワイルドにドスン!ていう音を出すことが多い気がするんですよね。日本はもうちょっと知的に、美しくこなしますよね。“違うな”とは思いますけど、どちらもイイ感じですよ」

Kyoka
photo ©Ryo Mitamura 三田村 亮

――Kyokaさんはどちらかというと海外でのライヴが多いわけですが、今回のアルバムではその、ワイルドな部分が強まっているように感じたんです。低音の使い方が明確にフィジカルなものになっていて。
 「たしかに。自分の音も含め、どの種類の、どの周波数の低音が現場で聴くと気持ち良い感じになるか、っていうのは、ライヴを通じて勉強しました。前は、イイ感じか、イイ感じじゃないか、っていうのを考えずに、色んな周波数や波形を入れていたんですけど、おかげで的を射るようになってきて。理想が形作られてきているような気がしています。まだ勉強中ですけど」

――『iSH』の時よりも、ファットで、タフな感じになりましたよね。
 「“どうやったらファットな低音になるのかな?”っていうのを試行錯誤して、すごく悩みながら低音を入れてました」

――ファット過ぎると、これまでのKyokaさんが持っていたキッチュな部分が薄れてしまうような気もするのですが、そんなことなかったですね。
 「そうなんですよね、意外とそうでもなかったですよね。わたしとしては正直“薄れてもいいかな”っていう気持ちがあったんです。最近“Raster-Notonで女の子1人”って言われることが多いから、キッチィじゃなくても良いのかなって。でも薄れないんですよ。“しぶといなあ”と思ってます(笑)」

――消してしまいたい、ということではないんですよね。
 「うん、そこまで憎んではいないです(笑)。無理矢理消そうともしてないけど、消えないから。自分で思ってる以上に根強い何かがあるらしい」

――(笑)。それって何なんでしょうね。
 「何なんでしょうねえ(笑)」

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