黒電話666

黒電話666

――そうですね、僕らはmegoからMerzbowが出ていた世代ですもんね。
西山 「Warpも『Satanstornade』(秋田昌美 + Russell Haswell)を出してましたよね」
黒電話 「ラップトップ期のMerzbowめちゃくちゃかっこいいですよね。これは勝てねーなと思いました。あれくらい研ぎ澄まされた表現がしたいですね」

――そうそう!あの頃って、秋田さんが“音としてのノイズ”にフォーカスした時代だったと考えているんですけど、当時オールドスクールなジャパノイズが好きな人からしたら、たぶん“なんじゃこりゃ?”っていう感覚だったじゃないですか。僕らはそれを良いと思えるという。ビートが効いた『Merzbeat』も出していたり。
那倉 「Ant-Zenからも出してましたもんね」

――うん。『Accumulation』にも、それと近い感覚を覚えて。同じ頃に秋田さん、ダブのアルバムも出してますよね。
西山 「『Merzdub』!黒電話がやっている“moshimoshi”名義でのダブDJは、速いDHRとかブレイクコアの反動としてのダブなんですか?」
黒電話 「反動というか、ノイズじゃない派生した趣向ですかね。Alec Empireが昔ジャングルを作っていて、その中にはアーメンがあってノイズがあってラガがある。ラガってレゲエから来てるじゃないですか。あと、その時期ってドラヘビとかAUDIO ACTIVEが流行ってて……そういうカルチャーに触れたからっていうのもありますね」
西山 「THE CLASHを聴いてるうちにレゲエが好きになるのと似た感じということ?」
黒電話 「それです」
西山 「レゲエのサウンドシステム・カルチャーに触れたのは?」
黒電話 「昔の新宿リキッド(LIQUIDROOM / 現東京・恵比寿)で初めてJah Shakaを観た時ですね。ハーシュやメタルでなくとも、音がデカくて足から頭までビリビリくるうるさい音楽があるんだと思って。でも自分のノイズとのリンクには、そんなに意識的ではないです」
西山 「じゃあ黒電話666とmoshimoshiは別物なんですね」
黒電話 「別物です。DJは遊びなんで、レゲエじゃないことをやるかもしれないし。今はレゲエが好きだから、という感じですね」

――そうやって長年の蓄積と紆余曲折を経てこの作品に辿り着いたわけですけど、そんな集大成的な作品だけに、正直、もっとたくさん曲が入るのかと思ってました(笑)。
西山 「曲が少ないことについては、そもそも構想段階でCDフォーマットを考えてなかったからなんですよね?」
黒電話 「そうです」
平野 「色々話し合って、最初は多少カルトなアプローチにしてみようかな、と思ってテープを選んだんですよ。テープ用に一度マスタリングもしてもらったんですけど……よくよく話し合ってみたら、お互い本当はCDのほうが良いって思ってたんだよね」
黒電話 「意思の疎通が取れてなかった」
一同 「(笑)」
平野 「この作品を出したかったのは、AmazonなりCDショップなりでライトユーザーでも欲しいと思った時に買える状態になっている黒電話の音源が1枚もないっていうのが、歯痒かったからなんですよ。ENDONと一緒にEUツアーに行ったでしょ?あの時、せっかく向こうでライヴやるのに、そこで観た人が買える盤がないのは良くないな、って思ったことも大きかった。本当はそのツアーに合わせて音源を出す計画もあったんですけど……」
黒電話 「全然動かなかった」
平野 「今回出すにあたって、色んな人に聴いてもらいたいならCDのほうが全然訴求力が高いということで」
那倉 「でもCDっていうフォーマットは、ハーシュノイズのアーティストとしては珍しいっちゃ珍しいスタンスだよね。もともとは新規開拓でみんなに聴いてもらいたくて作る人たちって少ないじゃない?ノイズは」
平野 「拡大目的でCD、ってパターンは少ないかもね」
那倉 「どちらかといえば何がイケてるかをスケールにする人のほうが多いから、今テープが流行ってるっていうのもあるしさ。そこで黒電話並びに[…]dotsmark、僕もそうだけど、CDで出す。それは僕らの欲望の形だよね。活動のね。CDなんだよ。日本でみんなにノイズを聴いてもらおうって思ったら、やっぱりCDで出すんだよね」
平野 「所謂“ノイズだったらカセット、ヴァイナル、特殊ジャケで限定版だろ”っていうのとは違う」
西山 「ナンバリング入りのCD-Rとか」
平野 「そうそう(笑)。そういうのじゃなくて、他のジャンルと同じように、ジュエルケースに入ったCDがキャラメル包装されてタワレコに置いてある、っていうのが今回重要で。所謂ノイズの人以外にも聴いてもらいたいし、聴いて良いと思ってもらえるような音楽のはずだっていう確信があったから」
那倉 「ある側面から言うと、そういう商魂じみたもので実はコンテンツを平板化させて”ノイズ”をつまらなくしようとしてるのは僕たちかもしれないよね、超どーでもいいけど。みんなM.A.S.F.のSCM振ればいいんだよ(笑)」

――(笑)。Kyokaさん、ENAさんをリミキサー陣に選んだのも、ある種ポピュラリティに関連した意味で?
黒電話 「そこは音楽とセンスが好きだからというシンプルな理由です。ここ数年のかっこいいものを切り取った感じにしたくて。冴えたものを作っている人たちにお願いした感じです」
西山 「ジャンルは違えど、黒電話が思い描く音たるものを形にしている人たちという感じ?」
黒電話 「そうですね。頼れる人たち」

――結果的に、レーベルとしても過去最もキャッチーな作品だと思います。アートワークもかわいいし。
平野 「そうですね。ノイズだけど、すごくキャッチー」

――所謂大多数に聴かれる音楽って、何らかのエモーションに左右されるものが多いと思うんですけど、その点はどうお考えですか?
西山 「ポピュラリティのエモーションって、要は記憶に結びついてるということですよね。“あの時好きだったあの子と聴いたあの曲”だとか。そのレベルの強度という話だとすると、ノイズはもちろん、ポピュラー・ミュージックから外れた音楽にとって、エモーションはほとんど何の実体も伴わないと思います」

――さきほど“殺す”というお話がありましたけど、そういう部分て、一般的に“感情表現”という論評で語られがちな部分ですよね?
黒電話 「そこはある意味エモーショナルな部分ではありますけどね」
那倉 「でも“殺す”っていうのは単純に“勝つ”っていうことだからね。そこに哀しみとかそういうのを乗せようと思ってるわけじゃないし。僕は究極的にはやっぱりノイズは感情や意味というより運動の美学であって欲しいと思ってる節がある」
西山 「エモーションという言葉と絡めると、つまりENDONも黒電話666も、一体感に甘えてはいないっていうことなんじゃないですかね。音楽って、ある種みんなで一体になれる装置として機能する側面があって、そこには共有なりエモーションという言葉が似合う効果がたしかにある。共感を得やすいものって記号論で、それはポピュラーミュージックの枠組みの中だけでなく、“ノイズ”なり“ハードコア”なり“メタル”なりの狭い枠組みの中でもそう。でも黒電話たちは全く記号になっていない。そこが良いんですよ」
那倉 「だから僕らは売れないんだよね。マスが消費するのは記号だからね」
西山 「でも、そんなの最初からわかってやってるわけで(笑)」
那倉 「大衆の快楽の方向に行きたいっていうのはあるんだけど、やっぱりみんなが消費しているのは記号なんだ……って思うんですよね(笑)」
西山 「黒電話たちがやっていることは、一般のリスナーにとってなんらかのエモーショナルな実体験の強度を伴わせるものではないのかもしれないけど、かといって何も伝わるものがないというわけではない。むしろ一般のリスナーにとって伝わり難いと思われがちなノイズという音の断片のなかに、何かを感じさせてくれるのでは……そう思わせてくれるのが黒電話666なんじゃないでしょうか」
黒電話 「それが一番のエモーションかもしれないですね……」

黒電話666 official site | http://www.geocities.jp/made_in_nakano/
ENDON official site | http://endon.figity.com/
soup | http://ochiaisoup.com/
[…]dotsmark | http://www.dotsmark.com/
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