蓮沼執太 / 蓮沼執太フィル

蓮沼執太 / photo ©Takehiro Goto 後藤武浩

一種の“世界への抵抗”

 全編に亘って自身によるヴォーカルを配し、“声”にフォーカスした2016年の『メロディーズ』で新境地を見せた蓮沼執太が、U-zhaanと組んだ『2 Tone』や映画『マンガをはみだした男 赤塚不二夫』のオリジナル・サウンドトラック、水原希子出演「Panasonic Beauty」のCMソングに起用された楽曲「the unseen」を含む大ヴォリュームの未発表音源集『windandwindows』を挟み、2014年の『時が奏でる』以来約4年ぶりに“蓮沼執太フィル”名義での新作『Anthropocene(アントロポセン)』をリリース。蓮沼以下、石塚周太(detune., アルプ)、イトケン(やくしまるえつこ と d.v.d, yojikとwanda ほか)、大谷能生(JAZZ DOMMUNISTERS)、葛西敏彦(高木正勝, 大友良英 ほか)、木下美紗都(アルプ)、K-Ta(SUGIZO & THE SPANK YOUR JUICE)、小林うてな、ゴンドウトモヒコ(METAFIVE)、斉藤亮輔、Jimanica、環ROY、千葉広樹(サンガツ, 湯川潮音, mmm ほか)、手島絵里子、宮地夏海(ももいろクローバーZ, たんきゅんデモクラシー ほか)、三浦千明(ワールドスタンダード, トクマルシューゴ, yankanoi ほか)という、一見バラバラなようでいて、実際バラバラなフィールドから集った面々と作り上げる音楽は、前作以上の強度を以って迫ります。近年はオーディションで募った不特定の演奏家も加えるプロジェクト“フルフィル”も始動させ、単一の思考では計れない音楽へと果敢に挑む音楽家に、そこに至る経緯や意味について伺いました。

取材・文 | 久保田千史 | 2018年7月
main photo | ©Takehiro Goto 後藤武浩

――大学で環境学を学ばれていたという経歴が気になっているんですけど、具体的にどんな内容だったんですか?
 「最初に言っておくと、真面目な生徒ではなかったんですよ(笑)。論文書いたり、授業もしっかり出席するような学生ではなくて(笑)。もちろん興味があることに関しては、本を読んだり、実際にリサーチなどもしていたんですけど、熱心に勉強していたというよりは、ひたすらインプットする感じでした。僕9月11日生まれなんですけど、ちょうど高校3年生の時の誕生日にNYのテロがあって。高校生の時って、政治や社会の仕組みに興味を持ち始めたりはすると思うんですけど、自分が物心ついてからテロのように大きな出来事はなかったんですね。そこから、なんでこんなことが起こっちゃったんだ、なんで世界はこうなってるのか、っていうのを調べ出したのが始まりでもあります。そういった関心から、環境問題と欧米の中東問題にも繋がってきます」

――“戦争経済”みたいな話ですね。
 「まあ、そうですね。環境学と言っても、僕の専攻していたのは経済学の中での環境学なので、地球温暖化やリサイクルなどの環境問題を考えていくものなんです。最初はマルクス(Karl Heinrich Marx)から入っていったんですけど、数学的な側面より思想的な側面に興味があったんですね。環境経済学は、経済も環境の変化をリスクヘッジしつつ、経済を成立させようという論説が当時のトレンドだったんです。営利企業にとってのムダな要素、なんでこんなことしなきゃいけないの?みたいな余剰がないとダメだよね、っていうのが叫ばれ始めた時期で。今考えると、企業がアートに対して行っているメセナ事業とも考え方は近しいのかな、とも思ってます。現在はもっと進んでいるんだと思いますよ。そこに流れるように辿り着いた感じです」

――そこでの経験は音楽活動に繋がってゆくんですか?
 「フィールドレコーダーとかカメラとか色々持って、フィールドワークしに行くんですよ。別に自然音の採取のために森の中へ行くわけじゃなくて、都市だったり、特定の場所に行って変化を調べるという、観察に近いです。それがきっかけですね。Chris Watson(CABARET VOLTAIRE, THE HAFLER TRIO)のようなフィールドレコーディングの作品が好きだったから、録音したものを音響的に解釈すると作品になる、っていうことは、なんとなく頭ではわかっていたんですよ。なので、そういった自然音というのも、人間が捉えることで音楽になるんだなぁ、って思っちゃってました」

――僕らの世代はわりと自然にそうなりがちですよね。
 「うん。そもそも、(Raymond)Murray Schafer的な“サウンドスケープ”の考え方に興味があったので、そういう側面でもたぶん、フィールドワークすること自体に興味を持っていました。でも、バンドを組んだり、音を作ったりはしていなくて。レコード屋さんでアルバイトしてたくらいなんで、単純に自分が知らない音楽に興味があったのは間違いないですね」

――フィールドレコーディングの古典みたいな作品て、音楽というよりも美術、学術の側面で制作されたり、紹介されたりするものも多いじゃないですか。蓮沼さんは最初から“音楽”として接していたということですね。
 「そうですね。当時の僕の耳の認識では、“音楽”というより“音響”に近いですかね。今の思考で考えると、レコーディングされた音自体はもう音楽だと認識しています。もちろん、所謂ポップスのような音楽とは違いますけどね」

――そういう、音響作品と平行して聴いていたような音楽はありますか?
 「う~ん、インディペンデントな音楽とか、ブラックミュージックがすごく好きでした。その時々の新譜も。新譜チェックは今でも続いてますし」

――当時のブラックミュージックっていうとなんでしょ。COMPANY FLOWとか?
 「COMPANY FLOWもそうですけど、もうちょっと後の、西海岸のインディ・ヒップホップとかですかね。Anticonも流行ってましたし。でも、ブラック・ミュージックに限らず一通りは聴いてました。USインディみたいなロックも。そういうのって、ルーツを掘ってゆくとだいたいソウルミュージックまたはハードコアパンクになるじゃないですか。さらに掘ると急にノイズとか現代音楽に繋がったりして。その辺りの音楽を少しずつ深めていった感じです」

――例えばフィールドレコーディング作品が好きになるきっかけって、ロックバンド作品のイントロで使われてたとか、音が似てた、とかだったりしますよね。
 「そうですよね。石橋英子さんの新譜(『The Dream My Bones Dream』2018, felicity)で、踏切と電車の音から始まる曲があって、その音がすごく綺麗に録れている上に、音楽的にも素晴らしかったです。所謂フィールドレコーディングから曲に入っていくんですね。よく聴いてます」

――あっ、やっぱり“綺麗に録れている”とか、好きなポイントとしてあるんですか。
 「それも当然あります。ちょっと話が飛んじゃうんですけど、ブルックリンにUnionDocsっていうドキュメンタリーフィルムのインスティテュートがあって、去年そこの”Sound Ethnographies”というタイトルのワークショップに参加したんですよ。 “音の民俗学”みたいな内容で、フィールドレコーディングを扱うのが多かったんですけど、“最近のトレンドはナラティヴなんだ”って言うんですね(笑)」

――ああ、フィールドレコーディングのトレンドとして。
 「そう。ひとつの世界でもトレンドがあるんですよね。音の良さとか、響きやドキュメントの要素だけではなく、フィールドレコーディングの音として“どう物語を作るか”というアプローチも多く採られているんですね」

――たしかに、フィールドレコーディングに限らず、昨今はより分かり易さが好まれているようには感じます。“難解なの聴いてるほうがかっこいい”みたいな時代もあったと思うんですけど(笑)。
 「そうですね。僕はChris Watsonとかはポップな音楽のように聴いちゃってましたけど(笑)。実際に音の広がりも気持ちよくて、聴き易いですよね」

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