蓮沼執太 / 蓮沼執太フィル

蓮沼執太 / photo ©Takehiro Goto 後藤武浩

――ポップの捉え方も日々変化しますしね。
 「そうですよね、それは更新されてゆくと思います。おもしろいですよね。それこそ(筆者が着ているTシャツを指して)ONEOHTRIX POINT NEVERですら、最新鋭のポップって言われるんですから」

――Daniel Lopatinはそういう変化に対してかなり意識的な感じがします。ただ、No FunとかMegoの頃を考えると、今の人気ぶりはすごいですよね(笑)。
 「本当ですよ。まさかあんなになるとは思ってなかったです(笑)」

――でもまあ、我々はノイズ、即興からアンビエントまで、だいたいポップとして捉えられる時代に生きたわけじゃないですか。だから、今回のポップなアルバムに収録されている「off-site」という曲は、あのOff Siteのことを指しているのではないかと思っちゃって(笑)。
 「あのOff Siteって、Optrumとかで活躍されてる伊東(篤宏)さんのOff Site(東京・代々木 / 2005年閉店)ですか。もちろんオンタイムで行ったことはあって、パフォーマンスも観ていました。この曲も変わった曲ですけど、伊東さんの活動のことを考えて作った曲ではないです。ラップしているのは環(ROY)さんなんですけど、リリックのコンセプトを僕が書いて、環さんがリライトしてラップをしています。去年NYにいる間、ずっとノートに散文を書き溜めていたんですね。僕自身が移民として生活する中で、毎日のように移民問題がニュースになることだったり、生活の中で感じたことを記した散文だったんですけど、そういうものを環さんに渡して出来たのが“off-Site”なんです。素晴らしいリリックだな、って思ってます」

――なるほど。でも、伊東さんのOff Siteも産業としての音楽からしたら、ある種イミグラントみたいな立場だし、リンクしてるんだな~って今、勝手に思っちゃいました(笑)。
 「あぁ!言われてみると、たしかにそうですね。新しい視点ですね」

――OPNもそうですけど、蓮沼さんみたいにそういうアウトサイドなシーンを経験された方が今、おじいちゃんおばあちゃんも聴けるであろうポップミュージックを作っているというのは、どういうことなんでしょうね。
 「どういうことなんでしょうね……。フィルに関して言えば、僕のエゴというよりも、メンバー全員が自由に存在できるためにはどういう音楽が良いか、みたいなことをずっと考えて作っているんですよ。僕が作曲するから、当然僕の音楽として存在するんですけど、あれを弾きなさい、これを弾きなさい、って僕の意思に絶対的に従えるような仕組みではないです。譜面や演奏のインストラクションというルールを渡した上で、どうやったらのびのびと存在して、活き活きと生きられるか、みたいなことを考えてやっています。おじいちゃんみたいな言い方しちゃいましたけど(笑)。集団で音楽をやるための“考え方”ですね。それがメンバー全員に対してできているかは僕もまだわかりませんが、メンバーが共有する僕の考え方は繋がってはいると思います。ただ僕は飽き性で、我慢もあまりできないし、頑固者タイプなので、生楽器のフィルばかりで活動していると、シンセサイザーで音を作りたいなあ、とか、環境音を録りに行ったりしたいなぁ、とか思ったりもしますね(笑)。どうしようもないですね」

――あっ、でも「4O」には808が入ってますよね。あれはデトロイトテクノをイメージしているのか、フットワークをイメージしてるのか……(笑)。
 「あはは(笑)。今回のアルバムのインタビューで初めて”フットワーク”という言葉が出ました!結果そうなってる感じで、どちらも意識してないです。ただこの曲は音楽的にチャレンジした曲で、フィルで初めてシンセサイザーとリズムマシンを導入した曲なんですよ。ツインドラムのリズム隊にRoland TR-808が入って3つのリズムが絡まることで、複雑なリズムを組んでいる曲ですね」

蓮沼執太 / photo ©<a href="http://takehirogoto.com/" target="_blank" rel="noopener"><span style="color: #ffffff;">Takehiro Goto 後藤武浩</span></a>
photo ©Takehiro Goto 後藤武浩

――多角的な発想を並列に持った上で、それらとは全く異なる作曲をする人って、なかなかいない気がします。
 「そうですかね?ジャズのコレクティヴだったり、90年代のシカゴ周りのポストロックやハードコアのシーンには存在していた印象ありますけどね。消費される音楽や、経済のためではない音楽を続けてきている結果ですね(笑)」

――でも、フィルだとメンバーたくさんいるから、みんなにギャラも払わなきゃいけないし……。
 「メンバーで等分をする明瞭精算です(笑)」

――それに、“音楽の売り方”にも拘りを持っているように感じます。フィルは“集合知”のイメージでやっていらっしゃるそうですが、集合知を謳うタイプの人って、音源や素材をフリーでアウトプットしたり、MVをがんがん作ってアルバム全曲聴けるようにしちゃったりするケースが多い気がするんですよ。でも蓮沼さんは、パッケージを売ることに注力していらっしゃいますよね。
 「注力しています」

――どうしてなんでしょう。
 「う~ん、僕はレコードやCDに触れ合って育ってきたから、まず前提としてそういう意思があります」

――それは分かり易いです。
 「うん。かといってSpotifyとかApple Musicみたいなものを否定しているわけでもなくて。普段も新しい音楽を聴いたりします。聴きたい曲が入ってないと嫌だなあ、なんて思う時もありますから。それこそヒップホップの新譜とか入ってないと、えっ?なんで入ってないの!て思っちゃう。だから、サブスクリプションはやらないでCDを届けたい、みたいな話ではないんですよ。ただ、これは音楽パッケージを届ける流通の話でもあって、経済の話にも繋がります。マーケットの場所や環境だったり、流通される音楽のジャンルにもよりますよね。そういうことを細かく考えていくことも大切ですが、そこまでストラテジーを立てて進めるわけではないです。本当に色んな人に聴いてもらいたいと思うならサブスクリプションでの配信も進めるべきだし、日本の場合はCDを所有したい人も多いし、面白い環境ですよね。なので、僕はできる限りのことを丁寧にやって、届けられる人に届けていきたい、と考えてます。だからこそパッケージにも拘るというか」

――それって、アルバムデビューの当初からそういう気持ちですか。
 「そうですね。2006年はまだ、配信メインではなかったですけどね。iTunesはギリギリあったかな?新しいメディアやプラットフォームに対して僕は懐疑的ではないので、まずは自分でも試してみたいと思ってます」

――録音物を複数のメディアで不特定多数に届けるにあたって、理想とするリスニング環境とかってありますか?
 「う~ん、これは意見が色々あると思うんですけど、僕はなんでもいいんじゃないかなぁ、って思ってます。でも、悪い音環境でもいいよ、っていう意味ではないです。理想的には、僕はハイレゾリューションで聴くのが好みです。蓮沼フィルの生楽器の構成は、ハイレゾリューションと相性が良いんですよ。自分の楽曲以外でも、ヴァイナルで聴くことも当然あるんですけど、ヴァイナルだって、カートリッジやアンプなどが変わるだけで全然音が変わってしまいます。電源を変えるだけでも変化するし、時間帯によっても音が変化します。聴く人のコンディションだって異なるから、同じ音環境は存在しないんですよね。なので、リスニング環境は各々が良いと思ったもの、自由でいいと思うんです。生活していて小さいラジオデッキから流れてくる感じもその人の音楽環境ですし、スマートフォンでBluetoothのイヤフォンを使って外を歩きながら音楽を聴くのも良いです。どう思います?」

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