どんどん面倒臭い人間になっている
取材・文・撮影 | 久保田千史 | 2017年4月
――今回のリリースにあたって改めて「Good bye, Good girl.」を聴きなおしたんですけど、なんだか色んな気持ちになりますね。リリース当時の空気感も蘇ってきて……。
「そういうのありますよね。わたしも普段、音楽聴くと、聴いてた当時のことを思い出したりします」
――2年の間に色々変わりました。Especiaだって解散しちゃったし……。
「それ、本当そう。みんなかなり状況が変わってて。けっこう変わりますよね、2年で。全然違う」
――テンコさん自身は、どんなことが一番変わりましたか?
「日々変わっていくし、けっこう何もかもが違うと思う。一番違うのは、何だろう……“Good bye, Good girl.”を出した頃は、前にやっていたアイドルの感じがまだあったけど、今は自分が“こうやっていきたい”っていうのが出来上がってきたのがデカいかな。思い返すとけっこう感慨深い」
――Twitterのプロフィールから“ex-BiS”の表記がなくなったのっていつ頃だったんですか?
「いつだっけ……。あ、節目節目で出させていただいてるDOMMUNEで“テンテンコ五時間”をやった時ですね。“もうBiSって付けなくていいんじゃない?”っていうコメントがけっこう目に入って。正にBiSとは関係なく呼んでいただいた場でもあったし、色んな人が見てくれてるのが分かって、たしかに……と思って取りました」
――2年で今みたいな状態を確立出来るのって、早くないですか?
「どうなんですかね?やるしかない!みたいに思って、出来ないのにやってたから、スピード感はあったかもしれないです。“これが出来るようになってから見せよう”とかじゃなかったんで。それってやっぱり、追い込まれる」
――追い込まれますね(笑)。
「そう。来週ライヴだわ!みたいな状況がこの2年間、ずっとあって」
――でも、好きなことを突き詰めている感じですよね。それでちゃんと支持を得ているのはやっぱりすごいですよ。
「頑固なだけっていうのもあるんですけど(笑)」
――ライヴを観ていても、どんどんかっこよくなっていますよね。毎月のCD-Rシリーズもおもしろいし。
「CD-Rはけっこうデカいかもしれないですね。毎月出すのはけっこうキツいんですけど(笑)、自分のためだと思って続けてて」
――追い込むために。
「そうですね。形にしなきゃいけない!っていうのが毎月あるから。自分が好きな音楽や人について考えるきっかけにもなっているんですよ。“こういう人いいな”って探したり、“こういう音楽もやってみたいな”って思ったり。CD-Rはそういう時間になってます」
――でもテンコさん、元々色んな音楽お好きですよね。
「かなり偏ってますけどね(笑)。わたしが好きなものは、めちゃくちゃ分かり易いんですよ。電子音で、ちょっとローファイ?だったり、ちょっと悪い音が入ってたり。電子音で“ミョンミョン”してる感じ?“ポンポ~ン”とか入ってたり。テクノ歌謡とか、昭和のアニソンみたいなのが好き」
――じゃあ堀ちえみさんの「Wa・ショイ!」も自然な感じで。
「そうです。すごく好きな曲だったんで。でも実はわたし、最初に好きになった時はムーンライダーズの方が作った曲(作詞 鈴木博文 / 作曲 白井良明)だって知らなかったんです。変わった曲だけど、すっごく可愛くて、良いな!と思ってて。カヴァー曲を歌う機会があったらこれだな!ってずっと考えてたんですよ。堀ちえみさんの人物にも興味があります。たぶん酸いも甘いも知っていて、すごく強い女性だと思うんですよね。そういう強さに憧れがあるし、わたしに足りない、広い心も持ってそう」
――僕から見たら、テンコさんも心広いと思いますよ。
「いやあ~、一方では広いかもしれないけど、一方ではめっちゃ狭いと思いますよ(笑)」
――あはは(笑)。「Wa・ショイ!」は、さっきおっしゃっていたテンコさんの好みに正に合致する楽曲です。当時のエレクトロニックなポップスって、機材も、その使用法も過渡期だったからか、独特のエラー感がありますよね。そういう感じがやっぱり好きなんでしょうか。
「そうですね。どんなことでも、“何かを始める瞬間”がすごくおもしろくて。例えばシンセサイザーが出てきた時だって、その新しい感じでみんなわくわくして作ったんだと思うんですよ。当時の音楽からは、そういうのがすごく伝わってくるんですよ。試行錯誤があって、言っちゃえば洗練されていないのかもしれないですけど、それが好きで。楽しんで作ってるのが分かる」
――テンコさんのCD-Rシリーズにも、その雰囲気がありますよね。当時の感覚、実験の楽しみを、身をもって体験したいという願望にも思えます。
「うんうん、そうですね。BiSが終わってゼロからのスタートだったこともあって、常に何か新しいものを触っている感覚がいまだにあるし、ずっと続けられたらいいな、と思ってるんですよ。この先何10年も。観る側としても、そういう人が好きで。50代とかになっても、何か新しいことをやっているような」
――Phewさんとかね。
「そうそう、Phewさんは正にそうですよね。最近ライヴを観た中ではStefan Schneiderさんとか。めちゃくちゃキャリア長いのに、常に新しいことをやってる感じ。周りにもそういう人が多くて、憧れますね」
――たしかに、この2年間でテンコさんが共演してきた皆さんは、常に新しいことをやっていますよね。日野さん(日野浩志郎 aka YPY | goat)にしろ、Kyokaさんにしろ、秋田さん(秋田昌美 / Merzbow)にしろ。
「そうなんですよ。他にも一緒にやってみたい人たくさんいるし。でもそういう出会いは自然の流れに任せてて。いつか会えればいいな、みたいな感じなんですよ。だから、めっちゃ良くないんですけど、挨拶が苦手(笑)。でも、会うきっかけみたいなのを大事にしたくて。これまでに会った人はみんな、会えればなあ……と思ってたら自然に会ってた、みたいな人たちだから」
――先日の、鎮座DOPENESSさんとのライヴも楽しかったですね。
「あれ楽しかったですよね!だからやっぱり、周りの人に助けられているんだと思うんですよ。美川さん(T. Mikawa | INCAPACITANTS)もだし、伊東さん(伊東篤宏 | Optrum)も、鎮座DOPENESSさんもそうなんですけど、経験を積んできている人たちだから、わたしが出すものに対して、その場での判断力がすごいんですよ。それでめちゃくちゃ勉強になる。学ぶことがたくさんあって。そのお陰で、この2年で変われたのかもしれない。周りの人が良かった」
――それもあるでしょうけど、やっぱり努力もあるじゃないですか。MikaTenだって、1stの頃はまだ“BiS階段の流れでしょ?”って思う人も多かったと思うんですよ。でも2ndでは対等にやっている感じがちゃんと伝わってきますもんね。
「そうですね。MikaTenは最初、イベントの中での企画だったから、わたしも美川さんも“じゃあユニット組みますか!”みたいな感じではなかったんですよ。それがどんどんこうなっていって。それもやっぱり自然な流れで」
――それは、テンコさんのスキルが上がっているということですよね。
「だったら良いんですけどね(笑)。でも美川さんも楽しんでやってるくれてるのが分かるんですよ。それがすごく嬉しくて。わたしも楽しいし。独りでやるのと全然違って、やっぱり安心感があるんですよ。その中で好きにやらせてくれる感じもあって。毎回すごく良い時間ですね」
――信頼感ですね。その点で言えば、『工業製品』に収録されているJINTANAさんの「次郎」も信頼に基づいた作品だと感じました。あの曲は、JINTANAさんが何年も暖めていた曲だそうじゃないですか。
「あはは(笑)。“次郎”ヤバいですよね」
――JINTANAさんとはどういう流れでお会いしたんですか?
「JINTANA & EMERALDSが大好きなのもあるんですけど、元々ちょっとだけ知り合いだったんですよ。JINTANAさんて、元々円盤(東京・高円寺)とかに出ていた人で」
――ParCodaNの頃ですよね。
「そうそう。ParCodaNでヴォーカルをやっていた方は札幌にいるんですけど、JINTANAさんもその方も、わたしが通っていたレコード屋さんのお客さんだったこともあって。でもわたし、最初それとJINTANA & EMERALDSが繋がってなかったんですよ。知らずにJINTANA & EMERALDSめちゃくちゃ良いな~!って思ってて」
――実は身近にいたんですね(笑)。
「そうなんです。ライヴ観に行ってめっちゃ感動して、いつか企画に呼んだり、一緒にやれたらいいな、と思っていたんですけど、それが『工業製品』で実現することになって」
――なんだかすごい紆余曲折ですね(笑)。
「しかも、実は“次郎”って元々ParCodaNの曲なんですよ」
――えっ!そうなんですか?原曲を聴くことは出来るのでしょうか。
「『FRESH ParCodaN』ていうアルバムに入ってます。でも、すごいカオスなところに一部、歌もなく一瞬だけ入ってる感じなので、聴いてもわからないかも」
――それは重大な事実じゃないですか(笑)。
「さらに、たぶん知ってる人だけが知っていることで、言っていいのかどうか分からないんですけど……実は別の歌詞で歌が入ってるヴァージョンもあるんですよ。しかも函館のCMで使われていたことがあって。ParCodaNてみんな函館なんですけど」
――えっ!まじですか。
「函館観光のCMのコンテストに応募した曲で、イカについて歌ってるんですよ」
――イカ……次郎と全然違いますね(笑)。
「でもイカってちょっと演歌っぽくないですか(笑)?演歌の感じで、“函館良いよ”とか“イカだよ”みたいな歌ですね」
――それがコンテストで入賞したわけですか。
「入賞して、深夜にちょっと流れたらしいです。函館市の観光案内所みたいなところでも流れてたから、それをわたしが歌ったらヤバいんじゃないか?っていうことになって、“次郎”になったんですけど」
――そう考えるとめっちゃ感慨深い曲ですね……。新しくつけられた歌詞もおもしろいし。あの線路の脇に並ぶっていうのが謎だったんですけど、一瞬でも1人1人の前で歌うためにレールで移動するっていう意味なんですよね(笑)。
「そうそう(笑)」
――テンコさん自身も、できれば1人1人の前で演奏したいように見えます。
「そうですね。1人に向けてますね。100人いたら1人でも聴いてくれたらいいな……っていう気持ちでいつもやっていて。誰か分からないけど、その1人に向けてやってます」
――次郎ですね(笑)。
「うふふ(笑)」
――『工業製品』には「Good bye, Good girl.」も収録されていますけど、最初に出た時とマスタリングが全然違いますよね。今回の7inchはどちらのヴァージョンで収録されているんですか?
「『工業製品』のほうです」
――約3年前に始まった曲が、こうして立派なヴァイナルになるっていうのも感慨深いですよね。
「カッティングにも立ち会ったので、余計にそう思いますね。出来上がる瞬間を見て、“物”に対しての気持ちが変わりました。東洋化成に行って初めて知ったんですけど、もっと機械っぽくやっているのかと思ったら、“人”がやってたんですよ」
――皆さん手でやってる感じですよね。
「そう。1枚1枚めっちゃ人がやってるんだ!って思って」
――最近ヴァイナルを買う人がまた増えているとはいえ、基本みんなデータで聴くわけじゃないですか。テンコさんはどうですか?
「わたしもそうですね、データで聴くことが多いです。でも最近少し変わってきました。わたしはめちゃめちゃCDの世代で、だんだんデータが出てきて、っていう感じだったんですけど、高校生の時とにお小遣いで買ったCDって、今でもすごく大切なんですよ。でも20歳以降にデータで買ったものって、けっこう無くなっちゃったりするんですよね。PCが壊れたとか、移行がうまくいかなかったとか。それも、あれ?なんか無くね?みたいな軽い感じなんですよ。それヤバくない?って思うようになって」
――昔は宝物だったのに。
「そうそう。データで手に入れたものって、けっこうそういう感じ。CDで持っていると、ジャケの感じだったり、中の写真、デザインだったり、良いな、って思えるけど、データはそれ無いじゃないですか。ヴァイナルはCDが巨大になった感じで良いですよね。あのデカさって良いじゃないですか」
――音の面も良さがありますよね。一時期よりヴァイナルでプレイするDJもまた増えたし。
「最近ヴァイナルでDJしてる人を観ることが多かったんですけど、やっぱりかっこいいな、って思いました。たまたまそういう人の家の写真を見る機会があったんですけど、けっこう衝撃的で。みんな家がヤバいんですよ。レコードの隙間に道があるみたいな。でも、わたしがDJやるためにCDとかデータを集めるのを全部ヴァイナルでやってたら、エラいことになるな……って納得して。1年でもたぶんすごいことになるんですよ。それを想像してゾッとしたんですけど、わたしもこれからヴァイナル集めようと思って(笑)」
――テンコさんは機材もどちらかといえばアナログ志向ですよね。
「そうですね」
――実際に触れて動かすものが好きなんでしょうか。
「単純に、触れるほうが分かり易くて。理解はできないけど、ちょっと分かる、みたいな。PCはひとつソフトを持ってるんですけど、全然意味がわからなくてダメなんですよ。わけがわからないなあ……と思って」
――ハードウェアでの演奏も復権してますもんね。
「うん、気持ち分かります。やっぱライヴ感ですかね。わたしもライヴしてる感が欲しくて」
――ラップトップひとつで、っていうのがイケてた時代を経て、っていう感じもありますね。
「色々時代は巡るって言うから、そうなのかな、とも思いますけど。でもまあ、機材が増えるのは大変なことなんですよ。荷物がどんどん増えるから。増えるのも楽しいんですけど、飛行機乗る時とか、本当ヤダ~!ってなる時はある。でも困難があるほうが……」
――燃える(笑)?
「そうそう(笑)。わたしMっ気は全然ないんですけど。あと、PCだけでやっている人からしたら、ちょっとバカっぽいじゃないですか。ひとつの音を出すためだけに機材持ってくとか。それがけっこうおもしろくて。愉快だな、って思う(笑)」
――それはさっきおっしゃっていた、わくわく感に通じるかもしれないですね。
「うん、観る側としても、やっぱりヘンな拘りがある人が好きなので」
――テンコさんの周り、そういう人ばっかりですよね(笑)。
「そうですね(笑)。それがおもしろい」
――一番近いところで言えば、フロリダの相方、滝沢朋恵さんのアルバムは聴かれました?
「聴きました。やってるな!って思いましたね。同年代でやってる人ってけっこういないから」
――そうですか?
「いるにはいるんですけど、話が通じる、喋れる人がそんなにいなくて。同年代がいたとしても、バカっぽくない人が多いんですよ。ちゃんとしてるわ……みたいな」
――テンコさんだってちゃんとしてますよ(笑)。
「(笑)。う~ん、何て言うんですかね……綺麗にまとまってるというか……。何が良いとか悪いとか分からないけど、別にわたしは、おしゃれじゃなくていいと思ってるし……」
――テンコさんおしゃれです。
「うん、おしゃれ好きなんですけど……(笑)。“自分が好きだから着てる”っていうのが好きだから、同じに見える時があるんですよ。けっこう。よく観る上の世代の人たちは、みんなおしゃれだし、おしゃれじゃなかったとしてもその人の拘りがあったりするんですけど、同世代は同じものを着ているように見える時がたまにありまして……なんかちょっと言い辛いな(笑)」
――あはは(笑)。でも、うん、わかりますよ。
「それがちょっと苦手なんですよね。だから、たぶん会話に入れない気がする……と思って。みんなが“これ良い!”って言っているものが、全然良いって思えなかったり、やっぱりするんですよ。今これ流行ってるけど、めっちゃ良くないじゃん……みたいな。結局、綺麗にまとまってるのが売れるのかよ!とか。最近スカート(澤部 渡)めっちゃ良い!って思ったんですけど、それは生っぽい感じがしたからなんですよね。剥き出しっていうか。たとえ音楽をいっぱい知っていて、人間自体はおもしろくても、おしゃれにやってる感じ?だとちょっと苦手。聴いてる人にどれだけダメージを与えてるか、っていうことかもしれないですね」
――ダメージ。
「ダメージ(笑)?お前剥き出しだな!みたいなのが好きだったりするから。うまくまとまって綺麗なのを観て、みんながそれをイイネイイネって言ってる感じを見た時に、本当??ってなる(笑)。でも音楽って、そういうところで楽しいものなのかもしれないな……って思ったりもするから……」
――たしかに、そういう側面が無いとは言い切れないですよね。
「うん。だから、単にわたしがそうじゃないだけなのかな。日々葛藤というか。う~ん……て思うことは最近、増えました。前はそんなに思わなかったですけど」
――それは、自分がやっていることに対して肯定的になったというか、自信が芽生えたっていうことでもあるんじゃないですか?「Wa・ショイ!」って、ある種目覚めの歌じゃないですか。だから今回、テンコさんの原点である「Good bye, Good girl.」とのカップリングは象徴的というか、良い内容だな、って思ってるんですよ。
「どうなんですかね……。どんどん面倒臭い人間になっているんだと思う(笑)。でもまあ、面倒臭い人間が好きなんですよね(笑)」
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